天と地の書評対談(参謀本部外伝)

南木

――作品紹介―― 哲学ってなんだよ(哲学)

リア「はーいみんな! おまたせっ♪ 絶対神リア、ただいま降臨っ! 今日私が紹介する作品は、こちらっ!」


――――今回のテーマ――――


『世界で唯一のフィロソファー』

新月望様:著

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885644145



ヒュパティア「待ちなさい。本来の参謀本部のメンバーじゃない貴女が、なぜこんなところまで出張ってきてるの」


リア「絶対神の権限で介入してやったわ! 信仰消費ものすごく重かったんだからね!」


ヒュパティア「なけなしの信仰を下らないことで消費してんじゃないわよ」


(スタッフの笑い声)


ヒュパティア「まあ、始まってしまったものは仕方ないわ。茶番はこれくらいにして書評始めましょうか」


リア「今回紹介するのは、現代で寝ている時には異世界で、異世界で寝ている時には現代で、それぞれ活動している主人公が、哲学について語りながら、戦ったり恋愛フラグたてたりするお話よ」


ヒュパティア「説明がいつも以上にchaosね。でも、何も間違ってはいないわ。もっと丁寧に説明すると、主人公の新谷 哲也君は大学で哲学を専攻している一般人。しかし、つい最近になって、現実世界で寝ている間は「イデア」と呼ばれる異世界で「フィロス」という10歳の少年になってしまうの」


リア「現実パートでは、同じ学部の女の子と、哲学の講義内容について淡々と話し合っているだけ。主に、歴史上の哲学について読者に分かりやすいように説明している感じもするわ。一方で、異世界の方では、お姫様に哲学を教えたり、魔法を習ったりして、時には戦ったりもしているわね」


ヒュパティア「異世界で哲学を教えるって言ってるけど、異世界「イデア」は魔法科学が発達した代償か、哲学が顧みられなかった世界なの。だから、哲学という学問は、その世界に存在しないの」


リア「まあ、哲学という学問がない世界だったら、っていう実証実験の意味もあるかもしれないけど、今読んでいる限りでは、哲学がないからと言って現実世界とはモラルの面で、あまり変化はないわね」


ヒュパティア「その当りは考慮されてないかもしれないわね」


リア「まあそもそも、この作品の設定自体からして、いろいろ哲学的よね」


ヒュパティア「何しろ現実世界と異世界では、主人公は同じくらいの時間活動しているように思えるわ。1日の活動時間を半々で消費したとしても、寝すぎだし活動時間も短すぎるわ」


リア「つまり、どっちかの時間が相対的に早く消費されてるか、遅くなっているかってわけね。それに、もしどっちか一方の身体が、寝ているときにたたき起こされたら、もう一方はどうなってしまうのかしら」


ヒュパティア「もうこの時点でだいぶ哲学してるわね」


リア「よく哲学って無駄な学問っていわれるじゃない?」


ヒュパティア「神の存在も、よく無駄っていわれるわよね」


リア「じゃあ『大図書館の土着神様』であるあなたも、図書館にはいらないってことかしら?」


ヒュパティア「あ? 生きたまま牡蠣の殻で(自主規制かわをむかれ)たいのかしら」


リア「あなたが言うと、色々洒落にならないわね…………」


(スタッフの笑い声)


リア「それはともかく、こうして私たちが主人公の時間消費の配分について考えたところで、別に何になるわけでもないわけで」


ヒュパティア「まったくね。一見すると生産性がないわ。じゃあ、無駄だからそのことについて考えるのはやめた方がいいのかしらね? 哲学の本質の一端は、そこにあると小生は思うわけよ。パスカルが言うところの「人間は考える葦である」ってやつね。余談だけど、バスの原型となるシステムを発明したのもパスカルなのよ」


リア「現代は科学が発達してきて、色々なことが観測できるようになったわ。だから、未知の解明はもっぱら科学の役割になっちゃったけど、何もなかった昔は、考えることで結論を得ようとしていたのかもしれないわね」


ヒュパティア「分からないものを、分からないままにしておくのは、気分が悪いものね」


リア「でね、私は思うんだけど、異世界転生っていうジャンルも、一種の哲学なんじゃないかって」


ヒュパティア「これまた暴論ね。輪廻の流れに委ねられる筈だった魂を、無理やり拉致して自分の信徒に仕立て上げた神様の言うことは違うわね」


リア「あんたね…………まあいいわ。結局、どんな異世界でも、それこそ私がいる世界でも、人間は人間で、彼らは空気を吸って水を飲んで、生殖して増えるわけよ。ただ、現実世界と違うのは、魔法があるとかその程度ね」


ヒュパティア「それを言ったら、小説という物自体、作家による壮大な思考実験ね。あれがこうだったら、っていうきっかけから物語が広がっていく。小説はそれを万人に娯楽として提供しているの」


リア「けれどもね。私は主張したい。私たちだって生きているわ。作者という存在がなくては生きられない私たちだけど」


ヒュパティア「そうね……。小生もあんな殺され方をしなければ、此処にいなかったかもしれないわね。何が正しくて、何がいけないのか。永遠にわからないわけだわ」



リア「…………ところで私たち、何の話をしていたんだっけ」


ヒュパティア「呆れたわ。作品紹介のページじゃない」


リア「やっぱ哲学ってロクでも無い学問なのかもしれないわね」


ヒュパティア「まあ、そんなわけで、この作品は哲学っていう学問の、入門書としておすすめよ。小生たちみたいに、無駄にいろいろ考えるよりも、過去の思想を学んで考え方を体系化した方が、無駄のない人生を過ごせるはずよ」


リア「なに? 小難しそう? そんなことないわよ、疑うなら読んでみなさい! それとも自分のいままで胸に抱いてきた哲学は無駄な学問いうアイデンティティーが崩壊するのを恐れているの? その恐れがあなたのルサンチマンを刺激して反動で自分を見失ってしまっているの?  自分を見失っているから検証して自分の経験を増やすことを考えずに自我の殻にとじ込もってしまうの?

 ニーチェは力への意志という概念で力強く生きることを促したわ。生きるということは投企だとサルトルは言ったわ。 現実の中に自分を生きるということは今あなたに最も必要なことやと思うのよ。

 あなたのちっちゃいちっちゃい心の牡蠣の殻をそろそろ破る時が来たのよ!」


ヒュパティア「こんなところで読者を煽らない。あと、カキの殻は関係ないでしょいいかげんにしなさい」


(スタッフの笑い声)


 ~おわり~

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天と地の書評対談(参謀本部外伝) 南木 @sanbousoutyou-ju88

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