第10話

 黒い十字架が地面に刺さっている。なぜ、黒い。なぜ、十字架。僕たちは敵の追っ手を振り切っていた。少し、ここらで休憩することになる。ニワトリ人間たちは座り込んだ。僕とサクラちゃんは遠くの先を見つめている。

「僕は思うのだけど、自分を信じられない時があるんだ」

「そうなの? 私はケンタくんが成長しているなぁって思った」

 僕は自分の両手を見る。

「僕は人を殺してしまった。どんな理由があってもダメだ」

「ケンタくんがそう思うなら、それで反省は充分にしていると思うの」

 僕は高くて赤い空を見上げた。早くこの戦いを終わらせなくてはいけない。でも不安だ。生きて帰れるのかもわからない。言えることは生き残るしかなかった。

 どこからかお経が聞こえる。出たな、坊主四天王だ。きっと二人目だろう。ニワトリ人間たちは立ち上がって身構えている。僕も松明を握りしめた。サクラちゃんは辺りをキョロキョロ見回している。そして、坊主が遠くから現れる。今度も苦戦を強いられそうだ。

「私の名は不死身坊主。ケンタ、よく裏切り坊主を倒した。ほめてやろう」

 不死身坊主? なるほど、死なないってことか。でも僕は戦うよ。町を守りたいから。

 ニワトリ人間たちが不死身坊主に殴りかかる。一発二発攻撃が当たるも不死身坊主はびくともしない。ゆっくりこちらに近付いて来る。その間、ニワトリ人間たちで不死身坊主を袋叩きにするも意味がなかった。そして、不死身坊主が喝と唱えて僕たちを吹き飛ばした。僕たちはきっと今度こそ命の危険を感じただろう。

 ニワトリ人間たちは一度、不死身坊主から距離をあけた。ゆっくり不死身坊主は僕に近付いて来る。僕は松明で殴りかかった。それを不死身坊主はガードをしようともしない。まるで鉄の塊に当てたような手応え。不死身坊主は、にやっとイヤな笑みを浮かべる。

「ケンタ、死なない私を相手にしてどうだ?」

「ふーん、別に?」

 僕は横っ面に重い一撃を食らった。体が思いっきり飛んだような。頭がぐわんぐわんする。あれ、立てない。僕は不死身坊主を見た。ニワトリ人間たちが袋叩きにするも、やっぱりびくともしない。

 今回は本当に危険だ。僕はようやく地面を這う形で体勢を立て直していく。すると、ひとりのニワトリ人間の体が変化していた。羽が背中から生え、頭もくちばしが出来て、体格も大きくなった。まるで不死鳥のような。

 それを見て不死身坊主は焦ったように手のひらから炎を出して不死鳥に浴びせるも全く効果がなかった。そして、不死鳥は不死身坊主をくちばしでくわえてどこかに飛び去った。

 どうやら戦闘は終わったらしい。

「ケンタくん! 大丈夫?」

「うん、なんとかね」

 サクラちゃんは僕の横っ面に手を当てた。やっぱりちょっとは痛いなあ。黒い十字架がたくさん地面から生えてきた。黒い人影も群がって来る。やれやれ、休むひまもないなぁ。

 それにしてもニワトリ人間はなぜ全員が不死鳥にならないのだろう? ひょっとしたらごくわずかのニワトリ人間だけが不死鳥になれるのか? 僕たちは先を急いだ。途中に川を何回か横切って行く。足元がびちゃびちゃする。しかし、進むしかなかった。空は赤い。僕は横っ面をさすっている。

 途中、黒い十字架の森を抜けて行く。なんだか不気味だ。敵の気配や追っ手がなかった。辺りは静かだった。まるで、わざと僕たちを誘い出すかのように。すると、前方から人間たちが逃げてやって来た。どうやら戦闘がまた始まりそうだ。逃げてくる人間たちを縫うようにして僕たちは前進する。地獄って感じがする。辺りは叫び声や逃げ惑う人々の声でいっぱいだ。さあて、次も坊主が出て来るのか? 僕は戦う。逃げるわけにはいかない。ただし、疲れがたまってきた。どうやら戦闘は近付いたらしい。お経の唱える声がする。坊主四天王、なんて恐ろしいのだ。

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