抄訳『突厥語大詞典』

犬單于 𐰃𐱃 𐰖𐰉𐰍𐰆

دِيوانُ لُغاتِ التُرْكْ Dīwān Luğāt al-Turk‎‎ 序

序文(v1-0001~v1-0037)

v1-0001

بِسْمِ اللَّهِ الَّرحْمَنِ الرَّحِيمْ

وَبهِ الْعَوْتُ


 一切の讃頌は、万物を超越し、全知全能の主に全て帰す。当世の人の中で最も健勝な者が病人になり、最も弁の立つものが口を利けなくなる時、神は、ハラールとハラームを明らかに述べたクルアーンを、ジブリ―ルを通じてムハンマドに授け、正道を明らかに示し、灯火と道標を打ち立てた。ムハンマド並びに品徳高尚な其の子孫に福を賜え、併せて彼らが永久に安康ならんことを主に願い奉ります。

 今、ムハンマドの孫、フサインの子マフムードの言を聞くことを請います。


v1-0002

 我は見届けた。神が幸福の太陽をテュルクの地より昇らせ、蒼穹は其の疆土の上で回る。神は彼らをテュルクと名付け、彼らをして君権を持たせ、当代の可汗は皆その中から出でる。神は彼らをして世人の意思を統御させ、万民の首領とした。神は正義の事業を行う上で彼らを支持し、彼らと共に奮闘する人々を重視し、併せてテュルク人の身の上に、全ての宿願を実現させ、悪人から危害を受けない様にした。有識者達に対して言う、テュルク人の矢を避けるためには、テュルク人の道を堅く守ることこそが、自明の理なのである。彼らは己の苦衷を吐露する為、併せてテュルク人の歓心を広く得る為、テュルク人と話す以外に良策は無いのである。誰が仇敵から逃れる為にテュルク人を見捨てようか?テュルク人こそ彼らを保護し、彼らを危難から救い出すのである。其の他の人は此れに随って庇護を受けるのである。

 我は嘗て信頼に値する一人のブハラの学者と一人のニシャプールの学者から、はっきりと聞いた。我等の神が重視する先知と聖訓の中から引用した次のような話である。先知は、世界の終末の兆候が語られ、末世の混乱とオグズ・テュルク人が出現しようとした時、嘗て言った「汝等テュルク語を学ぶべし、其れに拠って統治は長久に続くであろう」。

 この聖訓は言葉を伝えた者自らの責務である。もし此の聖訓が事実であれば、テュルク語を学ぶことは信徒の責務であり、もしくは、テュルク語を学ぶことは必要不可欠な理智なのである。

 此れに拠り、テュルク人の中でも、我は最も文辞に長け、最も思想を明確に表現することを善くし、生れつき聡明さを極め、且つ高貴な出自で、また戦いにも善く慣れてるばかりでなく、我はテュルクの城鎮や村落を遍歴し、テュルクやテュルクメン、オグズ、チギル、ヤグマー、クルグズ等の言語の語彙や韻律を調べ尽くし、且つ其れ等の言語に精通し、厳密な整理を経て、之を理論整然と成した。

 永遠の記念と不朽の宝物として、神の佑助を仰ぎ、我は本書を編纂し、之を『突厥語大詞典 دِيوانُ لُغاتِ التُرْكْ Dīwān Luğāt al-Turk‎‎』と命名した。

 先知の神聖な宝座に登り、ハーシム氏族の後裔にしてアッバース家の先達、我等が主人にして、我らが君主、ムスリムのアミール、奉天承運のハリーファ、ムハンマドの子、オブルカシム・アブドッラー陛下に、我は本書を献呈致します。神に願います。その地位が高みに在らんことを!栄耀栄華のもと長寿ならんことを!類まれなき政権の礎が盤石ならんことを!号令がしろしめす所が絶えず広がり反映せんことを!万民が限り無い恩沢により大いなる幸福を得ることを請い願います。彼の命令が全て実現することを請い願います。勝利のたびに忠実な朋友たちが歓喜に鼓舞することを請い願います。彼を怒り振るわせる敵に対し、神が卑しむことを請い願います。彼の福祉、威儀、力量、美徳及び其の偉業がムスリムを照らすことを請い願います。


 箴言、韻文、諺語、詩歌、民謡、叙事詩と散文の断片を以て、我は本書を飾った。併せて、それらを文字の規則に従って配列した。読者と関心を持つ人々が必要な語彙の検索の便を図る為に、我は数年間苦労を経て、見出し語を然るべき所に配列し、行間の奥から緻密に解釈して説明した。最後に収録語彙を以下の八部に分類した。

 第一、ハムザの部。神の経典の後塵を拝し、我もハムザから本書を編纂する。

 第二、サァッリムの部。

 第三、ムザッワーフの部。

 第四、ミサッラルの部。

 第五、三字の語彙の部。

 第六、四字の語彙の部。

 第七、グンニーの部。

 第八、二つの静符を帯びた語彙の部。

 我は各部を名詞と動詞の両類に分けた。先に名詞、後に動詞を配列し、順序に応じて若干の章節に分け、各章節は前後の順序に応じて配列した。人々はアラビア語の術後に通じている為、我も彼らの各篇章の表題の付け方を用いた。

 テュルク語はアラビア語と競う二頭の馬の様に駆け巡る様なものである。我は、ハリルの《كِتَابُ الْعيْنْ》という書物の体例に倣うつもりである。その書物は既に使われなくなった言葉も収録する。この様のするのは条理を明らかにするのに良いからである。しかし、閲読の便と人々の興味に随い、それらを圧縮した。今でも使われている言葉のみを収録し、使われてない言葉は省いた。この方針は理に適っている。

