第17話 夢の国

「ビュレットの町へようこそー。ここは夢の国、魔法の世界ですよー」



 門をくぐると、動物のコスプレをしているかのような人々がトラマルとリアを案内してくれた。ウサギ、リス、フクロウ……。どこかの遊園地だろうか。


 目の前には大きな観覧車があった。ジェットコースターもあった。メリーゴーランドもあった。それらがすべてお菓子でできている。本当に夢の国の遊園地のようだった。



「うわぁ。面白そう。ねえ、ねえ、少しくらい遊んで行きましょうよ」


「お前、時間がないんじゃなかったのか? 俺はお前の行動原理がわからなすぎて混乱するぞ」


「細かいことは気にしない!」



 リアは目を輝かせてあちらこちらにあるアトラクションを眺めていた。最初はどれに乗ろうか、それを考えるだけでも楽しいようだった。



「残念だが、却下だ。乗りたければ、一人で乗れ」


「それもそうね。じゃあ、私はまずあのコーヒーカップに乗ってくるわ」


「俺はその間にこの町を出るがな」



 トラマルはリアと手を離して別れようとした。だが、その瞬間、先ほどまで好意的に接してきてくれた動物のコスプレをしている人たちが二人を取り囲んだ。



「え? な、何?」


「……」



 動物のコスプレ集団を代表して、ウサギが二人の前に出る。



「入場の際、説明は受けなかったでしょうか? あなたたちは、ここにいる間は夢の国の住人です。二人が別々に行動することは、夢の国の住人にふさわしくありません」


「あ、そういえば入る際に何か言っていたわね。もう忘れちゃったけど」


「俺は知っていながらあえて無視しようとしたのだが、まさかここまで厳格にルールを遵守することを求められるとはな」


「当然です。ここは夢の国ですから。住人も、夢の国にふさわしい行動をとっていただかないと」



 トラマルは何かを考えるように辺りを見渡す。観光客は自分たち二人しか見えない。他の人々はすべて動物のコスプレをした町の人々だ。この人数を相手にするのは得策ではないだろう。



「ということは、ここに入るときに説明された通り、この町を出るには……」


「はい。門で配りました、スタンプカードをすべて埋めなければなりません。一つのアトラクションにつき、一つのスタンプがもらえます。この夢の国を存分に楽しんだものにだけ、夢の国を出る権利が与えられるのです」


「……そうか。それならば仕方ない」



 トラマルは、納得はしていないだろうが、理解はしたような顔をしてリアの手を握った。少しだけ、リアの顔が赤くなる。



「馬鹿女。まずはコーヒーカップに乗りたいのか?」


「え? う、うん。まあ、そうだけど……」


「なら、乗るか」



 トラマルがリアの手を引いてコーヒーカップのアトラクションへと近づいていく。その行動に、リアはちょっとどころではなく動揺した。



「そ、そんな急に積極的になられると困るんですけど!?」


「いいからさっさと来い。今日中に十個のアトラクションを回らないといけないんだぞ。グズグズしている暇はない」


「で、でも、心の準備が……」


「知らん!」



 トラマルは、及び腰になるリアを引きずりながらコーヒーカップのアトラクションの中に入っていった。その様子を、動物のコスプレをしたビュレットの町の住人たちがじっと見ている。その目は、獲物を狙うような鋭い眼つきをしていた。

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