第9話

 どこからかお経を唱える声がする。黒い人影たちは退散して行く。なんだ? 何が始まるんだ? すると遠くから声の主が現れる。なぜだろう、とてつもなく殺気を感じる。そして目の前に飛んできたのはひとりのお坊さんのようだ。聞いたことのないお経を唱えている。僕は松明を構えた。

「私の名は、裏切り坊主。坊主四天王にして貴様の刺客。その命、ちょうだいする」なるほど、コイツがさっき言っていた刺客。裏切り坊主。確かに強そうだ。僕は先手を取った。

「ふ、ムダだ。なぜ人は信じる? 裏切りにあうだけなのに」松明を片手でたやすく受けきった裏切り坊主。僕は先ほどから殺気を浴びている。ニワトリ人間たちが加勢してくれる。しかし、明らかな戦闘力の差を見せつけられる。

 ニワトリ人間を充分に引き寄せて、喝と唱えて吹き飛ばす裏切り坊主。僕も吹き飛んだ。これは危ない。命の危険を感じる。そして再びお経を唱える裏切り坊主。僕はもう一度攻撃を仕掛ける。

「人は信じる。裏切りにあう。人には絶望しか残されていない。せいぜい抵抗しろ」手数とスピードに僕は押される。ガードが間に合わない。ちくしょう、なんて強いんだ。ニワトリ人間が駆け付けるも、ひとりずつ拳で沈めていく裏切り坊主。その間にも僕の攻撃はガードされている。四方八方からニワトリ人間が加勢するのに裏切り坊主はものともしない。追い詰められる僕たち。

 ニワトリ人間の攻撃が裏切り坊主に当たった一瞬の隙を僕は見逃さなかった。裏切り坊主の顔面にグーパンを重く一撃。そして、みぞおちにも一撃。最後に松明で頭に振り下ろした。

 しかし、血は流しているものの裏切り坊主は立っている。僕は裏切り坊主の殺気に驚く。

「ケンタよ、町は救えない。なぜなら貴様も裏切りにあうからだ」

「ケンタくん! ソイツの言葉を聞いてはダメよ!」

 とてつもなく強い裏切り坊主。僕は松明を握りしめた。そして、明らかな戦闘力の差を実感する。しかし、熱くたぎる僕の血はコイツを倒せ、と言っている。そうだ、僕はコイツを倒さなくちゃいけない。ここで負けるわけにはいかない。僕はもう一度攻撃を仕掛ける。

「青いな、ケンタ。貴様は裏切りにあうのだ!」裏切り坊主の前蹴りをかわしてその蹴り足に松明を振り下ろした。ボキィと音がした。そして次に松明を裏切り坊主の顔面にぶちかました。完璧に手応えはある。しかし、なぜだろう? これは正しいことなのか?

「ぐふっ! ケンタよ、よく聞け! なぜ裏切り坊主と呼ばれるのかを! 自分は人々に裏切られて生きてきた! そして、自分も人を裏切って生きてきた! いいか! この世界は裏切り裏切られて出来ている……」僕はとどめを裏切り坊主にした。僕は考えてみる。僕の生きてきた世界は決してそうではない、と。しかし、僕は人を殺してしまった。町を救うために。許されないことだ。僕は頭を抱えた。

「ケンタくん、大丈夫? ケンタくんは正義のヒーローなのよ? 仕方ないことなのよ?」サクラちゃんの言葉は僕の心をえぐった。許されない、許されない、許されない、許されない‼️ 僕は人を殺してしまったんだ!

 僕は泣いている。サクラちゃんが僕を抱き寄せる。許されない、けれどもこうしなければ町は消えてしまう。他の方法はなかったのか。誰か、教えてくれ。

 ニワトリ人間たちは地獄の奥へと進む。僕はまだサクラちゃんに抱きしめられている。僕は束の間の安心に浸っている。四方八方から黒い人影たちが現れる。そうだ、僕は悩んでいる時間はどこにもない。戦わなくちゃ死んでしまう。僕は再び戦場に舞い戻った。無双、僕は戦いの中で決心をする。サクラちゃんを守りたい。町を守りたい。そして、この世界を守りたい。

 僕はサクラちゃんの手を引っ張って走る。この先には地獄はない。あるのは未来で希望で決心で新しい世界の始まりだ。戦わなくちゃいけない。戦わなくちゃ死んでしまう。戦わなくちゃ未来はない。僕はもう一度行きたい。地上の町へ帰りたい。

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