ヌイグルミ
ドラマがドラマとは思えないほど、現実とリンクしていることがある。今の私が、そうであるように。あまりにも辛くて、切なくて。それでも頼れるものがなくて。家族がいるから、泣こうにも泣けなくて。心の中で、大粒の涙を静かに流している。でも、そんな姿、誰にも見せたくないから。必死に我慢する。優しい友達は励まそうとしてくれるけれど、涙で埋め尽くされた心には届きはしない。胸いっぱいの愛さえも、今の私には通り過ぎてしまうのだ。匿名性の中に放り込まれた、無意識の一言。それが、命さえも脅かす。放り込んだ人は気付かない。「貴女だけが味方だからね」とヌイグルミに語りかける。その腕で、優しく頷かせる。あまりにも虚しくて。結局、親さえも私の味方なんかじゃない。むしろ、逆なのかもしれない。同情なんて、いらない。切なさとか、悲しさとか、虚しさとか。そんな言葉では表しようのない空っぽの感情が心の中を支配する。結局、その夜は朝になるまでヌイグルミを抱きしめ続けた。
次の朝がやってきた。制服に着替え、簡素な朝食を口にする。コンソメスープが熱くて、思わず噎せそうになってしまった。慌ててティッシュで口を抑え、咄嗟にミネラルウォーターで流し込む。些細な理由で朝から親と喧嘩してしまい、憂鬱な気分は加速する。傷ついた気持ちを中和してくれるものは何もない。私は逃げるように家を出た。無心で自転車を漕いでも、その気持ちは収まるどころか逆に酷くなっていくばかりで。青空がねずみ色に染まってきた頃、学校に到着した。教室に入ると、私の机には見慣れた落書きが蠢いている。そして、誰かの笑い声が聞こえてきた。あえて気付かぬフリをして、消しゴムで落書きを消そうとする。すると、後ろから「ドンッ」という衝撃が身体に伝わって、私は思わず振り向いてしまった。そして、墨汁の混ざった水が頭から降ってきた。
それから何があったかは皆さんの想像にお任せするとして、私はもう全てがボロボロでした。どうせ必要とされていないのだからとか、私にはこれしか価値がないのだからとか、自分の全てを否定したくなってしまうのです。友達はいても、孤独感は消えません。恋人なんか、一生できないのですから。私の頼れるものは、このヌイグルミだけ。夜、山積みの課題を終わらせたあと、そっと貴女を抱きしめるの。今しかない、女の子でいられるときは。抱きしめて、抱きしめあって。本来の色を失った制服が、私を現実に引き戻そうとする。嗚呼、このまま永遠にこの子と生きていければいいのに。ヌイグルミさん、あなたにお名前を付けてあげなくっちゃね。
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