第24話 タールマンは研修中 後編

 「この街の下水道はいつからダンジョンになったんだ?」

 指定のポイントを目指して進むタールマン達、市役所ヒーローチーム。

 「昔からさ、悪党は地下が大好きだから」

 フロッガーが答える。

 「出て来る敵は鼠くらいにして欲しいわ」

 アーマーを纏ったセーラこと、エージェント・ファランクスがぼやく。

 「あ~、ワニとか鮫とかネクロマンサーとか出そうだしな」

 タールマンがぼやきに乗っかる。

 「ゾンビや神話生物もね、しかしこうして会話が弾む職場は良いね」

 フロッガーが笑う。

 「作業がブラックな分、人間関係は明るく行きたいからな」

 皆で爆笑するヒーロー達。

 「もう少しで目的地ね、ランチまでに終わらせましょう」

 ファランクスが明かりをかざすより先に、闇の中で赤い光が輝いた。

 彼らの目の前には、目からレーザーを出す巨大鼠が待ち構えていた。


 「ふたりとも無事!」

 「無事だ!」

 「無事だよ」

 ヒーロー達は、敵のアンブッシュなファーストアタックの回避に成功する。

 「ミュータント化してやがるな、人間サイズなら行ける!」

 「プラズマ砲を撃つわ!」

 「下水玉を喰らえ!」

 タールマンは、ゴムのように腕を伸ばして殴る。

 ブヨンと柔らかい感触が拳に伝わりパンチは無効化された。

 ファランクスがアーマーの胸部から青いエネルギー弾を射ち、フロッガーは念動力で下水をボウリングの玉状にして投げつける。

 下水玉とプラズマを浴びたミュータント鼠は、爆発四散した。

 「俺のパンチが効かなかった」

 落ち込むタールマン。

 「次は決まるわ♪」

 「MVPはファランクスだね」

 「くそ、上がったらステーキやけ食いしてやる!」

 ミュータント化した鼠との戦闘が終わり、警戒が緩む一行。

 

 再び、下水道内を進み目的地を目指す。

 「げげ、下水に今何かのヒレが!」

 フロッガーが何かを発見する。

 「おいおい、そんな映画みたいなってマジか!」

 タールマンも水面を切り裂きすすむ魚の鰭を目撃する。

 「先手必勝ね!」

 ファランクスがプラズマ砲を射つ前に、何者かが飛び上がった!

 「ゲゲ~! 筋肉モリモリ鮫人間の変態だ~~っ!」

 フロッガーの叫びの通り、下水から飛び出したのは全裸で筋骨隆々の

 鮫男だった。

 「ゲッヘッヘ! 鼠狩りの予定が、獲物がいっぱいだ~♪」

 ヒーロー達へ飛び掛かる鮫男、だがコイツの魔の手が届くことはなかった。

 「フォウ!」

 悶えながら漆黒の拳にぶっとばされる鮫男、ストレートを出し終えるタールマン。

 「汚いモンを殴っちまったぜ」

 タールマンのパンチが鮫男の股間を粉砕した。

 「しっかり手洗いしなさいよ」

 「その手で握手はしないで欲しいな」

 彼の奮闘に仲間達は冷たかった。

 「虚しい勝利だぜ、早く上がりたい」

 タールマンは帰りたくなった。

 「まだランチには早いし、我慢しなきゃね」

 フロッガーが肩をすくめる。

 「仕事が上がったら、夜は皆で食事に行きましょう?」

 ファランクスの言葉に二人が頷いた。

 

 「いいね♪ 回るスシバー行こうぜ、スシ! ヘルシーだぜ♪」

 タールマン、寿司好きだった。

 「なら僕は、チーズバーガーロールが食べたい」

 フロッガ―の言う寿司は、海苔巻の上にチーズバーガーを乗せたクレイジーなネタ

である勿論高カロリーなのは間違いない。

 「フロッガーも好きね、私もタピオカドンとか食べるけど」

 タピオカ丼、タピオカが酢飯の上にばら撒かれた狂気のメニュー。

 「じゃ、頑張って片づけてクレイジースシバーで打ち上げだ♪」

 タールマンが締める、ヒーロー達のテンションとモチベーションが上がった。

 

