2

12月25日。


 彼女に出会った。絶対に忘れない。そんな出会いだった。


 暖房の効いたここでは季節の感覚がなくなる。そんな12月24日。初めて母さんが面会に来る。というか来てくれるように頼んだのだが。入浴道具やタバコ、小遣いなどが欲しくて頼んだ。電話したとき母さんが泣きながら「電話ありがとう」と繰り返していた。あの日食卓を蹴り飛ばして切れたことを気にしていたのだろう。そう思うと悪いことをしたなと申し訳ない気持ちになった。

 約束の時間少し前にエレベーターの前で待っていた。程なくしてチーンという音と共に母さんが出て来る。なんだか少し疲れているように見えた。

「よう。久しぶり」

 自分から声を掛けるといきなり抱きしめられた。そのままの格好で

「歩夢、体調はどう? 痛くない? 苦しくない? ちゃんと眠れてる?」

 質問のオンパレードだ。それだけ俺を気にしてくれているのだと嬉しかった。

「大丈夫だよ」

 そういって母さんに笑顔をみせる。

 一回離れて部屋まで案内する。母さんはずっと泣いていた。


 個室、完全防音で静かに母さんと声をかけた。

「真夢は元気にしてる?」

 母さんはふふっと笑って

「あんたはいつも真夢のことばっかりね。学校でもブラコンて言われてるのよ」

「俺も大学でシスコン言われてたわ」

「真夢は……。元気なふりをいているわ。大学にもちゃんと行って、バイトにも行って。誰にもわからないように振る舞ってるわね。

でもこの前夜にお休みって部屋戻ったあと一人で泣いてたわ

でも私もなんて声をかけたらいいのかわからなくて……」

 真夢が泣いていること。母さんも迷っていること。それが俺にはたまらなく悲しかった。

 馬鹿なことをしていたあの頃にはもう戻れないのだから。

 一緒に笑い合う。「はいこれ」と渡されたカバンの中には入浴道具一式と俺の財布、吸っていたタバコがワンカートン。

「たばこやめろ、やめろっていってたのにかってきてくれたのか」

「もう仕方ないのかなって思ったのよ」


「俺さぁあと何ヶ月生きていられるの?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る