 読者への便宜の為、テュルク語の中で今でも使われている言葉と既に使われなくなった言葉を以下に列挙する。

 ارق ariq 掘割 今でも使う

 اقر aqur 馬桶 今でも使う

 قار qar 雪 今でも使う

 قرا qara 黒 今でも使う

 رقا raqa   もはや使わない

 راق raq 形容詞比較級の附加成分 今でも使う

 ازق azuq 食物 今でも使う

 اقز aquz   もはや使わない

 قزي qozi 仔羊 今でも使う

 قيز qiz 娘 今でも使う

 زقي ziqi   もはや使わない

 زيق ziq   もはや使わない

 「足跡は人の歩みを表す」と同じく、此処に僅かな例を挙げるに留めた。四字或いは更に多くの字で構成された言葉も此れに類する。

 手数を省き、頁数の無駄を無くす為、前人未踏の方式を採用し、新たな特殊な順序の元に本書を編纂した。

 本書を整合性を以て纏め、読者が使うに値する価値を具える為、幾つかの規則を定め、それらの新しい標準を提示する。各部族で使われる基礎語彙のみを収録した。此の様にして、言葉毎の簡潔さを重視し、向学心のある人の為に適切な方式を目指し、道を広げ、進取の志のある人が上る梯子を用意した。同時に、テュルク人の詩歌や歌謡を引用した。其れ等は、彼らの悲しみや喜び日々を語る深い意味を持つ諺語や格言であり、代々伝えられてきた教訓でもある。この外に、多くの短文も収録した。本書は新たな局面を切り開いて完成し、その価値と優美は極限の高みに達した。我は心血を注いだ作業に神の佑助があらんことを願った。一切の御力は偉大なる神に属し、神は我らの信念と最善を掌握する。


v1-0007

テュルク語の構造中で使われる文字に関して


 テュルク語の基本的な文字は十八個であり、テュルク文は此れ等の文字により組成される。これらの文字は以下の様に帰納できる。

  اخوك،اف،سمج،نزق،بذر،شتيا

 分解すると以下の様な形になる。

  (※回鶻文字、表記不能により省略)

  ا ف خ و ز ق ى ک د

  (※回鶻文字、表記不能により省略)

  م ن س ب ج ر ش ت ل

 これらの字はアラビア語の「ث،ت،ب،ا …」と同じである。上述の基本字以外にも、口語で使う非基本字が七つある。テュルク語では此れ等の字は決して少なくない。それは硬音の「ب ― p」、アラビア語の「ج ― j」(これの使用はテュルク語では極めて少ない)、「ز ― z」と「ش ― sh」の間の発音「ژ ― z」、アラビア語の「ف ― f」、点を帯びた「غ ― gh」、「ق ― q」と「ك ― k」の間の発音「ك ― g」、「ن ― n」と「غ ― gh」の間の発音と「ن ― n」と「ق ― q」の間の発音である「نك ― ng」である。テュルク人で無い者には最後の此の発音は困難に思える。

 この七つ字と上述の基本字の筆者法は同じでるが、点を加えることによって区別する。あらゆるテュルク語には「ث」の字は無い。同じく、閉塞音の「ظ،ظ،ض،ص」と喉音の「ع،ه،ح」も無い。「梟」を「اهي ühi」と言う人は、とても少ない。此の言葉は元来キフチャーク語の様に、「ك ― k」で発音する「اكي üki」である。ケンチェーク語では「火打石」を「جها chaha」と言うが、この種の言語は純粋ではない。また「眼病」を「اوه uh」と言うのも、発音が変異した言葉である。

 この外に、息継ぎの為、語末に「ه ― h」を加えることもある。例えば、鷹を呼ぶ時の「تاه تاه tah tah」、馬を呼ぶ時の「قره قره qurrih qurrih」がある。しかし、構造上「ه ― h」を帯びることは有り得ない。ホータン人の言葉の中には時々その音が現れる。何故ならば、ホータン語はインドの影響が強いからである。ケンチェーク語の中にも「ه ― h」音がある。何故ならば、ケンチェーク語も純粋なテュルク語ではないからである。もし「ث」の字を書く必要がある時、テュルク語では「ذ― dh」を用い、其の上に点を加える。「ض」の字は「□ ― dh」とも書き、其の上に点を加える。「ص」の字は「□ ― s」と書き、其の上に点を加える。「ه،ع،ح」等の字はテュルク文の「□ ― h」を用い、其の上に点を加えて区別する。テュルク語の文字をすべて集めると、以下の様な形式になる。

  (※回鶻文字、表記不能により省略)

 此の種の文字の書写の規則は、発音に依拠して無いにも拘らず、「ا ― elif」は開口符を表し、「و ― wow」は合口符を表し、「ى ― ya」は斉歯符を表す。類似の現象は、アラビア語の中の「اَبْ،اَخْ」等の言葉にも見られる。「هذا ابوك ورايت اباك و مررت با بيك」と書く時、動符を表示する為に字を添えるのである。古より、カシュガルから上秦に至るテュルク地域では、全ての可汗やスルタンの詔書公文は、皆この種の文字で書写される。

 テュルク語の語彙の中に、「اِشْباعْ イシュバーフ」、「اِماله イマーレ」、三つの動符で表す「اِشْمامْ イシュマーム」、硬読、軟読等の語音現象があり、更にグンニーの字、鼻化字、更には二つの静符の並列、「ق ― q」と「ج ― ch」の結合、「ب ― b」と「م ― m」、「ن ― n」と「ل ―l」の交替などの現象がある。全てこれらは関連する章節で叙述する。


v1-0010

動詞から派生した名詞


 名詞は二種類に分けられる。一つは原生名詞、もう一つは派生名詞である。動詞から派生した名詞は、動詞の後に十二種類の字の一つを加える方法で構成されている。

 「قلج qilich 刀」、「اوق oq 矢」等は原生名詞に属する。この類の言葉は其の他の言葉から派生していない。派生名詞は其の他の言葉から構成されている。この類の名詞の有るものは口語で使われ、有るものは文法と符合するが、使われなかったりする。凡そ使われるものは全て収録し、使われないものは省いた。この様な方法を採用することにより、文法に沿って類推できる言葉を探し出し、未収録の言葉を捨てるようにした。動詞派生の名詞は以下の十二の字を繋げることによって構成される。此れ等の文字は「ا ― elif」、「ت ― t」、「ج ― ch」、「ش ― sh」、「غ ― gh」、「ق ― q」、硬い発音の「ك ― k」、「ق ― q」と「ك ― k」の間の軟らかい音「ك ― g」、「ل ― l」、「م ― m」、「ن ― n」、「و ― waw」である。


