第72話 イシュタル国決死行
イシュタル国王は自国ではなく、包囲網連合参加国で出陣式を執り行う。
「我が国の誇りであった猛将アーノルドは、侵略者の卑劣な手により殺された!
我々はこのまま黙って指をくわえているだけか!? いや違う! 身に降りかかる火の粉は払わねばならない!
今こそ我らは一致団結し、ハシバ国という脅威を打ち破らねばならない!
もし負けようものなら諸君らの妻や子が奴隷として売り払われ、圧政と
この戦い、絶対に負けられない! アーノルドへの弔い合戦だ!
必ずや、勝利を手に再びこの地へと戻って来ようではないか!」
(英雄は死して再利用される……か。アーノルド、すまない)
イシュタル国王は親友とでもいえる配下を死してもなお働かせる事に少しだけ後悔しつつも、国を守るためには仕方のない事だと割り切っていた。
「こんなこと言っていいのか分かんねえけど、うちの閣下は気合だけ入ってて空回りしてるっぽいよなぁ」
「だよなぁ。卑劣な手によって殺されたとか言うけど、本当は一騎打ちの末に死んだって聞いてるぜ?」
「負けると圧政と搾取の嵐が吹き荒れるとか言ってたけど、グーン国にいる知り合いからは奴隷化は無しで税制もハシバ国本国と同じにしてるそうだ。
おかげで税金が侵略前より安くなったとか言ってるらしいぜ?」
王の気合だけが空回りしていて兵士たちの士気は今一つ低めではあったが。
「アルバート様! 敵軍が襲い掛かってきます!」
「あわてるな! 我々の守りは固い。耐えられるはずだ。全軍配置につけ! 応戦するぞ!」
敵軍来襲の先報を受けあらかじめ集められていた800の守備隊にアルバートは指示を出す。
ハシバ国首都地域の城壁は増築工事が行われており、木製の城壁の後ろに要所で部分的に石製の城壁を築き、2重の守りにしている。
2重に守られているのは要所だけの不完全なものだが、それでも城壁としては十分に機能しているものだった。
「敵軍、来ます!」
「よし!
そう指示してボコボコと沸騰する油を敵軍めがけて浴びせかけた。
「油、来るぞぉ!」
「あああああ! あぐおあああ! め、目が、目がぁ!」
破城槌の屋根の隙間から高温の油が垂れ、操作している兵士の1人は不幸にも顔面に浴びてしまう。
油の高温で熱せられて屋根は燃え、操作している兵士がむき出しになってしまう。
「破城槌の屋根が焼けた! 操作している兵士を狙え! 放て!」
アルバートはそう指示し操作している兵士を次々とクロスボウや弓で射抜いていく。
しかし相手は次から次へと交代で人員が補充され、止めることができない。
「アルバート様! 城門、もう持ちません!」
「落ち着け! 大丈夫だ。総員、後ろの城壁へと後退しろ!」
彼の指示のもと後方の城壁へと次々と退却していく。ハシバ国兵全員の再配置が終わるのとほぼ同時に木製の城門が破られてしまう。
やっとの思いで木の城門を突破した侵略者たちの目の前に立ちはだかるのは石でできた城壁と鉄をふんだんに使用しさっき破った門とは桁違いに守りが固い城門だった。
「カタパルトの準備はできてるな。奴らに食らわせてやれ!」
アルバートの指示で木製の門では床の強度の関係上配置できなかったカタパルトが城門の上から大量の小石を侵略者たちに浴びせていく。
小石と言えど握りこぶし程の大きさはあり、当たり所が悪ければ即死するほどの致命傷を与えることもできる凶器だ。
「うげっ!」
「ぐっ……」
カタパルトから放たれた石をまともに食らった兵士が次々と倒れていく。
この新兵器の活躍のおかげか、包囲網連合軍はその日の日没まで戦ったが城壁を落とすことはできず、やむなく陣に引き返すこととなった。
「閣下、我が隊の戦況は好ましくありません。このままでは犠牲が増える一方かと思われます」
「閣下、我が隊の兵数が100を切ってしまい、戦闘継続も危うくなっています」
「ぬうう……」
部下から上がってくる報告は渋いものばかり。明らかに戦況は悪いと言わざるを得ない。
だがここまで来たというのにこのまま退却するわけにもいかない。そう思っていたところ……。
「閣下!! 緊急事態!! イシュタル国、陥落とのことです!」
「な、何だとぉ!?」
とんでもない報告が上がった。それは、母国陥落の報だった。
【次回予告】
国を落とすどころか逆に落とされてしまったイシュタル国王。
だがそれでも彼は負けを認めない。
負けを認めて敗者になるくらいなら死んだほうがまし。そんな考えだからだ。
第73話 「イシュタル王 崩壊」
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