僕は本を読んでいなかったのだろうか
深田くれと
最終話
学生時代にアルセーヌ・ルパンが好きになって本を読み始めた。
いつの間にか漫画も活字も読むようになった。
探偵物、推理小説にはまり、何十巻もある歴史小説やドラマ化されるような小説を読み漁った。
気付いた時には読む速度が上がっていた。
速読の練習もしていないのに自分でこれは相当早いと自負していた。
とうとう自分で書いてみたいと思うようになる。
すぐに書きはじめた。
だが、早々に行き詰る。
行間に書くことがわからない。
会話も不自然だ。
言葉の正解が分からなかった。
「笑う」を表現したいと思う。
一笑、哄笑、憫笑、冷笑、嗤笑。
意味は分かってもうまく使えないと痛感した。
作家の本に戻った。
どの行間にも違和感が無かった。
でもなぜか分からない。
読み始めるとすっと頭に溶けてくる。
これがプロの本。
とにかく行間が気になりはじめた。
読む際の視点が変わった。
この文章を書くのにどれだけ時間をかけたのだろうかと大いに関心を抱いた。
ようやくここにきて、ふと気づいた。
こんなに面白いことに今まで気づかなかった僕は何を読んでいたのだろう、と。
どれだけお手本になる表現方法を素通りしてしまったのだろう、と。
自省して少しまともな文章が書けるようになった。
改めて本も読んだ。
今までよりずっとずっと面白く感じるようになった。
その代わりに、表現方法にうるさくなった自分が読書の合間に邪魔をしてくるようになった。
なんて恩知らずの自分だろうか。
僕は本を読んでいなかったのだろうか 深田くれと @fukadaKU
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます