第25話 選挙ウォーズ その1

 「力なき正義は無力なり、愛なき正義は無用なり! 福祉と医療の充実を掲げる私達ラブリー党に皆様のご支援をお願いいたします!」

 赤いハートマーク型のバックラーを掲げて黒スーツ姿のブロンド美女が、選挙ワゴン車の車上で叫びながらアストレアシティの市庁舎前通りを進む。

 ラブリー党代表のハートキャッチャーは素顔で愛を振りまく。


 駅前広場では、黄色い工事用ヘルメットを被り鶴嘴をかざした青い全身タイツのマッチョマンが演説をしていた。

 「建築は建物を、ヒーローは平和を立てる! ビルダー党はインフラ工事予算の増加と雇用拡大を目指します!」

 ビルダー党のミスター・ピッケル、ヒーロー達の力を建設業に活用する会社の社長だが給料の支払いは安くケチだと評判の悪い男だ。

 

 そして街頭テレビでは、黒いスーツを着こなし眼鏡が知的な印象を与えている中年の白人男性がコメントに応える様子が放送されていた。

 「私はこれまで何度もこの答えをお伝えして来ました、現状の維持をしつつ市民の皆様の声にできる事から応えて行きますと」

 現職の市長、バランスマンことエドワード・サイレンス氏だ。

 彼が市長になって三度目、どんなに街で大事件が起きても素早い復旧や支援で対応しており市民達に町が見捨てられないのは彼の政治的手腕による所が大きい。

 

 その手腕はヒーローだけでなくヴィランにすら一目置かれており、今回の選挙も個性豊かなヒーロー政党の候補者を抜いてエドワード氏の四期目が期待されていた。

 ヴィラン刑務所にカメラが映る、高級ホテルのような牢内。

 白いガウン姿の男がソファーの上でくつろぎながら新聞を広げていた。

 「う~ん♪ 今年は市長選ですか~♪ こんな鶴嘴やら盾なんか掲げてるお馬鹿さん達に市長になられては困りますね~♪」

 この自由過ぎる囚人、ディーラーはエドワード氏を認めるヴィランの一人だった。

 「今回の選挙も、ヒーローもヴィランも一般人も一括りに市民として扱うエドワード氏一択でしょう♪」

 ディーラーは気持ち悪い笑顔を浮かべた。

 街のライフラインの素早い復旧に当たっての金の出所はこの男の財布からも少なからず出ていた。

 ヴィランにとってエドワード氏の市政は良いマネーロンダリングにもなっていた。

 「法は悪の為に、悪が世界を栄えさせる為にはエドワード氏は最高の政治家です」

 悪だくみと言ったらこの男、スルっとガウンの袖から携帯電を取り出して何処かへと電話をかけた。


 更にカメラは変わって、所はヒーロースクール。

 「選挙なんてお茶会に比べたらどうでも良い事だわ」

 ゴスロリの吸血鬼少女、ダークレディことミナは黄昏る。

 ヴィランと紙一重なダークヒーローである彼女には、政治などどうでも良かった。

 「ようやく学校に来れた、選挙シーズンなんて最悪」

 ポリスガール、シャーミンは机に突っ伏していた。

 「お疲れねシャーミン、カモミールティーでも如何?」

 「ありがとう、いただくわ」

 いつもはシャーミンをからかうミナも、流石に過労気味の彼女をからかう気に名hなれなかった。

 

 ヒーローもヴィランも一般人も巻き込む選挙と言うお祭りが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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