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 12月26日。夜中に目が覚めてしまいそのまま寝付くことができずふらっと院内を歩いてみようと思い部屋を出た。ナースセンターには電気が灯ったまま。その他は薄く電気がついているだけで暗いと言ってもいいほどだった。スリッパがペタペタと音が鳴るだけで静かだ。そのまま歩いていると広間に電気が眩しくない程度に付いていた。興味本位でそっちの方まで行ってみる。


 そこには彼女がいた。

 静かに本を読んでいる。たまに聞こえるページを捲る音だけが悲しげに聞こえた。

「あなたいつまで私のことを見てるの?」

 冷たい声。

「ごめん。見惚れてた」

 正直に答える。そのまま「前に座ってもいいかな?」と付け加えると、どうぞという意思表示なのだろう、手のひらですっと前を指した。

「この前はごめん。間違えたことも挨拶もできなかったことも」

 彼女は本から目を離してじっと俺の目を見つめてくる。俺も目をそらすことなく見つめる。一瞬が永遠に感じるとはこのことだろうか。彼女の瞳はキレイでいてどこか諦めているような感じがした。

「あなたの名前を教えて」

「歩夢。歩く夢で歩夢」

「俺も聞いていいかな、名前」

「私の名前? 美姫。美しい姫で美姫」

「じゃあはじめまして美姫」

「そうね歩夢」

 その後は会話もない。でも彼女と過ごすこの時間は心地よかった。


 それから毎日この時間美姫と話すようになった。最初は本から目を離さなかった彼女もいつの間にか本を読むことなく会話を楽しんでくれた。


 そうやって迎えた12月31日。年越しの瞬間、俺と彼女は顔を合わせて「新年明けましておめでとう」とお決まりの挨拶を交わした。

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