五輪と貧富

「人々に勇気や希望を与えたい」

 

 そのような高尚な言葉を使って、メダリストは自分がメダルを取る事や取った事の理由を伝えようとする。


 私としては別に、


「取りたいから取った」

「みんなに認められたかった」

「私凄いでしょ! みんな褒めて褒めて!」


 で、良いと思う。

 と言うか、そうでなくてはいけないとすら思う。


 私からしてみたらアスリートが金メダルを取る事は勇気や希望を与える事には成り得ないからだ。


 そもそもスポーツと言うのは金持ちの道楽が起源だ。

 だからお金が掛かる。

 そんなお金が掛かる事をやるにはお金が無ければいけない。


 貧乏な家庭に生まれながらも努力をしてメダルを手に入れるなど、よほど稀有なケースだろう。


 財を成した親が子供にお金を掛けてスポーツをやらせる。

 その子供がアスリートになり五輪に出場。

 金メダルを取る。

 有名企業に就職、或いはCMなどの契約を結び金を取得。

 そして結婚し、子供を授かり、その子供にスポーツをやらせての繰り返し。


 人々は貧富の格差に対してとても敏感だ。

 少しでも得をしている人間を見ると目くじらを立てて怒るものだ。

 同じ仕事をしている人間の時給が1円でも高ければ罵詈雑言の嵐だろう。


 だと言うのに、なぜ金メダリストの好循環を許せるのだろか。


 貧富の格差はどんどん広がっている。

 一度バブルの頃に均一になりかかったが、それからは好転の兆しはない。

 なんなら、海外の統計学者が「富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しくなるし、それが逆転することは絶対に有り得ない。データ的に」と論文を発表してしまっている。


 そのデータはあくまで資産家対労働者の話をしているわけなので、アスリートの事は度外視だったと思うが、とにかく世界から貧富の差がなくなる事は永遠に有り得ないと言う事は明白になっている。


 さて、


「人に勇気や希望を与えたい」


 頑張っている自分の姿を見て、頑張って欲しいと言う事のなのだろうが、頑張る事の出来ない人間はどうすればいいだろう?


 今日の夕ご飯はご飯茶碗に半分のお米と漬物2つだった。あばらが浮き出るほど肉が無く、力も出ず、潜在能力があったにしろ実力を出し切れないその子供が、その言葉を聞いていったいどんな勇気を、どんな希望を持てばいいと言うのだろうか。


 そう言うのは例外?


 その例外を仲間外れにして、豊かな生活を送っている人限定で楽しみましょうと言うのが五輪と言うものなら、今すぐを取り下げて頂きたい。



 勿論私とて、努力している人間の功績を踏みにじりたいわけではない。

 ただそういう大言壮語を吐くのはやめて欲しいと言うだけなのだ。


 例えば私もプロの小説家になる為に努力を積んでいる。ただ、それが実を結んでいつかプロになったとして、「人々に勇気や希望を与える為に賞を取りました」とは言わないだろうと思うのだ。

 私が小説を書くのは自分の為だし、自分を救いたいと言う欲求により、読んだ人を道ずれにしているだけなのだ。


 勿論、私が書き出す小説の「世界批判」によって世界に殺されそうになっている人々を救いたいと言う気持ちもある。それゆえの作品もある。

 ただその作品を書きたいと思うのは、世界に殺されそうな自分を救いたいからなのだ。


 また賞に応募するのも、ここに投稿するのも承認欲求以外の何者でもない。

 満ち足りない自分自身の穴を埋めるために、永遠書き続けるだけなのだ。


 アスリートとて同じではないか?

 自分にはこれ以外ない。

 もっともっと強くなりたい。

 皆に認められたい。


 そういう純粋な気持ちが、自分を駆り立てているのではないか?


 正直になって欲しいし、その正直な人間を受け入れられる社会であるべきだと思う。

 人間なのだ。アスリートとて小説家とて。

 その我欲を正直に言ったところで全く問題としない社会が成り立っていれば、この世に「夢や希望を与えたい」と言う言葉を発する人間は、サンタクロース以外に居なくなることだろう。

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