第22話 黒い病院

 ヒーローの台所、アストレアシティ。

 この街に堂々と看板を掲げて活動するヴィラン組織が存在した。

 

 善も悪も手出しできないその組織は、BGHブラック・ゼネラル・ホスピタル

 名前の通り外観は黒一色のヴィランが運営する善悪超越のDMZ非武装地帯だ。

 来る者拒まず、治療費を払い切った患者は追わず患者の情報も流さず一般人も利用できるこの病院は悪の組織ではあったが政府からも黙認されていた。


 何が悪いかって? 人倫を無視した研究で改造人間や生物兵器を作ったりは当たり前、患者やスタッフ以外の人権なんざ無視も良い所。

 

 間抜けな奴が攻めて来ても、あっという間に拘束されてモルモットさ。

 

 死人すら甦らせる素敵な病院の様子を覗いてみよう。

 「ひ~ひっひ! 寄生生物六百mℓ注入っ!」

 気味の悪い笑いを上げながら手術着姿の老医師が、指示を出す。

 その指示に従い、若手の医師が手術台に固定された患者の心臓へ極太注射器の針を刺してコーラ並に黒い液体を注入する。


 その結果、患者の筋肉が異常に肥大化し全身から染み出た黒い液体をスーツのように身に纏う。

 「おお、定着は成功じゃな♪」

 喜ぶ老医師は早足で手術室から出て行く。

 「先生! どこへ行かれるんですか?」

 若い医師が叫ぶと同時に、変化した患者の体が波打ち振動を起こして手術台を破壊する。

 若い医師達もヴィランなので、手術台の崩壊から逃れた。

 突然のアクシデントを逃れたと思った医師達を次に襲ったのは、変異した患者がハリネズミのように全身を槍の如く長い針と変化させた事だった。

 自分の周囲の医師達を視察した患者は強化された筋力と振動する拳で壁を破壊して脱走した。

 

 ダークヒーロー、タールマンの誕生した瞬間であった。

 「ひっひっひ♪ 活きが良いねえ、やはり超人を作るのは楽しいよ業績の悪い医師もリストラできて一石二鳥だねえ♪」

 タールマンの誕生を、書類が積まれた事務机に座りモニターで眺める老人。

 禿げ頭に眼鏡で笑顔、好々爺なこの老人が先ほど手術室を抜け出した老医師。

 この病院の院長、ドクター・プラントだ。

 趣味は寄生生物を使った人体改造による超人作り、と言う変態である。

 「超人作りを始めて六十年、あの患者がどんなヒーローになるのか楽しみだよ」

 寄生生物での生体強化にこだわり、人体改造を行ってきた悪のベテラン職人だ。


 彼に改造された患者は全員ダークヒーローとして活躍しており、ある意味ではまさしくヒーローの生みの親として評価を得ていた。


 プラモを作る感覚で人間の改造手術はしても術後のケアや定期健診などは行わないのが外道である、これがこの組織のトップだ。

 「さ~て、また新しい寄生生物を取り寄せるか? それとも交配させるかな♪」

 ドクター・プラントは院長室で次なる楽しみに思いを馳せる。


 カメラは変わってこちらはサイボーグ用の手術室、手術台に寝かされた患者と

ケーブルでつながれたゴーグルをかけた女医がサイバー空間で執刀を行っていた。

 「ああもう! 生身の患者を切らせなさいよ!」

 女医の名はドクター・スラッシュ、彼女はサイボーグが罹患した電脳ガンを

手術用プログラムを用いて切っていた。

 何でも切れる能力を持つ彼女は、道具も患者も選ばない便利な医者として様々な部署で使われていた。


 文句を言いつつも、電脳ガン細胞を生み出す患部に辿り着いた彼女がプログラムのメスを振るい患部を切り捨てて消滅させる。

 「術式終了、次は生身の患者もって来なさい!」

 彼女が終わると同時にサイボーグ患者を回収しに来たスタッフに叫んだ。

 「人事の文句を我々に言わないで下さい」

 スタッフ達はスラッシュの文句にレスポンスしつつ去って行く。

 「ムキ~! 私に肉を切らせろ~!」

 患者がいなくなった手術室に、ドクター・スラッシュの叫び声が響いた。


 このように医者やスタッフはヤバいヴィランである、だが患者もヤバかった。

 

 「フン! フン! フン!」

 ゴリラが両手に持ったダンベルを上げ下げして汗を流している。

 地下にあるジムは、体育館並の広さの筋肉モンスターの集会所だった。


 ゴリラだけでなく、トカゲ人間がバーベルかついでスクワットをしている。

 紫や黄色、様々なヴィランが流す汗でジム内の空気は文字通り虹色となっていた。

 この汗、どれも一般人には致命傷となる毒や酸である。


 プールも用意されており、鮫人間と蛸人間が死闘を繰り広げていた。

 どいつもこいつも、ヒーローとの戦いで負けて生き延びたヴィラン。


 筋肉も目付きもいつでもヒーローにリベンジできるように仕上がっている。

 

 最後は一般の病室を覗いてみよう、大部屋は普通の病院と違って檻で囲われたベッドや患者を縛り付けたベッドと個性豊かだった。

 「ヴ~~~~! ヴ~~~~!」

 縛られたベッドでは、ナースコールを鳴らす食人鬼のヴィランにロボットナースが

下の世話をしている。


 この食人鬼の患者は生身の相手を食い殺そうとするので、世話は機械にしかできない。

 檻に囲われたベッドでは、電気を生み出し操るヴィランが格子を掴み揺らす。

 「出せ、俺は正常だ! 退院させろ!」

 紫電をバチバチ放電させながら叫ぶヴィラン、彼が暴れれば暴れるほど病院の電気が賄えるので退院はさせてもらえない。

 彼が退院する時は果たしてやってくるのだろうか? それは誰にもわからない。


 そんなこんなで医師も患者もヤバい奴らが集まる病院、BGH。

 ここがヒーローやヴィランに潰されないのは、ここでの研究が一般人にも恩恵を与えているから。


 人倫を無視してるので、治療の為にあらゆる手段を講じるBGHは様々な難病の患者を受け入れて治療も行い結果的に多くの命を救っていた。

 研究の成果もどんどん学会に発表している。

 

 世界各国の要人も密かに利用しているので、潰したくても潰せない必要悪。

 最強の悪の組織トップテンの第1位に輝いてもいる。


 人民に受け入れられている悪の組織は悪の組織なのか?

 その疑問の答えは、悪の組織は悪の組織である。


 BGHは人民や世界に受け入れられた、勝っている悪の組織だ。

 正義は勝つことで存在を保つ故に負けられないが、悪は勝っても負けても

好き勝手に生きられる。


 BGHは今日も好き勝手に活動している。

 

 


 

 

 

 


 



 


 


 

 

 

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