第5話狂気の実験
為治は普段から比較的早起きなのだが今日は珍しく遅く起きた、それも八時頃だ。
今日が平日であったなら確実に遅刻をしていたような時間だと思う。
母はやはり仕事か出掛けている。
父は日頃の疲れで寝ている。
為治は休日は勉強をしていることが多いが、今日はなんとなく外に出たい気分だったので早めに勉強を切りあげて外に出た、久々にいい天気だ。気分も自然と高まるというものだろう。
特に目的はないがとりあえず近くの公園に寄ろうと思いゆっくりと歩き出す
──────
最初の内は何人か歩いて行くと徐々に誰も見えなくなる、公園に着くと人は俺しかいなかった。ここら辺はあまり人が寄らないような場所なのでまあ予想通りだったのだが···
俺は公園のベンチに腰掛けた、ベンチは木陰にあるので木のあいだから流れてくる風が心地よい。
俺がそのままベンチに腰掛けていると、一人の女の子と男が入ってくる。
(あれは···詠美!?)
よく見るとその女の子は俺の彼女の詠美とその親戚らしき男だ。前に親経由で会ったことがあるので知っていた。
次の瞬間に俺は公園を出て詠美と男の後をつけていた。
しばらく追いかけていると詠美と男は怪しげな建物へと入っていった。
建物はあまりにも壊ていたが電気とガスなどは着くらしい、詠美と男をあとを追うと下に続く階段があった、俺は周りを見ながら詠美と男のあとについていった。
着いた先は広く明かりのついた何らかの機械がある、それに血生臭い匂いが絶えない、
俺は機械の物陰に隠れ話を聞いた
「………番、おまえは選ば………人間なんだ…それだけでいい、これ以上………出さないように慎重に扱う………さぁ胸元を……移植したあの目玉は……」
少し遠い事もあり、所々聞こえない部分がある。
為治は慎重に話が聞きやすい場所へと移動する。
「……嫌」
「見せろ、これは命令だ」
男は威圧感を含めた声でそう言う。
「……だけど…痛いことするのは…嫌よ」
「大丈夫、調子がよかったらすぐ終わるから、早く見せてくれ」
「……ぅぅ」
詠美は服を脱ぎ胸元を見せた。
「おぉ成長してるではないか、最初に埋め込まれた時はこんなに小さかったのに、今では目まで開いて活動しているではないか。このままいけば心臓にもくっつくかもしれないな」
「…あの……」
「さて、実験しようか少々手荒いが我慢しろよ」
詠美はその言葉を聞いたら顔が青ざめた
「ぇ……外してくれるんじゃない…の…………ぃ……嫌…よ…あんな…こと…するのは…」
詠美は建物内に反響するほどの大声で悲鳴を上げる。
「取り押さえろ」
その一言と同時に仲間と思しき者達が詠美のことを取り押さえる。
「…い…嫌ぁぁぁ!嫌よ!あんな痛いの耐えられない!今すぐ離してぇぇっ!お願いだからぁ!…」
「おまえは実験材料だ、生きているのなら使うまでだ、おまえに人権はない」
「こんな所にいたら私は……私…は………誰かっ…助けて……」
「誰も助けに来ないよ、来るとしたら我々の部下だけだ」
「うっ……ぐすっ……」
詠美の瞼はもう赤くなっていた。
我慢出来ない……
「やめてくれ、今すぐに」
俺は耐えきれなくなり姿を表した
「おお、澤田くん、なんでここが分かったのかな?」
「アンタと詠美が歩いている姿が見えたんでな、尾けさせてもらった」
「そうか、君は本当にタイミングがいいねえ、いやこの場合は悪いと言った方が適切かもね」
男はニヤリと笑う。
「御託はいいからさ、とっとと詠美を返せ」
「はあ、仕方ねえ、実験が終わったら二十八番は返してやるよ、ただし生きていればの話だ。お前は大人しく見ていろ」
「何…詠美に何を…する気だ…?」
為治の問いに対して男は再び不気味な表情で返す。
「目玉の膨張だよ。そろそろ心臓にまで届く寸前で手を出せば28番の肉体は目玉に支配される」
「それで…どうなるんだ…」
「それ以上の内容は言えんな…ただ言えるのは詠美の生命を保証することはできない、ということだ」
「それはっ、むぐうっ!」
佐柳原は詠美の口に手を押さえた
「黙りたまえ」
再びそう言い、詠美の口を取り押さえる。
「今すぐに目玉を外せ」
「おや?視力を失うけどいいの?」
茶化しやがって……
「顔の目玉じゃない、胸元の目だ」
「それはいかんなぁ、たとえ取り出したとしても激痛が走りその痛みで死ぬかもしれない」
「ひっ…えぇ……」
詠美の顔は恐怖で青ざめて今にも倒れてしまいそうだ。許せない
「付けれた癖に外せない、その上確実性の薄い実験、そんな実験をなぜ続けるのか、生命を軽く見るな!詠美もその他の人達もお前は玩具(オモチャ)なんかじゃあないんだよ!」
「確かに確実性は低いが成功した時に得られる物が多いんだよ、それに人間が恐怖に顔を歪め死んでいく様は中々に壮観だぞ?」
コイツ……本格的に狂ってやがるッ……!
