第18話 コーヒーカップ
もちろん、コーヒーカップもお菓子で出来ていた。クルクル回るコーヒーカップに、リアは目を輝かせて乗っていた。
「うわぁ! すごい! 回る! コーヒーカップが回っているよ!」
「そりゃあ、そういうアトラクションだからな。まあ、俺も初めて乗るが、これが楽しいっていうやつの気持もわからんでもないな」
「へー、意外。あんたのことだから、てっきり『くだらない』とか言って馬鹿にするのかと思った」
「お前、俺のことをどんなやつだと思っているんだ」
「鬼畜」
「殺すぞ」
トラマルはコーヒーカップの真ん中にあるテーブルを回した。それと同時に、乗っているコーヒーカップの回転が速くなる。
「うわわわ。な、何、それ」
「説明を聞いていなかったのか? これを回すと、乗っているコーヒーカップが速く回転するらしいぞ」
「へー。面白そう。やらせてやらせて」
「好きにしろ」
グルグルグルグル。リアは力いっぱいにコーヒーカップを回転させる。それはコーヒーカップの限界に挑戦しているかのような荒っぽさだった。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
十分後。
「き、気持ち悪いぃ……」
「馬鹿か、お前は」
コーヒーカップのアトラクションの外で、リアは両膝を着いて顔を青くしていた。酔ったのだ。
「まあ、あれだけ回転させれば当然だな。調子に乗るからそうなるんだ」
「な、なんであんたはそんなにも余裕なのよ……」
「鍛えているからな。このくらい余裕さ」
「私も……鍛錬は怠っていないはずなのに……」
なおも顔を青くしているリアのもとに、ウサギのコスプレをしている町の人がやってきた。
「よろしかったら、これ、どうぞ」
ウサギの人がリアに差し出したのは、桃色をしたジュースだった。見るからに甘そうだ。
「あ、ありがとうござ……」
「いらん。水はこっちで用意する。俺たちのことは気にするな」
ジュースを受け取ろうとしたリアの手を遮って、トラマルの手が間に入った。睨むようにしてリアとウサギの人の間を遮断する。
「えー! な、何で!?」
「お前にこんなジュースは上等すぎる。水で十分だ」
「せっかくジュースが飲めるのよ? ジュースを飲みたいじゃない!」
「知るか。大体、酔っているときは下手に加工してあるものは口にしないほうが無難なんだ。水にしろ」
トラマルは竹で作られた水筒を取り出すと、リアに差し出した。リアはじっとトラマルを睨みつけたが、根負けしたかのようにその水筒を受け取った。
「わかったわよ」
「今後、俺が許可したもの以外は口にするなよ。目を離すと、その辺に落ちているものでも食べそうだからな」
「犬か、私は!」
リアは水筒の中身を一気飲みした。酔いも大分よくなったようで、いつの間にか両足で立っている。
「まあ、いいわ。さあ、次はあれに乗るわよ!」
リアが指差したのはジェットコースターだった。コーヒーカップで酔っていながら、さらに酔いそうなものを選ぶとは、怖いもの知らずといういうべきなのか、やはり単なる馬鹿なのか。
「水筒の水、足りるのか?」
トラマルは不安に思いながらも、リアに手を引かれて歩き出した。その様子は、何も知らないものから見れば立派なカップルだっただろう。
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