第7話
僕が泣いているとサクラちゃんが部屋に入って来た。そして僕の頭を撫でてくれた。でも涙が止まらない。もうイヤだ、戦えば負ける。もうイヤだ、ひとりぼっちにはなりたくない。気付けばサクラちゃんは僕を抱きしめてくれていた。僕はちょっとだけ安心した。
今日はサクラちゃんと遊びに行くことになった。誰も居ないこの町で。今日くらいは今までのことは忘れてもいいとサクラちゃんが言った。午前中は学校のプールで水着に着替えて二人だけで水遊びをする。そういえばサクラちゃんってやっぱり大人っぽいよなぁ。なんだか楽しくなってきた。
昼はコンビニの弁当を、それも美味しそうなハンバーグ弁当を食べた。サクラちゃんはスパゲッティーを食べた。美味しいよねと二人で楽しく食べた。デザートはアイスクリーム、お腹がいっぱいだ。ごちそうさま、お金はレジの横に置いておいた。
午後は川にやって来た。サクラちゃんは足だけ浸かって水遊び。僕はザリガニを捕まえていた。時間があっという間に過ぎていく。そうして夕方になった。二人で夕焼けを見た。
「ねえ、ケンタくん? 好きな人って居るの?」
「居ないよ? どうして?」
サクラちゃんは黙り込んじゃったけど、どうしてそんなことを聞くのだろう? まあ、いいや。今日は楽しかった。でも、二人だけの世界ってさびしいよね。
『ケンタ、聞こえるか? お楽しみのところ、悪いがお札を取り返してほしい。次は住宅街にお札とニワトリ人間がおる』
僕は決心した。
「サクラちゃん、行こう! 戦うんだ!」サクラちゃんは笑顔だった。それが何より心強い。
僕たちは住宅街に向かった。夜になっている。会話はなかった。でも、今日は戦って勝てそうな気がする。ようし、頑張るぞ!
視界に飛び込んできたのは、あのニワトリ人間。けれども、怖くなかった。僕ひとりで戦える。僕はニワトリ人間めがけてダッシュした。ニワトリ人間が松明をぶうんぶうんと振っている。僕はそれをかわしてパンチを力一杯込めてぶちかました。すると、ニワトリ人間は体勢を崩した。ようし、今日は勝てる。次にキックを力一杯込めてぶちかました。ニワトリ人間は悲鳴を上げた。思い知ったか!
ニワトリ人間がうずくまっている。サクラちゃんが可哀想と言った。可哀想? 僕は考えてみる。コイツらは悪者だ。そして、僕たちはひどい目にあっている。どこがニワトリ人間が可哀想なんだ? これは悪者だ、僕たちはコイツらを倒さなくちゃいけない。あれ? でも、わからなくなってきたよ……。どうして、ニワトリ人間が可哀想なんだ?
ふと、あの夢のことを思い出した。確かニワトリ人間は手をさしのべてきた。いいや、でも、あれはただの夢だ。僕はニワトリ人間にとどめをさす。そのことを言ったらサクラちゃんは涙を目に浮かべた。僕は決心が揺らいだ。
『何をやっておる? 早く倒すのだ!』
どうしよう、出来ない。
『バカか、テメエは! さっさと殺れ!』
え、どういうわけ? 神さまはそんなこと言っていいの? 僕は混乱した。どうやらこれは神さまの声ではないぞ。誰だ?
『冥土の土産に教えてやる。余はあの世の魔王だ、今からそちらに刺客を送った。バカな奴らめ、お札は実は悪いものでもなんでもない。そのニワトリ人間は本当の神さまの使いだ。そのお札はお前たちの町を守る最後の砦のようなもの。しかし、これでケンタ、お前はもう終わりだ!』その瞬間にコンクリートの地面が割れた。その間から黒い人影のようなものが姿を現した。それもおびただしい数だ。僕は一瞬だけ冷静さを失った。サクラちゃんが僕の後ろに隠れる。
黒い人影は叫んだ。それもおびただしい数が叫んだ。怖い。どうしよう。逃げようとしたけど足が動かない。どうしよう!
その時だった。大勢のニワトリ人間たちが駆け付けた。
『まあよい。ケンタ、最後に教えてやる。なぜニワトリ人間がニワトリを焼くのか。それは昔の神事の名残だ。今はもう絶えたがね』
ニワトリ人間も大勢なら、敵の黒い人影も大軍だ。ようし、戦って勝つよ! 僕は拳を握りしめた。よっしゃ! やってやる!
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