13
12月24日
時はその流れのままに過ぎていく。
入院して身では感じられることが少なく、それも彼女がいて真夢がいてひとりじゃない。
騒ぎすぎて何回怒られたんだろうか。
彼女の容態も時の流れと同じ様に進行していった。次第に眠っている時間が長くなり、もう満足に歩けない程に筋力が衰えている。車椅子で弱々しい笑顔で俺のところに来てくれるが、その姿から目をそらそうとしてしまう。ちゃんと見届ける。そう約束したじゃないか。『看取る』って。
12月25日
陣痛が始まった。分娩室に一緒に入りその細く小さな手と握っていることしかできない。彼女は頑張っているのにそんなことしたできない自分が惨めに感じられる。
そして新しい命が産まれた。ちいさくて温かくて。壊れ物より弱いのに精一杯『自分』を泣くことで主張していた。
「やったよ美姫。ほら女の子。俺と美姫の子供だよ。目元なんて美姫そっくりだから
お願いだよ美姫。目を開けてよ……。美姫
」
子供は看護婦さんが連れていき俺は自室で泣きはらしていた。覚悟は決めていた。でももしかしたら……なんて願望を持っていたんだ。
コンコンとノックの音。自分では動けないでいるとドアが勝手に開いた。来訪者は真夢。今までで一番険しい表情をしている。
「お兄ちゃんにこれ」
手渡された封筒の中身は手紙のようだった。
拝啓 歩夢
あなたがこれを読んでいるってことは私は死んだということでしょう。
なんてよくあるチープな書き出しで始めてみたけどお芝居感がすごいんのでやめるわ。
歩夢。いつも振り回してごめんなさい。あなたといるとつい恥ずかしくてやっちゃうの。
歩夢。愛してくれてありがとう。愛してくれたから愛を知ることができて次に繋げることができたわ。
歩夢。いつまでも泣いてるんじゃなわよ。そんなの性に合ってないだから。
私達の子供の名前は決めてあるの。私から1文字。歩夢から1文字。
美夢にしたと思うの。まぁ私の決定に逆らうほどあなたは悪くないわよね?
最後に一言だけ。
あなたと出会えてよかった。ありがとう。
その手紙はもうくしゃくしゃになって俺の涙の受け皿になっていた。
「美夢か。いい名前考えるなぁ」
「お兄ちゃん! 美夢は私が責任持って育てるから安心して!」
「なんで真夢が?」
「大好きなお兄ちゃんとお義姉ちゃんの大切な忘れ形見だから!」
いつも間にか妹も大きくなったものだ。昔は背中から俺にくっついて離れなかったのにな。
「なぁ真夢。少し寝てもいいかな?」
「ごゆっくり」
そのななベッドに仰向けになり静かに深呼吸する。
思い出すのはこの一年。いや彼女との思い出だな。あの時一緒に見た星空キレイだったな。あの日から俺と彼女は歩むスピードを揃えて横で手をしっかりと握り合い過ごしてきた。
それも今日でおしまいだ。
夜空を見上げて 璃央奈 瑠璃 @connect121417
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