  ا ― elif


 「بلكا bilgä」は「学者、賢者、智者」を意味し、此の言葉は「بلدي bildi 知った」から派生している。「اكا ögä」は、知謀が有り経験に富んだ人を指し、「اودي نانكني ödi nängni 悟った物事を」の単語の中の「اودي ödi 悟った」から派生している。

 「اوا uwa」は、砂糖を塗した食品の名称である。此の言葉は「اودي uwdi 捏ねた」から派生している。

 「ا ― elif」の多くと「「م ― m」は一緒になって、「ma、mä」の形式になる。「短髪、剪髪」の意の「كسما käsmä」は「كسدي käsdi 刈った」から派生している。目を遮らない様に額の髪を切り揃えることも「كسما」と言う。「اورما سج örmä sach 弁髪」も斯くの通り。此の言葉は「اوردي ördi 編んだ」から派生した。


  ت ― t


 「逃げる者」を表す「قجت qachut」は、「قجدي qachdi 逃げた」に「ت」を加えて派生した。

 「服装、身なり」を意味する「كزت käzüt」も同じ様である。「كزتي käzti 装った」に「ت」を加えて派生した。


  ج ― ch


 「熱した灰の中で焼くナン」の意味である「كمج kömäch」は、灰或いは同類の物の中に埋めることを意味する「كمدي kömdi 埋めた」という語幹に「ج」を付けて派生した。「喜び」を意味する「سؤنج sävinch」は、「سؤندي sävindi 喜んだ」の語幹に「ج」を付けて派生した。


  ش ― sh


 「知り合い」を意味する「بلش bilish」は、「بلدي bildi 知った」の語幹に「ش」を加えて派生した。

 「戦い」、「ぶつかり」を意味する「اورش urush」と「تقش toqush」は、「اوردي  urdi 戦った」と「تقيدي toqdi ぶつかった」の二語の語幹に「ش」を加えて派生した。


  غ ― gh


 「غ ― gh」には三種類の用法がある。

 1.動詞の後に加えた後、名詞に変える。

 「清さ、清らかさ」を意味する「ارغ arigh」は、「ارغندي نانك arindi näng 清らかな物」の中の「ارندي arindi 清めた」から派生した。

 「干し、乾き」を意味する「قرغ qurugh」は、「قريدي quridi 乾かした」から派生した。

 2.原生名詞の後に加えた後、場所を表す名詞を作る。

 例えば、「ييلاق yaylagh 夏営地、夏の牧場」は、「夏」の意の「ياى yay」の後に「غ」を加えて作った。同じく、「冬営地、冬の牧場」の意の「قشلاق qishlagh」は、「قش qish 冬」の後に「غ」を加えて作った物である。つまり、場所を表す名詞は、原生名詞の後に「غ」を加えて派生したのである。

 3.動詞語幹に「غ」を加え、更に「و」も加えて作る、工具を表す名詞。これはュルク諸語の共通の規則である。この種の方法で、動詞を名詞に変えると、ある物を作る工具の名称を表す。動詞「بجدي pichdi」の語幹に「غو ghu」を加えると「بيجغو pichghu 切る、断裁する道具」になることは一例である。「叩く道具」を意味する「ارغو نانك urghu näng」は「اردي urdi 叩いた」から派生した。

 軟音「ك ― g」を用いて「غ ― gh」の代用をする現象もある。動詞「كسدي käsdi 切り割った」から派生した「كسكو نانك käsgü näng 切断する道具」も一例である。

 「篩う道具」を意味する「اؤوسكو ävüsgü」もまた動詞「اؤسدي ävüsdi 篩った」から派生した。

 「ك ― g」と「غ ― gh」の用法に至っては、硬く読む言葉の後に「غ ― gh」、軟らかく読む言葉の後に「ك ― g」を加える。テュルク語の言葉の後に、「غ ― gh」或いは「ك ― g」を加える有様は、アラビア語の動詞の前に「م」を加えることと相似てる。例えば、「鎌」の意の「مِنْجَلْ」は「草刈り」を意味する動詞「نَجَلَ」の前に「م」を付けて作った。「籠、笊」を意味する「مُتْخُلْ」は、「濾す」を意味する「نَخَلَ」の前に「م」を付けて作った。「篩い」の意味の「مِنْسَفْ」は、「篩う」の意の動詞「نَسَفَ」の前に「م」を付けて作った。

 オグズ人は「ا」で、「غ ― gh」や「ك ― g」を代用し、また似たような方法で、「س」と「ى」を繋げた「سى si/sä」で「و」を代用する。例えば「木を切るもの」の意で「يغاج بجاسي نانك yighach pichäsi näng」と言い、「巻を割る斧」の意で「اتونك كساسي بلدو otung käsäsi baldu」と言う。

 時間を表す名詞、場所を表す名詞、及び動名詞は此の規則によって構成される。ハカーニヤのテュルク人と其の他のテュルク人の間、オグズ・トルクメン人と其の他の人との間では、上述の様な区別が有り、これは不変の規則である。神が許し賜うなら、続けて書き進める。


  ق ― q


 「ترغاق targhaq 櫛」は「سج ترادي sach taradi 髪を梳いた」という句の「ترادي taradi 梳いた」の語幹に「ق」を加えて派生した。

 「اورغاق orghaq 鎌」も斯くの如し。「اوت اوردي ot ordi 草を刈った」という句の「اوردي ordi 刈った」の語幹に「ق」を加えて派生した。


  硬音 ك ― k


 「切り取られた物」を意味する「كسك نانك käsäk näng」の「كسك käsäk」の動詞が「كسدي käsdi 切り取った」の語幹に「ك ― k」を加えて派生した。

