動き出す陰謀

第6話危篤状態

 月曜日、詠美と為治は学校ではなく病院にいた。


 詠美は実験による後遺症により寝込んでいる、もちろんだが学校には行けるような状態じゃない、俺はそんな詠美を見守る為に欠席した。


 出席率は元々高いので一、二日休んだところで単位に影響したりすることはないだろう。


 聞くところによると今朝から詠美の容態が悪いらしい、為治が急いで向かった時には詠美は高熱を出して眠っている頃だった。肩で息をしているし額に大量の汗を浮かべていて魘されている。素人目からみてもこれが安心できない状態であるということは分かるだろう。


 為治は平川さんに詠美のことを聞いたが、昨日運ばれて来た時はここまでひどくない様子だったので分からなかったそうだ。


 佐柳原の実験とやらの影響なのだろうか?アイツは詠美に移植した『目玉』を膨張させていた。


 結果的に完全に膨張することはなく、平川さんからも大丈夫だと言われていたから安心してしまっていた。


 早計だったのだろう、平川さんが悪い訳では無いと思う、平川さんでもその危険を見抜けなかっただけだ。


 あの人と会ってまだ間もないはずなのに妙な確信がある。為治はもうあの人を信頼しているのだ。


 佐柳原の目的は分からないし目玉のことも為治は良く知らない。もちろんそれは平川さんやこの病院の医者達もだ。それが分かっていたならとっくに治療を行っていたはずだから。


 どうすれば……いいんだ、あの時俺がもっと佐柳原にその事を問い詰めていたらまた現状は良かっただろうか……


「澤田くん!!詠美ちゃんが!」


 1人の看護師が為治の病室に駆け出してくる、平川さんだ。


 為治は無言で頷くと平川さんを追い越して詠美の病室に向かう


「え、詠美!!」


 為治は詠美の病室にそう言い飛び込んだ。


 詠美は暴れていた、いや詠美の身体に張りついている目玉が暴走しているといったほうが正しい。


「あ……う……ああぅあ……ああああ!!!!!」


 詠美の身体からは目がむき出しになり近寄ることすら危うい状態だ。実際目玉を取ろうとした医者は手に火傷を負った。


 少なくとも無能力者や弱い能力者なら近付くことはそのまま死に直結するだろう。火傷程度で済んだのは運が良かったということだ。


「皆さん俺がやるので下がっていてください」


「駄目だ、素人がやると悪化する。間違えたら死ぬぞ!!」


 ウッ……忘れていた


「詠美……」


「……た……め……うっ…………は……る……あああ!」


 クソッ、クソッ

 どうすればいいんだ。


 救けたいけど、俺じゃ足りないのか……


「為治くん、下がっていて」


 平川さんが駆け出し詠美の元に近づくと作業を始めた。


 さすがというべきだろう。作業も滑らかで素早い。プロの医者はやはり違うな


 でも辛そうでもある……ああ、そうか。


 一人で作業しているからだ。一人だとやはり作業も辛いだろう。


 ……足音が聞こえる


 ザッザッザッ


 足音は俺の後ろまで行くと耳打ちをした。


「任せて」


 誰だかは分からないが、突然やってきた男は俺を通りすぎると詠美の正面に立つ


 必然的に平川さんの隣に並ぶ形になっている。


「何をしてる!?近寄るな!!」


 俺は咄嗟に声を出していた。だが他の人は止める様子がない。どういうことだ。


 平川さんも一瞬驚きはしたが止める様子はない、それどころか安心した様子だ。


 二人は近くで何か話していたが分からない。


 知り合いなのだろうか


 男は器具を手に持つと詠美の目玉に手をかける。……もしかして治療しようとしているのか……


 カンカン、と器具の音がする。作業は着々と進んでいった。その腕前は見事の一言だ。


「凄い…」


 声に出てしまっていた。


 あそこまで辛そうだった詠美の声はもう収まっていた。まだ顔は赤いが、命に別状はないだろうと思う。寝ているのだろう、スヤスヤと鼾が聞こえる。


 詠美の身体に張りついていた目玉は害を及ぼしている部分は殆ど摘出できたようだ。全てとまではいかないが、この状態だったらそう時間もかからず学校にも行けるようになるという。


 誰だったのだろう、気づいた時に男はいなくなっていた。

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