第4話詠美と謎の男

 今日は忙しく動いたな


「さて、ゆっくりと帰るか」


 そう言いつつ帰り道を歩いていると、前方から誰かが歩いてくる。周りが暗くなりはじめているからか正体が分からなかったが、為治の目の前を通るかといったところで電灯により、その顔が照らされる。


 長い髪を指に巻きながら詠美は視線をそらして言う。


「今日よかったら…お店、行かない…?」


 詠美が隣を歩く為治に向かって笑顔で問いかける。


 為治は少し驚きながらも平静を装う。


「お店か…勿論いくけどどこら辺の店かな?」


「最近人気のデパートいくけど…そこでいいかな?」


「あぁ行ける、何時くらいに来ればいいんだ?」


「えっと………五時くらい……かな?」


「わかった、じゃあ…」


「駅に集合で……いいかな?」


「ぇ……ああ構わないが」


「必ず来てね」


 その表情はいつにも増して恥ずかしげに見えた。


 五時に集合と決め、取り敢えず為治と詠美は家まで帰った


 何故駅なんだ?近所なのに


 そう思いつつも近くの時計台で待っている為治


「ごめん…時間に遅れて…」


「大丈夫、いま来たところだ」


 為治は決まり文句のようにそう返す。


「…嘘ついて、本当は待ったんでしょ」


「ま、まぁ…そうなんだけど」


 為治は詠美の服について話した


「それ…萌え袖?」


「えっ?……燃えるの…袖が?」


「いやいや、違うって!萌え袖だって!燃え袖じゃなくてっ!」


 今思ったが詠美はちょっと天然なところがある

 それが可愛いのはなんでだろうか


 デパートには沢山の人で溢れかえっている


「多いなこりゃ」


 頭をかきながら為治は言う


「うん……そうね」


 為治の言った言葉に対して優しげに返す。


「それで…何か買うの?」


「えっと…友達の誕生日のプレゼントと…あと…」


 詠美が悩んでいるのを見かねて、為治はそっと助言する。


「ケーキとかいいんじゃないか?」


「いや、ケーキは友達が用意するから」


 そうですか……


「……な、ならアクセサリーとか?」


「アクセサリー…いいかも」


 詠美はうなずき早速地図表を確認し


「アクセサリー売り場は二階にあるから二階に行こう」


「ところで…どういうアクセサリーにするの?」


「アクセサリーというか…キーホルダーに近いかも…」


「あっ…これ…」


 詠美は高い所のアクセサリーを取ろうとした。


 だが詠美の身長では届かない。


「俺がとってやるよ」


 為治は少し背伸びをしてそこまで手を伸ばす。


「あっ…ありがとう」


 これか?この星形のかな?


「これでいいんだよね?」


「うん……」


 よし、これで買い物は終わりだよな。


 二人は幸せな気分のまま、階段を降りていった。


 詠美と一緒に歩いている途中、人だかりが少ないところにきたとき、奇妙なロゴの黒い服を着た見るからに怪しい髪の毛が逆立ってる中年の人に話しかけられた。


「おや、詠美かい?」


「あっ、おじさん、こんにちは、久しぶりですね」


 詠美は少し動揺しながら言った


 何だ、この人はどういう関係なのだ?


「そういやさっきの店でくじ引きがあったんだけど余ったからあげるよ」


「あっ…ありがと」


「そちらは彼氏かね?」


 詠美からおじさんと呼ばれたその男は為治の方を向き、そう訪ねる。


「はい、彼氏の為治です」


 ちょっ!?そんなあっさりと名前を言ってしまうのか!?


「ほう、初めまして、私(わたくし)は佐柳原宏硯(さなぎはら こうげん)といいます、以後お見知り置きを」


 為治は動揺しながらも挨拶を返す。


「よ、よろしく…お願いします」


 為治がそう言うと、突然佐柳腹は周りを見回す。


「ところで佐柳原さんは何故こんな所にいるんですか?」


「いやあ、電化製品を買い替えようと思って」


「電化製品なら三階にあるけど」


 為治は平然とそう言い放つ。


「……ああ、そうだったそうだった」


「何を買うの?」


「寒くなってきたからね、暖房器具を買おうと思って、昔のじゃ点いても暖まらないんだよね」


「そうですか、ならここでさよならですね」


「うん、じゃあ詠美も為治くんもまた会おう」


 そう言って佐柳原さんはエスカレーターに向かっていった。


「詠美、あのおじさ、いや佐柳原さんとはなぜあんなに親密なんだ?」


 大分怪しい人なのに……


「おじさんは……ああ見えてとても優しい人だから……接しやすいというか……」


「詠美、こういうのも悪いがあの人にはなるべく近づかない方がいい、怪しすぎる」


「いや……おじさんとは前から会ってるけど……全然悪い人じゃないよ……」


 詠美は基本他人に懐かない、そんな詠美が懐くなんてことは滅多なことが無い限りありえない、家族内でもそれは同様なのだから、親戚だろうと懐くのは不思議なことなのだ


 とにかくあの男は俺がこれからも警戒していくべきだと思う。







 ──────







 詠美と別れた後も為治はあの男(さなぎはら)のことを考えていた。


 詠美が洗脳されているような様子もないのだが、そんなことはないのか……?

 考えるべきことがまた増えてしまったな


 そんなことを考えている内に家へと着いた。


「……ただいま」


 誰かへ向けたわけではない、自己満足だ。


 為治は靴を脱ぎ、居間に向かう


「俺じゃ対処出来ないような事態が起こる前になんとかしていかないと」


 親がいればまた相談とかも出来るんだろうが、二人ともこの時間はまだ仕事中だからな……


 まあ、どうにもならないことを言ってもしょうがないか

 歯磨きでもしたら今日は寝るとしよう。


 為治は一階に降りて歯ブラシを手に取ると磨き始める。


 ゴシゴシ


 そういやこの歯ブラシもそろそろ変え時かな。


 ブラシの毛が抜け始めているし、後一、二回使ったら新しいものを買おう。


 為治は歯ブラシを置くとそのまま自室のベッドに顔を埋める。


「おやすみ」


 モヤモヤを抱えたまま為治の意識は徐々に暗闇へと落ちていった

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