女の子の話

 1月28日

 歩夢が検査の日。どうせもうすぐ死ぬのだからそんなにこまめに検査をする必要性が感じられないがそれはそれ。入院している以上仕方のないこと、と割り切っている。

 歩夢がいないんじゃ部屋に行っても面白くないので本を読んで暇を潰している。いつの間にか歩夢が近くにいないと楽しいと感じられなくなってしまっていた。私らしくない。ずっと一人で歩いてきた。そして孤独の中で”死”を迎えると思っていた。なのにそれを変えたのが歩夢。そばで本を読んでいると心が落ち着く。からかうと笑って許してくれる。一緒に笑い合える。そんなことは今まで一度も感じたことがなかった。今ではこうやって一人で本を読んでいてもいまいち集中できない。

 手持ち無沙汰で暇を感じているとコンコンと控えめにドアをノックする音が聞こえた。

 ドアまで行って開けると予想外の人が待っていた。

「急にごめんなさい。いまお時間いいですか?」

 歩夢のかわいい妹さんだった。少し緊張しているのか手をぎゅっと握っている。

「大丈夫よ。部屋に入る? それとも広間?」

「できればお部屋に」

「じゃあいらっしゃい」

 近くに置いてあった椅子に座るように誘導すると素直に座って何度も深呼吸している。

「わざわざ私の部屋まで来るってことはなにか話したいことがあるのよね?」

「私、お兄ちゃんに振られちゃいました」

 切なさそうに笑顔を浮かべている。

「なんでだかは言わなくてもわかりますよね?」

「わかるわよ」

「じゃあどうするんですか?」

「私だってわからないわ。なにが正しくてなにが悪いのか。間違いなく私も歩むも病状は悪化してるわ

そんな中でなにができるっていうのよ!」

 声を荒らげる。私らしくないのが恥ずかしくて髪をかきあげた。

「素直になったらどうですか? 先が短いからこそ素直にならないと死ぬ間際に後悔したらどう思いますか?」

 私はどう返事を返せばいいのかわからなくて下を向いてしまう。

「お兄ちゃんもヘタレだけど、あなたもそうとうヘタレですね。これじゃあ後でふたりとも後悔すると思って動いてみましたけど意味はないみたいですね」

「待って!」

 そのまま部屋を出ていこうとする妹さんを呼び止める。

「私は……。私は後悔したくない! 歩夢がなんて言うかわからない。怖いけど後悔だけはしたくない!」

 妹さんは嬉しそうにくすっと笑ってそのまま部屋から出ていった。

 そのまま部屋の電気を消して考える。

 答えなんてとっくに決まっていたことに気がついて失笑してしまった。

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