 「遮蔽物」を意味する「اشك äshük」は「遮った、覆った」を意味する動詞「اشودي äshüdi」からの派生である。


  軟音 ك ― g


 「ترك tirig 活きてる」は「ترلدي tirildi 蘇った」から、「اولك ölüg 死んでいる、屍」は「اوردي öldi 死んだ」の語幹に「ك ― g」を加えて派生した。


  ل ― l


 「裂けた所」を意味する「بيجغيل يير pichghil yär」の中の「بيجغيل pichghil」は、「بيجيلدي نانك pichildi näng 裂かれた物」という語中の動詞「بيجيلدي pichghildi 切り裂かれた」の語幹に「ل」を加えて派生した。

 「多彩な物」を意味する「ترغيل targhil」も斯くの如し。此の言葉は動詞「تريلدي tarildi 撒かれた」の語幹から派生した。即ち、白黒二色が入り混じる様に、夫々の色が散在している様である。


  م ― m


 「敷き広げた物」を意味する「يذم yadhim」は、「広げた、敷いた」を意味する動詞「يذتي yadhti」の語幹に「م」を加えて派生したものである。「一切れの甜瓜」の意の「بير بيجم قاغون bir pichim qaghun」の中の「بيجم pichim」は、「切った」を意味する動詞「يجدي pichdi」の語幹に「م」を加えて派生した。


  ن ― n


 「洪水」を意味する「اقين aqin」は、「سؤ اقدي suv aqdi 水が流れた」の中の動詞「اقدي aqdi 流れた」の語幹に「ن」を加えて派生した。

 「土塊」を意味する「ييغن تبراق yighin topraq」の中の「ييغن yighin」は、「تبراق يغدي topraq yighdi 土が積もった」の中の動詞「يغدي yoghdi 積もった」の語幹に「ن」を加えて派生した。


  و ― waw


 この字は往々にして他の字と連用し、単独で使うことは少ない。「瀉血の道具」を意味する「سرغو sorghu」は、「ある動物から乳或いは血を吸い出す」意味の動詞「سردي sordi」の語幹に「و」を加えて派生した。「居住地、住処」を表す「ترغو يير turghu yär」という言葉も斯くの如し。


 北極星を取り囲んで回る蒼穹の様に、あらゆるテュルク諸語は全てこれらの規則を守っている。これらの規則は、二字、三字、四字、五字、及び更なる多字から成る動詞についても、遍く適用される。我は此処では要点を叙述するだけである。もし至尊至大な神の許しが有れば、以降の章節で更に詳しく述べよう。


v1-0017

幾つかの字で組成される語彙の問題について


 音が重ならない二字から成る語彙。例えば、「ات at 馬」、「ار är 人、男」等。

 三字から成る語彙。例えば、「ازق azuq 食物」と「يزق yazaq 罪過」等。

 四字から成る語彙。例えば、「يغمر yaghmur 雨」、「جعمر chaghmur 蕪」等。

 五字から成る語彙。例えば、「قرغساق qurughsaq 腹」、「قذرغاق qudhurghaq チャパンの裾」等。

 六時から成る語彙。例えば、「كملدرك kömüldürük 鞍の胸繋」、「قذرغون qudhurghun しりがい」。

 甚だしきは七時から成る語彙もあるが、その様な名詞は少ない。例えば、「زرغنجمور zarghunchmud ジャスミン」等。テュルク語の中では、語彙が七字を越えて組成されることはない。


v1-0018

名詞中の字余りについて


 長音符「مَدْ」或いは軟音符「لِينْ」は、名詞中の余分な字である。例えば、「تغار taghar 袋」、「جؤار chavar 引火物」等の語彙の「ا」は、長音符の作用のある字である。

 「قريغ qorigh 皺」、「اريق arigh 清い」等の語彙の中の「ى」、及び「انوق anuq 今有る」、「تنوق tanuq 証人」等の語彙の中の「و」は、軟音符の作用のある字である。

 名詞中のもう一つの余分な字は「أ」である。例えば、「اذغير adhghir 牡馬」、「اشغن ishghun 大黄」等の語彙の「أ」である。

 名詞中の別の余分な字は「ن」である。例えば、「بزغان bazghan 天人花の実」、「قزغان qazghan 水で浸食された土地」等の語彙の「ن」である。

 名詞中、更なる余分な字は「و」である。例えば、「ترقو torqu 絹織物」。「قرغو qurghu 軽弾み」等の語彙の「و」である。

 「ى」もまた名詞中の余分な字の一つである。例えば、「كتكي kötki 小丘」と「بركي burqi 顰めっ面の」等の語彙の「ى」である。

 「فَعالْ fäal」、「فُعالْ fual」、「فِعالْ fial」、「فَعُولْ fäul」、「فَعِيلْ fäil」等の形式で出現する語彙を読む時、その中の軟音符は省略してもよい。例えば、「يغاج yighach 木」は「يغج」と書いても好い。同じく、「يغوج yughuch 河の向う岸、谷の向う岸」は「يغج」と書いて好く、「قريغ qorigh 皺」は「قرغ」という形式で書いても好い。

 言葉は冗長よりも簡便が勝る。もし神がお許しならば、引き続き本書を書き続けよう。


v1-0020

動詞中の附加字と動詞の構成について


 動詞には、二、三、四、五字と六字から成る。動詞の後に付く字は十種である。

 「ا ― elif」、「ت ― t」、「ر ― r」、「س ― s」「ش ― sh」、「ق ― q」、「ك ― k」、「ل ― l」、「ن ― n」、「لا ― la/lä」、「ى ― ya」。

 これらの字は動詞に新たな意味を含ませるために附加するものである。


  ا ― elif

 「تبزادي täpzädi 嫉妬した」は「تبز täpiz 痩せた土地」に「ا」を加えて派生した。

 「قبزادي qobzadi コブズを弾く」は「قبز qobuz コブズ」に「ا」を加えて派生した。


  ت ― t


 この字は派生にも動名詞にも使われる。例えば、「ترغ ارتي tarigh arittti 穀物を清めた」の句の「ارتي」に「ت」を付け、「تون قرتي ton qurutti 服を干した」の一句の「قرتي」に「ت」を付けた。

