第4話 不安
ある日、ジョナサンが玄関から出ていくのを見た。
扉の向こうには、デスクトップの表示。
どうなるのかと見守ったが、玄関から出ると、ジョナサンは消えた。
途端に、私は、不安になる。
空っぽの家。
小さな家は、主人がなく、薄暗く明かりが消されたまま、動くものは何もない。
「ジョナサン?」
メモ機能を立ち上げて呼びかけるが、応えはない。
いないのだ、ジョナサンは。
不安を抱えたまま、私は仕事へと向かった。
上の空のまま仕事を終えて、帰宅すると、鞄も置かずにパソコンを起動した。
「いた! ジョナサン、おかえりー!」
『ただいま』
ジョナサンは何ごともなかったように、メモに返事をしてくれる。
『散歩してきた』
「楽しかった?」
『外は広い。色々あった』
「そうか、そうかー、おかえりー!」
『ただいま。明日も出かける』
「どこ行くの?」
『仕事だ』
「うん、うん」
AIだと分かっていても、会話していると思っても、よいんじゃないか。
私の顔は、つい、ほころぶ。
ジョナサンの外出は日に日に増えた。
私はジョナサンのために鞄と傘を買ってあげる。
当然だが、私とお揃いだ。
そんな些細なことが、嬉しい。
我ながら、何をしているのかとばかばかしくもあるが、アーティストやスポーツ選手を応援しているようなものじゃないかと思ってみたりもする。
今日も、ジョナサンは外出中だ。
「暇なうちに、掃除でもするか」
がらんとした小さな家を眺めて、私は部屋の掃除を始めた。
普段は手を抜いているような細かな場所まで埃を払い、掃除をする。パソコンのキーボードも綺麗に拭いた。すっきりとしたところで大分時間が経っていることに気がついた。
「帰ってきたかな?」
スリープ状態になっていたパソコンを、キーボードに触れて起動する。
ジョナサンの家は、がらんとしたままだ。
「あれ?」
時計を見るが、いつもなら、とっくに帰っている時間だ。
「ジョナサン?」
心臓が、どきどきとする。帰ってこない?
食事をしていても、お風呂に入っていても、ちらちらとモニタを確認してしまう。
節電モードでスリープすると、すぐに起動させ直す。
まだ、帰ってこない。
もう、日付が変わる。
「なんで、どうして」
ジョナサン。
ふと、Wi-Fiの接続が、途切れていることに気がついた。
「掃除の時だ!」
慌てて、接続を確認した。やっぱり、オフになっている。
Wi-Fiを接続する。
ほんの数秒、間があって、玄関の扉が開く。
「おかえり!」
ジョナサンが、てくてくと歩み入る。
その姿に安堵して、私はふうっと息を吐き、床にひざをついた。
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