第8話 知恵子!子育てPart5

吉子は、小学校へ上がってからも

全てにおいて、不器用であった。

不器用な理由は、極度の緊張症である事と

先生の話を聞かない事が、最大の理由で

あった。

しかし、吉子には全く悪気はなかった。

また、決して知能が劣っている訳でもなかった。

一年生の時の参観日

一から順に並べていくという作業が

できなかったので、担任の先生が

吉子の分だけ、あらかじめ並べて置いた。

それなのに、吉子は何を思ったのか?

順番をめちゃくちゃに並べ変えた。

懇談会の日 知恵子は、担任の先生から

こっ酷く吉子の悪口のオンパレードを

告知された。

元々日本という国は、個性を認めない。

普通の子なければ、はみだしっ子となる。

昭和40年代 50年代は、特に その傾向が

顕著であった。

まさしく、吉子ははみだしっ子で劣等生のレッテルを貼られたのである。

学校へ行くと先生に叱られ、家へ帰ると母に叱られる。

また、担任の先生は吉子に陰湿なイジメを行った。

ある日の事。国語のテストの時

吉子が、問題を解いていると

「分からなければ、白紙で出してもいいのよ。」と呟いた。

吉子は、先生の言う通り

考えずに白紙で出した。

高学年になってから、それが先生の

イジメである事を確信した。


なぜ吉子が、担任の先生に嫌われたか?

まず、非常に忘れ物が多かった。

そして、授業に集中できてなくて

ぼんやりとしている。

実際は、ぼんやりしているのではなく

授業中も小説のストーリーについて

想像を巡らせていた。

先生に叱られると、何も言わずに耐えているが、それが余計に先生をイラつかせた。


家に帰って、知恵子から

「なんで、あんたはするべき事が出来ないん?なんで、忘れ物が多いんや?」と

叱られる。

忘れ物が多ければ、母親が確認してあげても

良かったが、知恵子はそういう事はしなかった。


吉子の唯一の楽しみは、本を読んで

想像をする事であった。

いろんな小説を読んだ。

吉子が、本を好きになった理由は

祖母の家に泊まりに行った時

出入りしていたお兄さんから

「母を訪ねて」を読み聞かせして貰った事が

きっかけであった。

学校では、劣等生であったが

吉子には、もう一つの顔があった。

自分よりも年下の弟や従兄弟や近所の子供達をたいそう可愛がった。

常に、年下の子供達を従えていた。

三つ年下の剛志は、吉子が大好きだった。


異常出産の為、背が伸びなくて

同年齢の子供よりも、発達が遅かった剛志であったが、利発的な子供に育った。

また、明朗で母親に反抗しない。

と言うか?要領が良く賢いので

吉子のように叱られる事が、ほとんどない。

剛志が、小学校に上がると

友達も多く、担任の先生からも好かれ

学校の成績も優秀であった。

そんな、剛志に知恵子が期待するのも無理はない。

当然の事…

吉子と剛志に対して、明らかな依怙贔屓が

日常的に行われた。


そんな吉子であったが、小学校三年生の時

隣に住む深雪ちゃんが、習い始めたバイオリンに興味を持つようになった。

母親に「私も、深雪ちゃんみたいに

バイオリン習いたい!」と頼んだ。

普段、剛志に依怙贔屓していた知恵子であったが…

当時は、バイオリンはお金持ちの子供が

習う習い事であったが…

バイオリンだけは、習いに行かせて貰う事に

成功した。

とは言え、バイオリンを買ってはくれなかった。

バイオリンの代わりに、オルガンを

買い与えて貰った。

吉子は、オルガンで音を取りながら

深雪ちゃんの家に遊びに行った時に

バイオリンを練習した。

吉子の友達は、下級生が多かったが

隣の深雪ちゃんは、吉子より一つ上だった。

深雪ちゃんは、大人しくて優しかった。


知恵子は、剛志には過度な期待をしていた。

学業成績も運動能力も優れていた剛志であったが、特別に優秀と言う訳ではなく

同年齢の子供より少し賢いくらいであったが

とても人気があったので、毎年 学級委員に

選ばれる。

剛志が、六年生の頃

通知表に不満を持った知恵子は

懇談会で、担任にクレームを言った。

すると…

「確かに、剛志君は目立っています。

ですが、学業成績は40名中せいぜい

10番代ですよ。」と言われた。

ようするに、気立てのいい剛志は

五年生迄の事担任の先生に好かれた為

依怙贔屓されていたのだ。


逆に、吉子は先生に嫌われるタイプだったので、どちらかと言うと実際の成績よりも

悪い評価で通知表を採点された。

吉子が、六年生の時

全国実力テストが、実施された。

授業中 上の空であった吉子だったが

その実力テストでは、真ん中よりも上の成績を収めた。

授業は、上の空 宿題はしてこない。

そんな吉子が、真ん中より上の成績を取った。

吉子は、本が好きだったので

理解力に優れていたのだろう。

また、音楽的才能があった吉子は、少しずつ

自分に自信を持てるようになった。

そうすると、不思議な事に

学業成績も上がり、同級生の友達もできる。

中学生の頃には、決して劣等生ではなく

普通並みの女の子へと成長していった。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る