 上述の語彙に「ت」を付ける前の原形は「اريدي aridi」、「قريدي quridi」である。


  ر ― r


 多くの場合、使役形にする為に、語幹に「ت」を加えた上に「ر」を加える。例えば「بردي bardi 行った」、「كلدي käldi 来た」から派生して「برتردي barturdi 彼を行かせた」、「كلتردي kältürdi 彼を来させた」になる。


  س ― s


 この字を動詞に附加することによって願望や要求を表す。例えば、「سوؤ اجسدي suv ichsädi 彼は水を飲みたかった」、「اش ييسدي ash yäsädi 彼は飯を食べたかった」等である。正にアラビア語の「تَفَاعُلْ」形式と同じく、「س」を動詞に加えると、有り得ないことや為し難いことにも使える。例えば、「ال مندين يرماق المسندي ol mändin yarmaq alimsindi 彼は我から銭を貰いたかったようだ」、「ال منكا كلمسندي ol manga külümsindi 彼は我を笑わせたかったようだ」。


  ش ― sh


 この字を動詞に加えることは、アラビア語の「مُفَاعَلَة」形式と同様で、動作が二者の間で起きたことを表す。例えば、「اوردي urdi 彼は打った」、「تردي turdi 彼は起きた」は、「اورشدي urushdi 彼らは打ち合った」、「ترشدي turushdi 彼らは立ち向かい合った」となる。

 動詞の此の形式は、時には自慢や競争の意を表す。この点は適当な所で再述する。


  ق ― q


 この字が動詞に加わると、失敗や屈辱を受けた意味を表し、「مَفْعُولْ」の使用と同様である。例えば、「ار اجيقدي är achiqdi 人が閉じ込められて飢えた」、「يلقي يتقدي yilqi yutuqdi 馬が餌が足りず痩せて死にそうだ」。

 この外、「ق」と「س」を連用する。例えば、「ار ارسقدي är arsiqdi 人が騙された」、「ار سيسقدي är soysuqdi 人が剥がされた(強奪に遭った)」。


  ك ― k


 軟音、弱音に発音する時、或いは「ك」を含む語彙の中で、均しく、「ك」で「ق」を代替して用いる。例えば、「قجغن ار يسكتي qachghin är yätsikdi 逃げる人は追われた」、「ال ار بلسكتي ol är bilsikti その人は知られた、即ち、その人及び隠された物が見つけられた」。


  ل ― l


 この字が動詞の後ろに加わると、受動態を作る。例えば、「ار اوق اتي är oq atti 人が矢を放った」の句の動詞「اتي atti」を作り変え、「اوق اتلدي oq attildi 矢は放たれた」となる。「بوز تقيدي böz toqidi 布を織った:の句の動詞「تقيدي toqidi」を作り変え、「بوز تقلدي böz toqildi 布は織られた(出来上がった)」となる。


  ن ― n

 この字を動詞の後に加えると、その行動は、他人の参与の無い状況で、実行者本人が完成させたことを表す。「ال يرماقن الندي ol yarmaqin alindi 彼は金を取った、又は自らの金を取り返した」、「ال مندين تؤارين قلندي ol mändin tavarin qolundi 彼は我から荷を探した」。


  لا ― la/lä


 名詞の後に、この附加成分を加えると動詞になる。例えば、「بيك قوشلادي bäg qushladi ベグは鳥を獲った」。この句の中の「قوش qush 鳥」は名詞であり、本来動詞の様に変化しない。しかし「لا」を加えると動詞になり、動詞と同じく変化する。これは一つの重要な規則では、必ず覚えなくてはならない。

 「بك كنددا قيشلادي bäg känddä qishladi ベグは城で冬を過ごした」の中の動詞「قيشلادي qishladi」は、即ち「قيش qish 冬」に「لا」を加えて派生した。


  ى ― ya


 この字は、「ل」と連用して「لي」の形式を動詞の後に加える。事情や動作が完了しようとしているが、未完了な状態を表す。例えば、「اول ترغالي قلدي ol turghil qaldi 彼は起きようとした」、「اول برغلي قلدي ol barghil qaldi 彼は行こうとした」等の句の「ترغالي turghil」、「برغالي barghil」等である。

 これらの規則を好く学ぶように。


v1-0025

語彙の構造に基づいた配列の順序について


 先に二字から成る語彙を列挙し、次に三字、四字、五字と六字の語彙を挙げた。中間に静符を帯びた語彙を動符を帯びた語彙の前に配列した。また中間に動符を帯びた語彙を、その動符の順序に従って配列した。然る後に、前方にハムザ等を加えた語彙を挙げた。この後に、第一と第二の字の間に字を加える語彙を置き、最後に第三の字に字を加える語彙を挙げた。

 本書は、此の様に語彙の構造に応じて順序に従って配列した。全ての篇章中の名詞も、この順序に応じて配列した。


v1-0026

字の配列の順序について


 本書は先人の後塵を拝して、アラビア語の辞典の編纂方式に倣った。「ب」を語尾とする名詞から始め、其の他の語彙を字表の順序に従って配列した。同時に語彙の語頭と語尾を考慮し、ハムザに近い字を其の他の字の筆頭に配列した。語彙と語彙の間で「واو عاطفه の連結作用を起こす و」を使わなかった。それはテュルク諸語では置き場所が無かったからである。このやり方で善いと思われる。


v1-0026

形容詞と見做せない形容詞について


 この類の形容詞は、各種目的の為、各種語彙を用い、様々な方法の構成を採取する。

 第一、偶然行われたことを表示。例えば、「بردي ار bardi är 行った人」から派生して「بردجي ار bardachi är 偶々行った人」、「كلدي ار käldi är 来た人」から派生して「كلدجي ار käldächi är 偶々来た人」等である。この類の形容詞は未だ予め叙述してない。