 クレイジースシバー、スター合衆国全土にチェーン展開している寿司屋。

 寿司の本場のジパン人からは合衆国の寿司は化け物か! とゲテモノ扱いされるほどオリジナリティに狂ったメニューが多いのが特徴だ。

 「で、こだわりが深そうなタールマンは何が好きなの?」

 ファランクスが尋ねる。

 「お、それを聞くか? これでも俺は前職でスシの記事を書いたジパン通だぜ♪」

 タールマンが笑う、マスクの笑顔が牙を剥いた感じなのが怖い。

 「そう言えば、ライターだったねタールマンは」

 フロッガーが下水道を進みながら思い出す。

 「やはりヅケマグロだ、そのまま食えるし具を漬ける事で日持ちさせる知恵が」

 タールマンが薀蓄を語ろうとする、だがその声はファランクスに止められた。

 「ジパン通さん、ポイント到着よ」

 立ち止まり警戒するファランクス、その区画には図面上存在しない施設があった。

 「ドクター・シャーク研究所、ヴィランの基地!」

 フロッガーが叫ぶと同時に、ドクター・シャーク研究所と名付けられた下水道の中に似合わない悪の科学者の研究所からレーザーが放たれる。

 ヒーロー達は下水へと転がり落ちてその一撃を逃れる。

 「くっそ、最悪だ!」

 「同感だよ」

 「これは、やるしかないわね」

 

 下水から出てヒーロー達は、再び気持ちを戦闘モードにスイッチを切り替える。

 「相手が射って来たから、攻撃できるわ!」

 ファランクスがプラズマ砲で、先ほど攻撃してきた警戒装置を破壊する。

 「公務執行妨害で、武力行使だ!」

 タールマンが拳を肥大化させて研究所の入り口を破壊する。

 「市役所ヒーロー課だ、公務執行妨害に不法占拠諸々で討伐する!」

 フロッガーが大声で、叫ぶ。

 「公務執行、ガンホー! フォロミー!」

 装甲の熱いファランクスが先陣を切り、タールマンとフロッガーが追従する。

 

 研究所の中はどんな魔法か、広大な空間で円柱のポッドに液体漬けの鮫人間が並んでいた。

 「物理法則無視も大概だな、どこの映画のセットだよ」

 円柱ポッドを殴り壊して中の鮫人間を殺害して行くタールマン。

 「こいつらの肉やキャビアで、スシは食べたくないな」

 フロッガーも円柱ポッドを破壊して行く、ポッドが壊されると中の鮫人間は一瞬でミイラ化して死んでいった。

 「鮫人間軍団でも作る気だったのかしら、映画だけにして欲しいわ」

 ファランクスも電源ケーブルらしきものをアーマーに仕込んだブレードで切断する。

 施設を破壊しながらヒーロー達が奥へ進んでいくと、パワーローダ―に乗った白衣姿の鮫人間が待ち構えていた。

 「ええい、今度は市役所のヒーローが来おったか! しかも人の施設を破壊しおって絶対に許さん!」

 ドクター・シャークが吠える。

 

 「いや、パワーローダーに乗るの俺達の方だろ!」

 タールマンがツッコみ風にボケる。

 「やかましい、ここでは私が主人公だ!」

 ドクターがローダーを操り実験台を投げ飛ばす。

 「主人公が負けて終わる映画もあるわよ!」

 ファランクスがプラズマ砲を発射して、飛んできた実験台を破壊する。

 だが、これは攻撃ではなくフェイント。

 ドクター・シャークは戦うのではなく逃げ出した。

 「ゲ~ロゲロゲロ!」

 フロッガーが大量の油汗を流し、念動力で汗をドクター・シャークにぶちまける!

 「ギャ~~~~!」

 むき出しのパワーローダーは溶け、ドクターも強酸の汗を浴びて皮膚が酸火傷を起こす。

 「よし、俺がフィニッシュを決めるぜ!」

 タールマンが寄生生物を触手状に変化させてドクターを鞭打つ!

 すると、酸で溶けていたパワーローダーは崩れ落ちドクター・シャークは崩れ落ちたパワーローダーから抜け出せなくなった。

 「おのれ~! 私をここから出せ~!」

 閉じ込められてもわめく元気があるドクター。

 「そんな事は警察に言え、こっちはランチもまだで早く帰りたいんだ!」

 タールマンの言葉に、ファランクスとフロッガーが同意する。


 こうして、下水道を不法に占拠して鮫人間やミュータント鼠を開発しテロの準備をしていたドクター・シャークの野望は潰えた。

 

 タールマン達、市役所のヒーロー達は事後を警察に引き継いで帰庁した。

 彼ら市役所ヒーローズの研修と活躍は続く。

 

 

 

 

 


 

 

 

 


 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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