第30話 二通の手紙。
<アズサへ>
この手紙を読んでいるということは、私は死を選んだのでしょう。
最初に私はアズサに謝らなければなりません。
私はアズサの好意には応えられない罪人です。
昔、私には友人がいました。
光輝くような素晴らしい人格者で、将来を嘱望された人でした。私は彼をうらやみ、妬んでいました。
私は彼の異母弟に聖別していない魔物の肉を渡しました。異母弟が彼に魔物の肉を食べさせると知っていたにも関わらず。
教祖の指示ではありましたが、私の神力で聖別してしまうこともできました。それなのに私は、そのまま魔物の肉を渡し、気づかぬふりをしてしまったのです。
彼と魔物の肉を食べた者たちは、気が狂った者や、餓死した者もいます。自死した者もいます。死を選びたくなる程の苦しみを、私は彼らに与えてしまいました。
私は罪人です。本来なら神官と名乗る資格もありません。生きる資格もなかったのです。
私のことは忘れて、どうか幸せに生きて下さい。――エーミル
<ルクレツィオへ>
恐らく集団自決の後、一番最初にやってくるのは君だろう。少年の頃の古い約束を、君は忘れずに誠実に守ってくれると信じている。
直接会って謝罪したいと、ずっと考えていた。
許されないことをしたと、今でも思っている。
次代の王冠、人望、国民からの信頼。
私が渇望するすべてを持っている君をうらやみ、妬んでいた。
教祖の部屋の壁に隠し部屋への扉があり、さらに隠し棚がある。その中に、君の異母弟であり私の弟フルヴィオと、共謀した貴族たちの名が記された誓約書が隠されている。誓約書は私の神力で保護しているから、書き換えが一切できない動かぬ証拠として使えるはずだ。
謝罪にもならないが、私が教祖に誓約書を書かせるようにと進言した。
同じ場所に隠されている帳簿には、フルヴィオと貴族たちが外国から不正な金を受け取っている記録が残されている。こちらも証拠として使えるだろう。
私は自ら死を選ぶ。この死の先に、何があるのかはわからない。銀の神など、元から信じてはいない。君の生きる世界から姿を消すことを、身勝手ではあるが、私の贖罪として受け取って欲しい。
この世界に未練はないと言いたいが、ただ一つ、御神刀の巫女アズサを残していくことが気がかりだ。清らかな精神と体を持つ、優しい女性だ。どうか君の保護を求めたい。
もう一通の手紙をアズサに渡して欲しい。アズサは手紙の存在に気が付いても、他人の物を許可なく見るようなことはしないから、君が渡してくれなければ、手にすることもないだろう。
ただ、私の所業を知られたくないという思いはある。このまま何も知らずに、私のことを忘れてくれればいいと願う気持ちもある。手間を掛けて申し訳ないが、判断は君に任せる。
君の幸せを願っている。 ――エルヴィーノ・タティウス
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