 第二、日常多く行われていることを表示。例えば、「ال ارال اؤكا برغان ol är ol ävgä baraghan 彼はよ、家に行っている」、「ال كيسي ال بيزكا كلكان ol kishi ol bizgä kälägän 彼の人はよ、我らの所に来ている」等の句の中の「برغان baraghan」と「كلكان kälägän」である。この類の形容詞も未だ叙述していない。

 第三、希望や願望を表示。例えば、「ال ار ال اؤكا برغساق ol är ol ävgä barighsaq 彼はよ、家に行きたがってる」、「ال كشي ال بيزكا كلكساك ol kishi ol bizgä käligsäk 彼の人はよ、我らの所に来たがっている」等である。この類の語彙も未だ形容詞として叙述していない。

 第四、ある事を為す義務を表示。例えば、「ال اؤكا برغلق ردي ol ävgä barghuluq ärdi 彼は家に行かねばならなかった」。この類の語彙も未述である。オグズ人は、この種の意味を表す為、「س」を「ل」に替える。また例えば、「ال يكت بيزكا كلكولوك اردي ol yigit bizgä kälgülük ärdi 彼の若者は我らの所に来なければならない」という句も斯くの如し。

 第五、ある事を行おうとしていることを表示。例えば、「من اؤكا بريغلي من män ävgä barighli män 我は家に行こう」、「من سيزكا كلكلي من män sizgä käligli män 我は貴方の所に来よう」。この類の語彙も形容詞として未だ叙述していない。

 これらの形容詞は全て動詞から派生したものである。如何なる動詞も此の種の頬𐰇に応じて様々な意味を持った形容詞として派生できる。

 ここでは形容詞の被修飾語について言及していない。もし、この規則の使用法や口語での用法を知りたければ、これらの規則について再述しよう。

 単数、複数、強調、比較、短縮及び変化に関わる問題は未言及である。此れについては我が別著『كِتَابُ جَواهِرِ النٌحْوِ في لُغَاتِ التٌرْكْ 突厥語語法精義』がある。神の恩寵を蒙り、文法規則は既に本書中で述べた。


v1-0028

動名詞と見做せない動名詞について


 動名詞は二種類に分かれる。

 第一種は、原生動名詞である。この種の動名詞は、動詞篇で過去形と未来形と一緒に叙述する。

 第二種は、本来、動名詞ではないが、正偏と組み合わせることによって出来た動名詞である。この種の動名詞は修飾語の意味も含む。我は只、必要に応じて説明を加えよう。

 「بردي bardi」、「برير barir」から生み出された形式「برماق barmaq」と「كلدي käldi」、「كلير kälir」から生み出された形式「كلمك kälmäk」は、どちらも原生動名詞である。

 正偏組み合わせ方式で生み出された動名詞を説明する為、幾つか列挙する。「منك برغم بلسا منكا تشغيل mäning barighim bolsa manga tushughil 我が行ったら、我に会いに来い」、「كيك كلكي بلسا اقتا käyik kälig bolsa oqta ガゼルが来たら、射れ」。これ等の句の中の「برغ barigh」、「كلك kälig」は、派生動名詞である。「تاز كلكي بركجيكا taz käligi börkchigä 禿が行く処は帽子屋」。この諺の中の「كلكي käligi」も派生動名詞である。

 此の種の動名詞の派生規則は、「ق」をイシュバーフ方式で帯び、語末を「ق」或いは「غ」で繋げるのである。「برغ بردي barigh bardi 行き行きた」。「ال قلن ارغ اردي ol qulin urugh urdi 彼は奴隷を打ち打ちた」。この句の中の動名詞「برغ barigh」、「ارغ urugh」は、動詞の語幹の後に「غ」を加えて派生した。「ق」或いは「ك」は、如何なる時も正偏と組み合わせた附加成分と結合して使い、「غ」の様に単独では使用しない。例えば、「انك يرقي نتك aning yoruqi nätäg 彼の歩みは如何?」。この句の中の名詞「يرقي yoruqi」の中の「ق」は、「غ」から取り替えたものである。

 「ك ― k」を帯びた語彙、或いは軟音「ك ― g」を加えた語彙。例えば、「اني سكك سكتي ani söküg sökti 彼を叱りに叱った」、「ال قلن تبك تبدي ol qulin täpig täpti 彼は奴隷を探しに探した」等の句中の「سكك söküg」と「تبك täpig」は、「ك ― g」を加えて派生した動名詞である。この種の動名詞は、強調や語気を表す。例えば「وكلم الله موسى تليما」という章句の形式と同じである。

 簡潔かつ体系的な見地から、此処では、これらの規則の要点を述べるだけにする。その他は他を参照すれば一目瞭然である。ここで示した規則と例文の根拠は、一切のテュルク語が共有する所である。もし神の許しが有れば、適当な所で再度論述しよう。


v1-0030

本書中で言及及び未言及の問題について


 本書では、ムスリム・テュルク人居住地の山脈、砂漠、盆地、河川、湖沼の名称のみを収録した。何故ならば、これらは常々会話の中に現れるからである。しかし、著名なものだけを収録し、そうでないものは省いた。同時に非ムスリム・テュルク人地域の一部地名も収録したが、多くは未収録である。それらを収録することは無益だからである。男性と女性の名前も全てを収録せず、ただ頻出し周知されているもののみを列挙し、正確な形式が解かる様にした。


