第3話

「次は私が詠みます」七海さんが云った。


  同じとき

   これは朝陽か

     夕暮れか


「夏の朝五時と夕方の五時が同じ色だったので」七海さんはそれだけ云った。


「その同じ色の時を、誰かと過ごしているって事ね。艶っぽいかと思いきや、何だか爽やかだわ」

 綾瀬さんが云った。僕もそう思う。初見では読み解けない感じが七海さんらしい。


「じゃあ次は私ね」綾瀬さんが云った。


  かきごおり

   溶けてるほうが

      ほれている


「初々しい二人がかき氷を食べていて、照れているから必要以上にかき氷をかき混ぜてしまって溶けている様子を【惚れて】と【掘れて】に掛けました」


 意外に可愛らしい句だなぁ。コミュ上で読む感じではもう少しきつい女性を想像していたから、再び印象が変わった。


 更に持ち寄った俳句を詠み合い、皆で感想や意見を云い合った。思ったより愉しいかも。


「そういえばアイドルグループで、歌の途中に俳句を詠むアイドルが居るわよね。七海さん、少し似てない?」綾瀬さんが云った。

「そんな……似てないですよ、冗談は勘弁してください」少し微笑みながら七海さんが答えた。

                  ○

 そんな風にトークと品評会を愉しんでいたら、知らない男の人が僕達のテーブル席に近寄って来た。その人は綾瀬さんに向かっていきなり話しかけた。


「おい、やっぱりこの会抜けろよ」

 綾瀬さんの知り合いだろうか。いきなり抜けろとは一体……。

 その人は携帯電話を取り出してある画面を綾瀬さんに見せながら続けた。ニュース記事の画面だろう。

「女子高生絡みの事件がまたあったぞ。こんなメンツの会に居たら何かあった時に疑われるぞ」


 こんなメンツの会とは、僕はムッとした。その瞬間、渡辺くんが立ちあがった。

「あなた、いきなり現れて何なんですか? 綾瀬さんのお知り合いの方ですか?」

 渡辺君、やっぱり意外に丁寧な子だ。こんな無礼な奴にも【お知り合いの方】等と、僕ならとっさに出てこないだろう。

 

 感心していたのも束の間。今度は清楚な知らない女性が渡辺くんに近づいてきた。

「女子高生と一緒って、どうゆう事?」清楚な女性は怒り口調で云った。

「……てか何で居るの? 尾行してたって事?」渡辺くんは驚きつつも冷静だった。

 渡辺くんのお知り合いの方だろう。


 その後も知らない男の人と清楚な知らない女性は、綾瀬さんと渡辺くんに感情をぶつけていた。女子高生が居る会号に参加すると、きっとろくな事にならないとかそうゆう内容だ。

 時折僕と七海さんをチラ見している、徐々に腹が立つ。

 もう我慢出来ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る