第21話 法は悪の為にある

 「潮時ですね、止めちゃいましょう♪」

 オーバードライバーズの活躍により、ピザハント事件は意外な結末を迎えた。

 ヴィランクラブのリーダーであるディーラーが、自首をしてきたのである。


 「く~っくっく、しばらく別荘でのんびりしますか♪」

 裁判の結果、懲役一年と言うあり得ない判決が下された事に誰もが怒り狂った。

 勿論、この狂った判決は陪審員達を買収して行われたものだ。

 だが、買収の件は表に出る事はなかった。

 

 

 「なんで、あの悪党が懲役一年なのよ~!」

 ポリスガールは怒りに任せて新聞紙を引きちぎった。


 「くそったれ! 司法の奴ら腐ってやがる!」

 ジョニーも荒れていた。


 「ヴィランと司法の癒着はひどいな、政府は俺達の味方じゃないとは言うけれど」

 コーサクは政府のやり方に失望していた。


 法は悪の為にある、悪党ほど法律に詳しく法律を悪用し司法の改革などに精を出す。


 警察の取り調べの可視化や拷問の禁止、検察と裁判所の結託の阻止、警官や刑務官の暴力行為の禁止、刑務所での囚人の人権の遵守などの司法改革がスター合衆国では行われてきた。


 それらは正しい事ではあるが、ヴィラン達凶悪な悪党どもにも恩恵を与えていた。

 ヴィランが自分達の為に法と社会を変えたのだ。


 ヒーローは市民の味方であるために市民を支える社会の法に縛られる、合衆国ではダークヒーローでさえも法と社会に歩み寄って活動をしていた。


 社会にとってはヒーローもヴィランも厄介者、だが自分達すらも悪と感じれば糾弾しようとするヒーローより自分達の悪徳を許容するヴィランの方を社会は優遇し後に自分達の首をも絞める事に気づきもせずヒーローに首輪を嵌めた。


 社会がヒーロー達に着けた首輪、その名はヒーロー協約。

 すべてのヒーローが守るべき法律。

 その中の、警察に自首し裁判を受ける意思のあるヴィラン、刑務所内に収監されているヴィランにはヒーローは手出しを禁じる条項をディーラーに利用されたのだ。


 この協約は数年ごとにヴィランの都合のいいように改定されており、ヒーローや市民を苦しめていた。

 「いや~、人権って素晴らしいですね~♪ 理不尽に死刑にされたりしないとか最高♪ 刑務所は囚人の自由が認められていてパラダイス♪」

 縞模様の囚人服を着て、高級ソファーでくつろぐディーラー。


 一般の犯罪者の刑務所とは比較にならないほど厳戒態勢を敷いているヴィラン刑務所にありながらディーラーは自由気ままにに過ごしていた。

 

 ヴィラン刑務所、凶悪なヴィラン達が収容されている刑務所ゆえにその中はコネと金と力が物を言う世界となっていた。


 脱獄しなければ自由、看守も囚人であるヴィランが代行するヴィラン刑務所は悪党の観光地である。

 「叩くヴィランがいなければヒーローなんてただの迷惑な怪物、我々が栄えるからあっちも仕事ができてお金が入るんです。ヴィランが社会と結託する事で、ヒーローを養う社会を作ってるんで~す♪」

 鉄格子の囲い以外は高級ホテルのリビングにしか見えない自分の房で、ワイン片手に持論を語るディーラー。

 「だから、我々ヴィランに都合のいい社会をヒーロー達に壊されるのは勘弁して欲しいですね~♪ 次はどんなゲームを企画しましょうか?」

 真の勝者は自分だと、ディーラーは一人ほくそ笑んでいた。

 

 悪の潰えた試しなし、悪徳は今日も密かに栄えている。



 

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る