v1-0030

テュルク人とテュルクの諸部について


 テュルクは元々二十部から成っている。元を辿れば、彼らの祖先は、ヌーフの孫、ヤフェスの子テュルクである。さしづめルーム人の祖先が、イブラヒムの曾孫、イスハークの孫、イーサーの子ロムルスの後裔であることと同じである。夫々のテュルクの諸部族は多くの氏族を抱え、その数は偉大な神のみぞ知る。私は主要な部族のみに言及し、氏族や支系は省略した。人々がオグズ・トルクメン人に理解する必要を鑑み、私はそれらの氏族とタムガについて後述する。その信仰がイスラムであるかどうかに関わらず、ルームの付近から、日の出の方に向かって、東方に住むテュルク諸部族を列挙する。ルームに最も近い部族は「بجنک pächänäk ペチェネク」、その次は「قفحاق qïfchāq クフチャーク」、「اغز oghuz オグズ」、「یمک yämäk イェメク」、「پشغرت bashqïrt バシュクルト」、「پسمل basmïl バスミル」、「قای qāy カーイ」、「یپافو yabāqū ヤバークー」、「تتار tatār タタール」、「قرقز qïrqïz クルグズ」等である。クルグズはチンの近くに住む。これらの部族の分布はルーム付近から東へ向かって曲がりくねった地域である。続いて「جکل chigil チギル」、「تخسي tohsï トフスー」、「یغما yaghmā ヤグマー」、「اغراق oghrāq オグラーク」、「جرق charq チャルク」、「جمل chomul チョムル」、「ایغر uyghur ウイグル」、「تنکت tangut タングト」、「ختی khïtay ヒタイ」等の部族がいる。ヒタイは即ちチンである。最後の「تفغاج tafghāch タフガーチュ」は、即ちマチンである。

 これらの部族は上述地域の南北の間に生活し、ここにそれらの分布地域を下記円形図の中に一つ一つ列記した。


https://pbs.twimg.com/media/Dg-Tn_IU0AA283N.jpg:large


v1-0031

テュルク諸語について


 最も明瞭且つ正確な言語とは、只一種類の言語が解かることであり、ペルシア人やその他民族と交流する人たちの言語ではない。凡そ二種類の言語に通暁し、都市の住民たちと交流のある人の言語は純粋ではない。「سغداق soghdāq ソグダーク」、「کنجاک känchǟk ケンチェーク」、「آرغو ārghū エールグー」等の部族は二種類の言語に通暁している。外国人と接触がある、並びに都市の住民と往来の有る「ختن hotān ホタン」、「تپت tübüt 吐蕃」、「تنکت tangut タングト」 人も斯くの通りである。彼らがテュルク人の土地に移り住んできた時期は比較的遅く、彼らの言語に関することは、別途適当な所で後述する。「جابرقا jābarqā ジャーバルカー」人の住む所は、とても遠く、マチンと海を隔てて相望む、我々には其の言語状況がわからない。

 チン人とマチン人の言語は夫々異なるが、其の都市の住民は、とてもテュルク語に通暁している。彼らはテュルク語の文書を使って、我々とやりとりをする。長城とチン附近は山河で阻隔されているので、ヤジュージュとマジュージュの言語についても、我々も判っていない。吐蕃人は独自の言語を持っている。同様にホタン人も独自の言語と文字を持っている。この二つの人々の話すテュルク語は流暢ではない。

 ウイグル人の言語は純粋なテュルク語であるが、彼らが互いに会話する時は、ある種の方言を用いる。ウイグル人は、本書の冒頭で紹介した二十四字の回鶻文字を使う。書物や手紙などには均しく此の文字で書写する。ウイグル人にはチンの文字と似た別の文字も持ち、公文書には皆この種の文字を用いる。異教徒のウイグル人とチン人以外は、この種の文字を知らない。以上、都市の住民の状況を述べた。

 草原の住民チョムル人の言語は、ある種特殊な言語であり、彼らはテュルク語にも通じている。カーイ、ヤバークー、タタール、バスミル等の部族も斯くの如しである、彼らも独自の言語を持ち、同時にテュルク語にも精通している。クルグズ、キフチャーグ、オグズ、トフシー、ヤグマー、チギル、オグラーク、チャルク等の部族は、ただ純粋なテュルク語だけを話す。イェメク、バシュクルト等の言語は彼らと言語と差が少ない。ルーム地域附近のブルガール、 サーワール、ペチェネク人の言語は、言葉の末尾を省略した別種のテュルク語である。

 言語中、軽妙なのがオグズ語で、正確なのがトフシーとヤグマー語である。

「ایلا īlā イーラー」河、「آرتش ǟrtish エールティシュ」河、「یمار yamār ヤマ―ル」河、「آتل ǟtil エーティル」河の諸流域から、回鶻の都市や郷村に至る地域の住民の言語もまた正確である。上述した言語の中、最も標準な言語はハカーニーヤ中央部の住民の言語である。「بلاساغون balāsāghūn バラーサーグーン」人はソグド語とテュルク語を使用する。「طراز tirāz ティラーズ」と「بيضا bäyzā ベイザー」の住民もまた斯くの如しである。「اسبجاب ispijāb イスピジャーブ」から「بلاساغون balāsāghūn バラーサーグーン」に至る間、「آرغو ārghū エールグー」の諸都市や郷村の住民全般の言語は純粋ではない。カシュガルには「کنجاک känchǟk ケンチェーク」語を話す村落があるが、都市の住民は均しくハカーニーヤのテュルク語を話す。ルームからマチンまでの間に住むテュルクの土地は、長さ五千ファルサング、寛さ三千ファルサング、併せて八千ファルサングにも及ぶ。私は円形図の中に其れらの位置を明記した。


v1-0034

方言の違いについて


 基本語彙の違いは甚だ小さく、語彙の違いは、音の交替や脱落として僅かに現れる。オグズ人とキフチャーク人の名詞と動詞の語頭の「ی ― ya」の音は、一律に「ا ― elif」或いは「ج ― j」に変わる。テュルク人が「旅人 یلکن yälkin」と呼ぶ所をオグズ人とキフチャーク人は「الکن älkin」と言う。テュルク人が「温水 یلغ سوف yiligh sūv」と呼ぶ所をオグズ人とキフチャーク人は「الغ سوف iligh sūv」と言う。テュルク人が「真珠 ینجو yinchū」と呼ぶ所をオグズ人とキフチャーク人は「جنجو jinchū」と言う。テュルク人が「駱駝の首筋の下の長い毛 یغدو yughdū」と呼ぶ所をオグズ人とキフチャーク人は「جغدو jughdū」と言う。この外、エールグー人の語彙の語尾の「ی ― ya」の音は、「ن ― n」に変わる。例えば、テュルク人が「羊 قوي qōy」と呼ぶ所をエールグー人は「قون qōn」と言う。テュルク人が「貧しい人 جيغای chīghāy」と呼ぶ所をエールグー人は「جيغان chīghān」と言う。テュルク人が「どれ? قایو نانك qāyū näng」と呼ぶ所をエールグー人は「قانو qānū」と言う。

