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一度俺の部屋に侵入してからというもの、昼間は俺の部屋でくつろぎ夜は広間で話すというのが日課になっている。やっていることと言えば本を読んだり、俺をからかったり、面白くもないテレビのバラエティーを笑うことなく退屈そうに眺めていたりと病院の規則をぶっちぎったまま自由気ままに過ごしている。看護婦さんが部屋に来ても我が物顔でいるせいで注意を受けることもない。
俺は彼女が部屋に来てくれるのは気にしない。むしろ嬉しいとさえ思える。ただ彼女のことを好きだと気がついてしまってからというものその一 挙手一投足にドキドキしてしまう。
本を読みながら髪をかきあげる仕草。
テレビを眺めながら唇を舌で舐める仕草。
横になっているときに大胆に見える足の白さに。
そんなゆったりしたり俺だけが敏感になってしまったりという時間は簡単に予想できるのに頭の片隅にも思い浮かばなかった客人の来訪であっさり崩れ去った。
1月27日。
その日も彼女は俺の部屋にいてベッドで横になって本を読んでいた。俺は彼女の足元近くに座ってスマホゲームをしている。
なにごとも起こることがなく「退屈だなぁ」としか思えない昼下り。
コンコンを控えめに扉をノックする音が響いた。
看護婦さんだとこの状況を見られるのは一応避けたいのでベッドの方をカーテンで隠してから扉を開けると真夢がいた。
なでかセーラー服だった。
もう一度言う。なぜかセーラー服だった。
「おい妹よ。面会に来てくれたのは嬉しいがなんでその服装なんだ? もっとかわいい服持ってただろ?」
「だって前にお兄ちゃんが『真夢ってセーラー服すごい似合うよね』って言ってくれたから……。かわいくないの?」
やばい。やばすぎる。いや妹のセーラー服が似合ってるのもやばいが美姫と真夢が顔を合わせるのが怖すぎる。と考えていると案の定
「歩夢って本当にシスコンだったのね。しかもセーラー服着させてどんなことさせてたのかしら? 場合によっては極刑ね」
「なんか今女の人の声しなかった?」
氷点下の真夢の声。
「サアナンノコトカナ」
逃げたい。怖すぎて冷や汗が止まらない。
「気のせいじゃないわ。ねぇ歩夢?」
カーテンから出てきた彼女は完全に病衣の前をはだけさせてピンク色の下着が見える状態で出てきた。完全に悪ふざけだ。真夢には残念ながら伝わらない。
てか意外と胸でかいな……。そんな現実逃避。
「お兄ちゃん!!」
「なんでそんな格好なんだよ!」
さすが兄妹だ。見事に声がハモった。意味合いがまったく違うけど。
「なんでって。あなたが脱がせたのに覚えてないのかしら? さっきの続きしましょ。私まだ満足してないわよ」
「真夢、寒いから広間に行こう。な? な?」
本当に寒い。さっきから冷や汗が止まらいくらいに。
手を握って引いてなんとか脱出しようとするが最愛の妹様は根が張ったように動いてくれない。
「お兄ちゃん? いつまであの害虫を見てるの?」
「将来の姉に向かって害虫なんて酷いわね。
まぁ大好きな『お兄ちゃん』を取られちゃったから仕方ないのかしら? シスコンの兄とブラコンの妹なんて本でも見たことなかったけど実在してたのね」
不意にすたすたとごく当たり前のように彼女が俺の方へ歩いてくる。その動きは真夢も俺も動けないほどにキレイで自然な動き。
そして俺の腕を握って彼女の胸に引き寄せられた。
甘い香りと温かな肌。でも笑えるのがお互い筋力が低くなっているからだろう、そのままどちらが先とかではなく倒れ込んでしまった。
なんとか彼女が怪我をしないよう床との間になるように体勢を変えることには成功した。俺がめっちゃ痛いけど
「歩夢。ごめんなさい」
「珍しく素直だな。気にしなくていいよ。これに懲りたらもうすんなよ」
「ところでお兄ちゃんいつまで見てるの?」
妹の怒りの声が静かに俺の耳に入ってきた。妹の13歳の誕生日に友達と遊びに行ってお祝いのプレゼントを忘れた時よりパワーアップしてる。
慌てて部屋から出ていこうとすると美姫が立ち上がって
「これはお礼よ」
と言って頬にキスをしてきた。
当然部屋の時が止まった。俺は放心状態。美姫はニヤニヤ顔。真夢は絶句。
「じゃあね歩夢」
満足したみたいで満面の笑み笑顔で彼女は部屋から出ていってしまった。
「あの女絶対許さない。お兄ちゃん私毎日お見舞いに来るからねあんな性悪女は絶対お兄ちゃんに近づけないようにするから。お兄ちゃんだって困ってるよね?」
これは何を言っても変わらないだろうけどきちんと言っておく必要があると思い口を開いた。
「なぁ真夢。俺も彼女もいつ死んでもおかしくないなんて状態なんだよ。そしたらさ、似たような境遇の人とは仲良くなるよ」
「お兄ちゃんはあの女をかばうの?」
瞳にいっぱいの涙を浮かべている。
「かばうとかばわないとかじゃなくて。うんはっきり言うよ。俺は彼女が、美姫が好きなんだ」
「そっか。うん。じゃあ諦めないとね。でも私だってお兄ちゃんのこと好きなんだよ? それは覚えておいてね」
涙を流しながら真夢は儚くも美しい笑顔で帰っていった。
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