第8話

 黒い人影の大軍に僕とニワトリ人間たちは突撃する。黒い人影は意外と弱い。パンチを当てるだけで消えていく。しかし、敵の数は多い。ニワトリ人間の何人かが黒い人影の攻撃を受けて倒れる。僕は先頭で敵を迎え撃つ。コンクリートの割れ目から黒い人影は大軍で現れる。キリがない。けれども、ここで僕たちが負けたら未来はない。この町はどうなる? 絶対に負けられない。

 だが、夜空からは鳥の怪物たちが襲来する。味方のニワトリ人間たちは松明を使って応戦するも敵の数が多すぎる。そして、地中からは黒い人影の大軍。明らかに僕たちは不利だった。囲まれた形となった僕とニワトリ人間たち。四方八方から敵が押し寄せる。敵の出現は衰えない。応戦するのが精一杯だった。

 ところでサクラちゃんは逃げたのだろうか? まあいい。残った僕たちで戦うしかない。味方の数は十人を切ったようだ。敵の数はおびただしい。夜空も鳥の怪物で埋め尽くされている。異様な光景だった。まさに地獄と思わせる光景。悪夢のようだ。

 形勢はこちらの有利になってくれない。徐々に不利は増していく。僕もヘトヘトになっている。ついに黒い人影たちに押し倒されてしまう。あぁ、もう終わりだな。僕は目をつぶった。

 すると、眩しい光に辺りは包まれた。空から光が差していた。僕は混乱する。それから黒い人影の大軍は消えていった。鳥の怪物も燃えていく。何が起こったのだ? 僕はボロボロの体でゆっくり立ち上がった。ニワトリ人間たちも立ち上がる。遠くでサクラちゃんが走って来た。いったいどういうわけなんだ?

「ケンタくん! ニワトリの神社に行って来たの! それでね、お願いを神さまにしたの! そしたらね、急に空が明るくなったの! 町の人々も戻っているの!」サクラちゃんはすごく興奮した様子だった。なるほど、よくわからないけど、これで終わりなのか?

 しかし、ニワトリ人間たちはコンクリートの割れ目に入って行く。僕はそれを見て思った。まだ戦いは終わっていない。続いている。僕もコンクリートの割れ目に入ろうとした。けれども、サクラちゃんが僕を引っ張ってこう言った。

「待って、もう私たちは充分に戦ったよ? あとはニワトリ人間たちに任せよう? ねえ、ケンタくん?」僕はそれを聞いて何を思っただろう? 確かにこれ以上は戦う必要はないのかもしれない。しかし、僕は戦いたかった。使命でも義務でもないかもしれないけど、僕は戦いたかった。

「サクラちゃん、ここで残ってもいい。僕は行くよ? この町を守るために」この言葉を聞いてサクラちゃんは涙を流した。けれども、僕は決心が揺れなかった。

「わかったよ、私も行くよ。でも、生きて二人で帰ろうね?」

 僕とサクラちゃんはコンクリートの割れ目に入って行く。洞窟のような道が続いている。しかし、幅は広かった。ニワトリ人間のあとに続く。松明の灯りが頼りだ。段々と降りていく道。次第に聞こえる叫び声のような音。地獄はすぐそこのようだ。

 急にとてつもなく広い空間に抜ける。地獄だと一目でわかった。地獄絵図、人間たちが黒い人影たちに処刑されている。サクラちゃんは目をつぶった。さて、僕は味方のニワトリ人間の数を数えた。ざっと百はいる。僕も戦う気がある。ニワトリ人間たちは松明を上へ挙げて走って行く。僕もあとに続く。サクラちゃんも走って来た。黒い人影たちはこちらに気付く。叫び声を上げている。でも、怖くない。戦う。戦って勝つよ。町を守るために。今、戦いの火蓋が切って落とされた。

 僕も松明をもらって黒い人影にぶうんとぶちかました。黒い人影はそれだけで消えていく。しかし、黒い人影の攻撃は威力が強い。ニワトリ人間も倒れる。処刑されなかった人間たちは地上へと駆けて行くようだ。僕は黒い人影の大軍に突撃している。無双、僕ひとりで大軍を相手に善戦している。四方八方からの大軍に僕は疲れを感じない。何も感じない。怒りも悲しみも恐怖も絶望も。

 さあ! もっとかかって来い!

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