「俺は絶対に帰らねぇ、詠美を取り戻すまでは」
「仕方ないねえ、実験が終わったら28番は返すよ、ただし生きていればの話だ。」
「…詠美に何かあったら本気で許さねえぞ…?」
俺の心は今、怒りの炎に燃えていた。
「もういい…すぐに詠美を返してもらおうかッ!」
「……為治!」
一歩踏み出したその時であった
体の力が抜け肩がえぐれている
俺は何が起こったか理解できずに倒れた、音なく銃弾みたいなものではない、一体なんだ…
…俺はまだ意識がある、詠美の叫びが聞こえる。
「こいつを運んでやれ、特別に二十八番の実験を見せてやろう」
──────
身動きが取れない…どうやら拘束されたようだ。
座った状態で腕を後ろに組まされている。
窓を覗いてみる。
その部屋は廃墟した手術室のようで様々な器具が置いてあった、見える中では手枷、足枷は勿論、そして拷問台のような物があることが分かる。
詠美はベッドで倒れて手足を頑丈な鎖で拘束されている。
あと詠美の胸元の目玉に使うのだろうスポイトが置かれていた。
「さあ、見たまえ、もう二十八番の実験を始めるからな」
「……ひぅっ…」
詠美は泣きやみ落ち着いた
「意識を落とすなよ、落としたら死ぬから」
「……」
「よし、始めようか」
そういった男はパソコンを操作し機械を動かしている、その一部の黒ずんだスポイトらしきものが詠美の胸元の目玉に一粒かける。
「ぁぁぁああああああっ!!」
目玉は勢いよく暴れ始めた、黒ずんでいたアザは胸元にかけて広がりを見せていた。その副作用でとてつもなく痛覚を刺激される。
その痛さは地獄で火傷を負い肉がゆっくりと斬られているような感覚
「ぁぁああああああッ!!痛いぃぃっ!いやぁぁァァァッ!」
その痛みに詠美は耐えている。体を動かし、叫び、そして泣き、助けを求めている
「ぁぁあああああああ!!」
涙から血が出始めた
目玉に侵食されないように気絶させないために肉体に痛みを与え、刃物で切りつけ
肉を潰し手足の神経を崩していく…、
返り血が激しい、まるで限界まで入った水風船が破裂したかのように機械が動き、棒みたいな物が叩きつけられ鈍い音がした
「いぃぃあああぁぁっ!!」
さらには腕の骨、脚の骨を折ったりとした、真っ二つに折れるまで…
肉体の色が変わりはじめ濃く気味悪くなってきた
もうダメだ……
俺は自分につけられていた拘束具を無理矢理破壊する、思ったより強い拘束具でもなかったようだ、俺が能力者だと知らないで軽くみたということか……!
そのまま駆け出し、佐柳原の手を掴み持ち上げようとするが……
「あまり俺を怒らせるなよ」
男は俺の背後から腕を絡まして組み付き行動を封じた。
この男、相当強い……
男はそのまま俺を地面に叩きつける、
『やむを得ないか……』
「あ、なんか言っ………」
次の瞬間俺に組み付いていた男の身体は突然『刃(やいば)』によって斬られた。
今、為治は刃を創り出し男を斬りつけた。
「な……にを………」
「俺の能力によってお前は切られたんだよ、見てわからないのか……」
「刃……だと……」
為治は自信ありげにそう言い切る。
「ああ、そうだ、なるべくなら使いたくなかったんだがな……」
「……フッ」
男は不気味そうに笑いながら言った
何だ…顔が変形して
【ヒヒッ…ヒヒヒハ、そうか!てめぇは能力者だったのか!そして刃を使う能力なのか!イイ能力してるネェ!】
どうやらこれが佐柳原の本性らしい
【君は面白いけど俺の実験を邪魔するようなら殺してしまうことになるッ!引き返すなら今だぞォ……?】
「……そんなんで俺が引き返すとでも思っているのか?つまらない冗談は地獄に落ちてから一人で言ってろよ」
俺はそう言うとそのまま、佐柳原の方へ刃を放つ
【チッ、実験を一時中断ダ!俺の実験…邪魔をしてテメェの相手してやるかぁ!ァ?】
放った刃はバラバラになり破片が俺の方に戻ってきた。
「…っ!」
【へっ!効くわケねぇんだよッ!こんな弱っちィ刃なんてよォ!】
負傷はしたがまだ戦える、が詠美が心配だ…
どうにか詠美を取り戻してここ(廃墟)を出るしかない…だがどうすればいいか…詠美は深く傷ついている…医者では直せないほどに…
見殺しには出来ない…どう詠美を助ければ…
【何ィ考えテいるンだ!?こないのならコちらかラ仕掛けテやろう!!】
そう言い手を伸ばし俺の首を掴んだ
「ぐぅっ…」
もう少し速ければ…
【…?何か煙クセぇな?どこカら…!】
飛び散った破片が機械に入り故障した
【これジャあ実験ができねェ!どうにか28番ヲっ!】
「させねぇ…!」
俺は最後の力を振り出し、刃で詠美を覆うように守った
【グっ…】
佐柳原は煙が充満して息が出来ないせいで苦しそうだ、そしてそのまま駆け出していくのが見えた
俺と詠美も早く脱出しないと……
俺は精一杯歩こうとしたが思うように力が入らない、詠美も俺と同じく歩けないようだ。
クッソ、俺はともかく詠美だけは……
全力を込めたつもりだったが無駄だった、立てない、動けない……
詠美は無事だろうか…
意識が遠のいていく……
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