 オグズ、キフチャーク、サーワール人は語頭の「م ― m」を「ب ― b」に変える。例えば、テュルク人が「私は行った من بردم män bardim」と言う所を彼らは「بن بردم bn bardum」と言う。テュルク人が「肉の汁物 مون mǖn」と言う所を彼らは「پون bǖn」と言う。オグズ人及び其の付近の人たちは語中の「ت― t」を「د ― d」に変える。例えば、テュルク人が「駱駝 تؤی tävä」と呼ぶ所を彼らは「دوی däwä」と言う。テュルク人が「穴 اوت ȫt」と呼ぶ所を彼らは「اود ȫd」と言う。純粋なテュルク語の「د ― d」の音は、オグズ語では往々にして「ت― t」と発する。テュルク人が「匕首 بکنا bükdä」と呼ぶ所をオグズ人たちは「بکدا büktä」と呼ぶ。テュルク人が「沙棗 یکدا yigdä」と呼ぶ所をオグズ・トルクメン人たちは「یکتا yigtä」と呼ぶ。類似の語彙は甚だ多く、これ以上逐一取り上げない。

 純粋なテュルク人の言語中、「ف ― f」と「ب ― b」の間の「ؤ ― v」音をオグズ人及び付近の民は皆「و ― w」と発音する。例えば、テュルク人が「家 اؤ äv」と呼ぶ所をオグズ人は「او äw」と呼ぶ。テュルク人が「狩り اؤ av」と呼ぶ所を「او aw」と呼ぶ。

 私は最も正確な形式の語彙を挙げただけである。これらの音が転換する言葉の中、音の交替の状況は以上の様なものである。

 ヤグマー、トフシー、キフチャーク、ヤバークー、タタール、カーイ、チョムル、オグズ人は「ذ ― ð」を用いない。皆「ذ ― ð」が「ی ― ya」に変わる。例えば、上述部族以外のテュルク人は「樺の木 قذنك qaðing」、「姻族 فزن qaðin」と呼ぶ所を彼らは「قينك qaying」、「قين qayin」と呼ぶ。キエフ・ルス、ルーム辺りのキフチャーク人、イェメク、サーワール、ブルガール人たちは、チギル人や他のテュルク人が「ذ ― ð」とする音を「ز ― z」とする。例えば、テュルク人が「脚 اذق aðaq」と呼ぶ所を彼らは「ازق azaq」と呼ぶ。チギル・テュルク人が「腹減った قرن تذتي qarin toðtī」と言う所を彼らは「تزدي tozdī」と言う。其の他の名詞や動詞も異常の様な物である。つまり、ヤグマー、トフシー、オグズと一部のエールグー人、チンと直に接する地域で生活する住民など、彼らの言語中ではチギル語の「ذ ― ð」の音が「ی ― ya」に変わる。またルームに接するキフチャーク並びに付近の部族の言語では、「ز ― z」に変わるのである。これらのことは後に再び述べることにする。

 ホタン人とケンチェーク人は語頭の「ا ― elif」を「ه ― h」に変える。テュルク語には無い音であるので、我々は彼らの事をテュルク人とは見なしていない。例えば、テュルク人が「父 اتا atā」と呼ぶ所を彼らは「هتا hatā」と呼ぶ。テュルク人が「母 انا anā」と呼ぶ所を彼らは「هنا hanā」と呼ぶ。

 「ر ― r」の音は時々「ل ― l」と交替するが、後に再述するる。「ز ― z」の音が「س ― s」に変わり、「س ― s」が「ز ― z」に変わる。この点も後に再述する。

 時間や場所を表す名詞に「~にすべき」の意味を加える接尾辞「غ ― gh」をオグズ人は「ا ― elif」に変える。テュルク人が「行くべき地 برغو یير barghū yär」と言う所をオグズ人は「براسي یير barāsī yär」と言う。テュルク人が「起きる時 ترغو اغور turghū oghūr」と言う所をオグズ人は「تراسي اعور turāsī oghūr」と言う。

 「ق ― q」と「ك ― k」、或いは「ك ― k」と「ق ― q」が相変わることがある。この点も適当な所で再述する。音の交替に関わる問題は此処で述べる。

 語彙から音が脱落する現象は、大凡、名詞と現在進行形動詞の「غ ― gh」の音が、オグズ語とキフチャーク語で脱落するのである。例えば名詞では、テュルク人が「寒烏 جمغق chumghuq」と呼ぶ所を彼らは「جوق chumuq」と呼ぶ。テュルク人が「喉 تمغق tamghaq」と呼ぶ所を彼らは「تمق tamaq」と呼ぶ。例えば動詞では、テュルク人は「彼は家へ行く者 ال اؤکا برغان ال ol ävikä baraghān ol」と言うが、オグズ人は此の句の「برغان ال baraghān ol」と言う所を「بران ال barān ol」と縮める。テュルク人は「彼の男は僕を愛する者 ال آر قلني ارغان ال ol är qulni uraghān ol」と言うが、オグズ人は此の句の「ارغان uraghān ol」と言う所を「اران urān ol」と縮める。同じ様に、オグズ人は言い易くする為に、名詞や動詞の中の「غ ― gh」と「ك ― g」を省いて読まないのである。

 これらは全てのテュルク語の主な決まりである。その他に決まりは後に改めて述べる。本書を解かり易くするために、私は「開口符」、「合口符」、「斉歯符」を帯びた語彙を「ا ― elif」で始まる語彙に纏めて各章に配置する。


 一切の御力は偉大なる神に属する。







































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