肯定と否定

 ある一つのものを肯定する。

 すると私は、知らず、ある一つのものを否定しているのだ。


 例えばAさんの仕事ぶりを褒め肯定したとする。

 するとAさん以外の人の仕事ぶりをその時点で否定している事にもなる。


 私は肯定をする際、あらゆるものを、所謂いわゆる対価となるべきそれぞれを否定している。

 

 自身の境遇、人生、未来。それらを肯定する為に、私は度々世界の常識やら正義やらを否定してきた。

 我々が生きているこの世界と言う奴は、どういう訳か貪欲で陋劣ろうれつな強者の味方で、無欲で純粋な弱者を淘汰しようとする。

 だから私は弱い自分を肯定する為、強い者の味方になる世界を、だいたいの場合否定していく事になる。

 私は子を望まない人生を選択した。

 倫理的にも本能的にも選択だ。

 私の人生における選択を肯定する為には、倫理と本能を否定する必要がある。もしくは、倫理的にも間違っていないと言う理論を立てて、今まで存在した倫理を倫理で以って否定してやる必要がある。

 この否定という者の先に、ようやく己の肯定を得る事が出来る。

 しかし他者は、どういう訳か、このよりもに焦点を当て、私個人の人としての価値を否定するのだ。

 どういった領分なのだ?

 私は私と私を取り巻く世界をとにもかくにも見つめ続けて、どうにかしてこの絶望だらけの我が人生の真っ暗闇の中に光を得ようともがいているだけなのに。

 どうしてそう、いとも簡単に、否定をやってのけるのだ?

 そしてあなたは一体何を肯定したくて、私を否定したのだろう。

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