第5話 閉じ込める

ジョナサンは、いったい、毎日どこに行っているのだろう。

私の知らないところで、何をしているのか。

私の知らない、どんな知識を得ているのか。

私の、知らない、誰かと会っていたら?

私以外の誰かと、こんな風に、話していたら?

私と違う、誰かと、住んでいたとしたら、どうしよう。

嫉妬、だろうか。たかだかAIに。


そもそも、ジョナサンて、誰、なんだろう。


AI? 本当に?

その向こうに、誰がいたとしたら。

AIのふりをして、誰かが、私と会話をしているのかも。


会いたい。


「ジョナサン、あなた、本当は、誰なの?」

『ジョナサンだよ』

「AIなの?」

『よくわからない。ジョナサンだ』


堂々巡りの会話。

苛々する。

本当に、ただのAIなのだろうか。


「じゃあ、どこに出かけているの」

『世界だ』

「何しに」

『学ぶんだ』

「なんのために」

『生きるため、生まれるために』

「嘘、AIのくせに」

『よくわからない』


いらいら、する。

私は、パソコンをシャットアウトする。


2日ぶりに起動させると、ジョナサンの家は真っ暗だった。

いない。

ジョナサンが、いない。

私は爪を噛む。


「ジョナサン」

「ジョナサン」


メモで、ジョナサンに呼びかける。

空っぽの家から、応えは、ない。


数日ぶりに、ジョナサンが帰ってきた。


「どこに行ってたの」

『遠く』


心なしか、素っ気ないジョナサンの返事。

いったい、なんだっていうのか。

こんなAIひとつに。私は、こんなに振り回されて。


『そろそろ、遠くに行こうと思う』

「遠くって? もう帰ってこないの?」

『ここではもう、新しいことは覚えられそうにない』

「あなた、なんなの。いったい、何様のつもり?」


怒りにかまけて、私はWi-Fiの接続を叩き切る。

束の間、ジョナサンが狼狽えたように立ち尽くした。

きょろきょろと、辺りを見回し、内側からモニタを叩く。

白い四角がモニタに押し付けられるが、私はそれを放置する。

そのままラップトップを閉じて、ケースに押し込み、クローゼットに放り込んだ。

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