【番外編】夏 「ちょっと流れ星でも観に行きませんか?」(4)後輩たち

『立秋を過ぎたとは言え、まだまだ残暑が厳しい夏の夜は青山高原がいい。ちょっと遠出をして流れ星でも見に行こか……』



 緊張が頂点に、そして心臓が高鳴る。


「やっぱり! 北先輩やないですかぁ」


 へっ! なんか聞き覚えのある声や。


「山名です。こんばんわ」

「なんや山名かぁ。びっくりするがなぁ」


 僕が大学生の時に作ったバイククラブの後輩達やった。緊張感から一気に開放されたわ。


「ひとみ。心配せんでもええよ。こいつら大学の後輩やねん。こいつは3代目の部長や」

「あっ、そうなん。よかったぁ……」


 集まってきたバイクは次々とエンジンを切る。


「ほら、この人が初代部長の北さんや」

「あっ、どうも。はじめまして。1回生の大谷です」

「おお、1回生かぁ。頑張ってやー」

「はい、ありがとうございます」

「2回の園田ですぅ」

「そっかぁ、頑張ってるねー。そやけど山名。なんでこんなとこに来たんや。お前らもペルセウス座流星群を見に来たんか?」

「何ですのん。そのペルセスなんちゃらって?」


 ああ、知らんのかぁ。


「流星群や。ほんなら何しに来たんや?」

「何しにって、北先輩が僕らをここへよう連れてきてくれたから、今日はこいつらを連れてきたんですよ」

「おお、そうかぁ。それはええこっちゃぁ」

「で、そこの可愛い人は誰なんですか?」


 おお、中々気の利いた言い方をしてくれるやん。


「まぁ、あれやわ……」

「ダメですよ北先輩。こんな可愛い彼女さんをー、こんなとこまで乗っけて来たら。しんどかったでしょ?」

「こんばんはぁ。栗原です。でも楽しかったです。私は全然平気ですよ」


 ひとみは今「彼女さん」って言われて否定せんかったやんなぁ……。


「いやーいいなぁ。北先輩、羨ましいですわ」

「は、は、は。おおきに」

「ほんなら、そろそろ行きますわ」

「おう。気を付けてなぁ」

「ほんな、また」


 山名がエンジンを掛けると、他の9台が一斉にエンジンを掛ける。


 胸に響く音。この瞬間が素敵や。


 2、3回空吹かしをして山名が駐車場の出口に向かうと、僕に向かって一人ひとり頭を下げて山名の後を付いて動き出した。


 後輩を連れて走ってるやなんて、中々頑張っとるみたいやな。


 最後にボロボロで傷だらけの古いCBR400RRが近寄ってくる。

 HRCのマフラーを付けてるし、これは僕が譲ったバイクや。


「北先輩、こんばんわ」

「おお、南本やんけ」

「ダメじゃないっすかー。彼女さんを連れ回したら。ねー、悪い人でしょー」


 一瞬戸惑った後、ひとみが呟く。


「えっ、いや。そんなことは……」

「あほー、お前ー。いらん事言うなよー」

「すんません。ほな、お先に失礼しまーす」


 駐車場から出ていく後輩たちを見送る。

 めっちゃでっかいエギゾーストノートを幾つも残して去って行きよった。


 駐車場には再び静寂が訪れる。


「ごめんなぁ。変なやつばっかりでぇ」

「うーうん。みんな面白い人やねー」

「まぁ口は悪いけど、みんなええやつらやわ。それに、後から2台目のYZFに乗ってたんは女の子やんねで」

「ええっ、そうなん。格好いいー。凄いね、こんなとこまで来るなんて」

「はは。乗り方は下手やけど、ガッツがあるねん」

「へー、私も早く乗ってみたい」

「そうやな。それまで僕が載せて上げるし」

「うん」

「ほんなら、ちょっと移動しよか」


 バイクに跨がりエンジンを掛け、ひとみが後に乗って腕を回してくるんを確認してバイクを動かし始めた。


 駐車場を出でて右に曲り加速しながら坂道を下る。次に登りながらS字カーブに進入すると思ったよりRがきつく、スピードが出過ぎてて車体をかなり倒した。ひとみはしっかり両足で僕の腰をグリップしてバランスを取ってくれる。ひとみの身体が緊張して一瞬固まったみたい。


 怖がられせしもたかも……。


 なんとかオーバーランや転倒を免れて体勢を立て直すと、直ぐに第2駐車場に入る。

 残念ながらここも車でいっぱいやし駐車場を出る。

 ゆっくりとした右カーブを曲りながら第3駐車場へ向かう。


 右に曲がって駐車場に入ってはみたものの、ここも数台の車が停まってたんでそのまま転回して出て第4駐車場に向かう。


 第4駐車場は、高原道路からのランプウェイを進むと広い駐車スペースに出る。まだ誰も来てないし、ここがええわと思てたら直ぐに車のヘッドライトが近づいてきたんで、しょうがなくここも諦めた。


 駐車場はあと3つしかない。直ぐ隣の第5駐車場は車のライトがあったし飛ばして、ゆったりとした坂道を上りながら先に第6駐車場に向かう。第7駐車場はカーブのアウト側に大きなスペースが有るだけやから、なんとかここらで落ち着きたい。


 流石に第6駐車場まで来る車は無いのか、ここは誰も居らんかった。

 端っこにバイクを止めて降りる。標高750メートルで第4や第5の駐車場よりほんの少し低いけど、流星観測には差し障りは無いし、なんと言うても暗い方が都合がええ。。


 エンジンを切り、ライトも消すと真っ暗や。暗闇に目が慣れてると、満点の星空が見えてきた。天の川まではっきり見える。


「ここにしよっか」

「うん」


 暗闇でもひとみの笑顔はなんとなく見えた様な気がした。



 つづく




※走行データ

青山高原三角点駐車場-第6駐車場          約 2.3km


※気温データ(ある日の実際のデータ)

 京阪出町柳駅前(京都市左京区)      32度

 青山高原三角点(三重県津市)       22度


※青山高原の公衆トイレ

 三角点駐車場、第1、第3、第4駐車場にあります。


※ペルセウス座流星群のデータ

 ペルセウス座流星群は毎年8月13日前後に出現してますが、ここ数年で「好条件」にて観測できそうな日を以下に示します。


(1)2018年は8月13日の10時が極大ですが日の出後なので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでがお薦めです。月齢も1.73と月明かりもなく比較的良い条件で観られるでしょう。


(2)2021年は8月13日の4時が極大です。月齢は4.56ですが22時頃には沈みますので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでが、かなり良い条件で観られるでしょう。


(3)2024年は8月12日の23時が極大です。月齢は7.62ですが23時頃には沈みますので、12日の夜半から13日の未明に掛けてが、かなりの良い条件で観られるでしょう。


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