6

1月10日。

「ねえ。あんたのこと聞いてもいいかしら?」

 いつも通り深夜の密会で唐突に言われた一言。

「いいけど。なんでまた?」

「こうやって話してるのにあなたのことを全然知らないからよ」

 なるほど確かにそうだ。俺も彼女のことを全然知らなかった。

「どうぞ。なんなりと」

「前に言ってた真夢って彼女?」

「妹だよ。3歳したのね」

「俺も聞いていいかな?」

 どうぞという意味だろう。彼女は軽く頷いてくれた。

 女性に歳を聞くのは失礼だって言うけどっと前置きして

 「美姫っていくつ? 俺とそう変わらないと思うんだけど」

「22歳」

 かなり簡潔に答えられた。

「まじか。じゃあ俺と同い年だ」

「じゃあ大学生とかだったのかしら?」

 ここで過去形を使ってくれたの何故か嬉しかった。

「一応、ね。美姫も?」

「私は学費が払えないからキャバクラで働いてたわ」


 二人分のコーヒーを用意して美姫にも手渡す。

「じゃあこうしない? 今日が美姫が質問。明日は俺が質問。もちろん

答えたくないときは答えない」

 彼女はふふっと笑えて

「面白そうね。乗ったはそのゲーム」

 じゃあと付け加えるて

「まずああなたってシスコンなの?」

「よく言われるけど俺はシスコンではない! 単純かつ明快に妹が本当にかわいいだけだ」

「それを世の中ではシスコンっていうのよ」

 はぁとため息をつかれた。

「その妹さんと私のどこが似ているの?」

 直球の質問。

 俺は答えに詰まってうーんと頭を捻る。似ている場所……。

「顔立ちは似てる。真夢がもう少し大人っぽくなったらこんな感じになるんだろうなぁって感じ。あとは雰囲気かな。それと人を惹きつけてやまない感じなところかな。それは神様の贈り物。うん、それは才能だな」

「あなたそうやって女の子を口説いているのね」

 軽蔑の眼差し。

 失礼極まりない誤解だ。慌てて釈明したいが言葉が出てこない。だって目の前の女の子に目を奪われているから。

 そんなことには気が付かなかったのか

「大学生ってどこ通ってたの?」

 と別の質問を投げかけてきた。

「一応東大」

「一応ってなによ?」

 初めて見る表情。それはどこか幼気でますます妹に似ていた。口が裂けても言えないのは当然だ。

「じゃあ頭の回転は早いのね。その代りにシスコンだけど」

 今度は意地悪は笑顔を浮かべる。それになんとも言えない感情のざわつきを感じた。

「だってこんなところにに入っていたら学歴なんて関係ないだろ?]

乾いた笑みがこぼれた。だってここにいるということはそういうことだから。

「彼女もいなけれたお見舞いに来てくれる友達もいないよ。

自分で言うのもなんだけどね」

「野暮なことを聞いたわね。ごめんなさい」

 驚くことに手を握って謝ってきた。その手は俺と同じ様には冷たく俺に

”死”をを感じさせるほどだった。でも柔くて俺の手よりも小さくて。なぜか感情ざわついた。それを悟られることがいやだったが、それは幸いにも気がつかれることはなかった。

「でも私と一緒。私もこんな性格じゃ友達になってくれる人はいなかったわ」

 俺と似たような、でも違う。彼女は笑顔を浮かべることはなかったから。

「じゃあさ、俺たち友達になろうぜ。

 そしたら気軽に会話できるようになるし退屈も半分個だ」

 彼女――美姫は驚いたように瞬きを何回もして怪訝そうな瞳でまたも俺の目を凝視している。

 はていったいどこにそんな驚く要素があったのだろう? 

「みんなそうやって友達を作っているの?」

 言われた彼女が興味津々で聞いてくる。

 それに俺は「あぁ。本当に友達ができなかったんだな」っと思った。

「友達っていっても、普通『友達になろう?』なんて幼稚園までだよ。もう普通に会話してなんとなくグループになる。そんな感じだよ」

「そうやって女を口説いているのかと思ったわ」

「口説いてねーよ」 

「だって歩夢の顔って女好きそうな顔しているもの」

「なんだそのいわれのない誤解は……」

 少し落ち込んでいると

「キャバクラで働いてた私が保証するわ」

 追い打ちをかけてきやがった。

「お前Sだろ……」

「あら。今更?」

 嗜虐的で笑っていた。

「美姫の笑顔、初めて見たよ」

 すると一瞬で顔が赤くなり「今日はここまでね」と言って去ってしまった。

「なにか悪いことしたかな」

 その一言は誰に聞かれるでもなく静寂に消えていった。

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