【番外編】夏 「ちょっと流れ星でも観に行きませんか?」(3)囲まれる恐怖
『立秋を過ぎたとは言え、まだまだ残暑が厳しい夏の夜は青山高原がいい。ちょっと遠出をして流れ星でも見に行こか……』
三角点駐車場にはかなりの数の車が止まってる。
みんな流星群を見に来てるんやろか?
エンジンを切ると静寂と闇が訪れ、風の音だけが聞こえてる。
「ヘアピンカーブ、大丈夫やった」
「うん、面白かったよ」
「体重移動とか、上手いなぁ」
「だって自動二輪の免許持ってるもん。バイクは無いねんけどなぁ」
「あっそうなん。いやー、バイク買おうやぁ。ほんで一緒にツーリング行こう」
「うーん、お金貯めてからね」
「おおー、頑張ってお金貯めてー。ほんでバイク買うてやぁ」
「うん、そうするわぁ。その代り……、それまでは後に載せてくれる?」
なんと……。もしかしたら脈あるんとちゃうん!
「ええーっと、どないしよかなぁー」
なんでそんな事を言うんや。僕の中の僕、素直になれ!
「えっ、だめ……ですか?」
なんか泣きそうな顔になってきてる。
「うそうそ! 冗談やん。いいよ。いつでも何処でも連れてってあげるよ」
「もうーっ、和くんのいけずやねんからぁー」
「ごめんやって」
涙ぐんでるやんかぁ。そやけどメガネの横から涙を拭く仕草がめっちゃ可愛い!
思いっきり抱きしめたいけど、ここは我慢、我慢……。
そんな事を話してる間にも青山高原道路を走り上がってくるバイクのエギゾーストノートや車のタイヤが軋む音が聞こえてくる。今日は沢山の人で賑わいそうや。
取り敢えず懐中電灯を持って歩きだす。足元を照らしながら緩い坂道を登って三角点(三重県津市)までやってきた。
ここは標高755.8メートル。風も吹いてるけど気温も低く、めっちゃ気持ちええわ。もちろん明かりは無いし、懐中電灯を消すと真っ暗。
「ほら見てみー」
「あっ、あっ。流れ星ー」
「うん。『ペルセウス座流星群』って言うてな、これから沢山見えるようになるから」
「へぇーそうなーん」
「多い時は1時間に60個程見れた事があるんよ」
「凄いやーん。めっちゃ楽しみー」
「これから夜が更けていったら、段々ようけ見える様になるわー」
「ああ、だからシュラフを持ってきたんやね」
「そうそう。どこかで寝っ転がって見たらええやえろ」
「うん、なんかワクワクしてきたわー。いっぱいお願いできそう」
「ははは、そうやな。あっ、また流れた」
「えっどこ?」
「遅いわぁー」
「うーん、もうー」
「大丈夫。まだまだこれからやで」
「そっかー。そやけど夜景も綺麗やねー」
「そやな」
「あれはどこなんやろう?」
「えーっと、直ぐ手前が津市で、その向こうの黒いのんが伊勢湾」
「へー、黒いとこが海なんやー」
「うん。ほんで海の向こうが知多半島やねん」
「なるほどー。ほんなら、あのピカピカ光ってるんはなにー?」
所々にフラッシュの様に光ってる物がある。
「ああ、あれは風力発電の鉄塔やわ。飛行機の為に光ってるんちゃう。風力発電のプロペラがこの山の上にはいっぱいあるんやで」
もちろん夜なんで見えへん。
「ふーん、そうなんや」
三角点付近の広場は次第に人も増えてきたんで僕らは場所を移動する事にする。
駐車場に戻って来てヘルメットを被ろうとしてると、5、6台のバイクが一斉に入ってくる。まだまだ後からも続いてる様や。
ちょっと怖いなーと見て見ん振りをしてたら、その中の1台カワサキのNinja650が近寄ってきて僕らをライトで照らす。
眩しくて見えへん!
ライトを腕で遮り様子を伺う。他のバイクも近寄ってきてる。
これは……不味いかも。
「えっ、えっ。どうしたの……」
怯えるひとみを庇う様に背中に隠す。
次々とバイクが寄ってきて、10台程のヘッドライトに囲まれた。
絡まれたらどないしよ。こんだけの人数やったら勝ち目は無い。
エンジンのアイドリング音が身体に響く。
じわっと汗が滲んで身体に緊張感が走った。
ひとみを守らな……。
するとNinjaに乗ってる男がシールドを上げて口を開いた。
つづく
※気温データ(ある日の実際のデータ)
青山高原三角点(三重県津市) 22度
※青山高原の公衆トイレ
三角点駐車場、第1、第3、第4駐車場にあります。
※ペルセウス座流星群のデータ
ペルセウス座流星群は毎年8月13日前後に出現してますが、ここ数年で「好条件」にて観測できそうな日を以下に示します。
(1)2018年は8月13日の10時が極大ですが日の出後なので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでがお薦めです。月齢も1.73と月明かりもなく比較的良い条件で観られるでしょう。
(2)2021年は8月13日の4時が極大です。月齢は4.56ですが22時頃には沈みますので、12日の深夜から13日の空が明るくなるまでが、かなり良い条件で観られるでしょう。
(3)2024年は8月12日の23時が極大です。月齢は7.62ですが23時頃には沈みますので、12日の夜半から13日の未明に掛けてが、かなりの良い条件で観られるでしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます