第71話 イシュタル国攻略戦

「冬にイシュタル国を攻める、ですと?」

「ああそうだ。今追撃をかけないとダメだ。翌年の夏まで待つと相手が回復してしまうし、気まぐれなアッシュル国の動向も分からなくなる。

 今がチャンスなんだ。今しかけないと包囲網突破まで何年も足踏みしてしまう! 俺にはそんな時間は無い!」

「閣下、いささか慌てすぎではありませんか? いては事を仕損じるともいいますし。それに今回はイトリー家やビルスト国の支援も期待できませんよ?」

「無理強いなのはわかってる。でもどうしても今落とさないといけないんだ。頼む。今は耐えてくれ」

「……そこまでおっしゃるのなら拒むわけにじゃいきませんな」


 マコトの配下は説得されてしぶしぶ軍を動かすことにした。


 新年を祝う祭りも終わり正月気分が抜けてきたころ、マコトは2400の軍を率いてイシュタル国へと出兵する。


「閣下、一応は私も戦いに参加していると言えばそうですが、参謀扱いですか」

「ああそうだ。ディオール、お前もそろそろ年だろ。ハッキリ言ってその身体じゃ戦場には出せん」

「ハァ。仕方ありませんね」

「あのー……閣下? なんで我らがアッシュル国の部隊が最前線なんですか?」

「有能な者には活躍してもらわんとな。それともアレか? 怖気おじけづいたか?」

「う……う……」


 イシュタル国の城前からそう遠くはない場所に陣を構えたハシバ国軍の軍議。

 そこでアッシュル国の王は、自分は「捨て石」だというのが分かった。後悔するがもう遅い。

 簡単に相手を裏切る国は同じように簡単に味方を裏切る尻軽だし、実力も大した事は無い。そう判断されたのだ。




「? 何だ?」


 マコトは違和感を感じていた。敵兵が城壁から出てこない。最初から籠城ろうじょうするつもりらしい。

 携帯式の望遠鏡で城壁に配備されている敵兵の数を見ても、聞いた話でのイシュタル国の国力の大きさからしてはやけに少ない。

 大規模な伏兵でもやるつもりだろうかと思い、ハーピーの偵察部隊と斥候せっこうによる入念な索敵をしてもハシバ国軍の周りには敵はいなかった。


「兵士はどこに行ったんだ? まぁいい。攻めこめ!」


 マコトの合図で破城槌はじょうついと攻城塔が進軍する。相手の妨害に屈せずに突き進んでいった。


「尻尾を丸めるな! 押せ! 押せ!」


 攻城塔からメリルの弟であるアレックス率いるコボルドの部隊が勢いよく飛び出し、城壁を制圧していく。


「アレックスの奴に手柄を独り占めさせるな! 行くぞ! ついてこい!」


 オーガのナタルも部下に発破をかけて自らも敵陣向かって大太刀をふるって雑兵を斬り捨て、敵陣に真正面から切り込んでいく。


「ハァアアア……フレア・バリスタ!」


 ジャック・オー・ランタンたちが炎の魔力でできた太矢を放つ。その命中精度は精確そのものであり、

 先行している破城槌の邪魔にならず、それでいて城門にダメージを与えられる絶妙な位置にピンポイントで着弾する。

 城攻めは順調に行われており、しばらくすれば落ちるだろうと予測される。だからこそ、引っかかる。


「……何かあるな。イシュタル国王は何を考えている?」


 城壁の上で防衛部隊に指示を飛ばしているのはイシュタル国の王ではなかった。

 前情報によれば彼は軍団指揮が下手というわけではなく、むしろ何度か戦闘経験を積んでいて得意な方であるとは聞いている。

 ならなぜ戦場に出てこないのか?




「? 何だ、あれ?」


 同時刻、ハーピーの偵察隊が奇妙なものを見つける。

 イシュタル国とは別の包囲網参加国にイシュタル国の兵を中心とした連合軍が集まっている。その荷物の中に攻城はしごや分解した破城槌があるのが見えた。


「ハシゴに破城槌……? もしかして、首都に攻め込むするつもりか!?」


 どうやら侵攻中のハシバ国軍を攻めるつもりはなく、あくまで城攻めをするつもりらしい。偵察隊はマコトのもとへと急いだ。


「閣下! 敵連合軍およそ1400が我が国の首都めがけて進軍を開始しました!」

「! 何!? ……そうか、そう来たか。大丈夫だ。首都はアルバートが守ってる。落とされることはないはずだ。このまま攻撃を続けよ!」


 マコトは指示を飛ばす。敵兵の数が正しければそう簡単に守りを崩されるような勢いにはならない。そう確信し城攻めを続けることにした。




【次回予告】


ハシバ国首都を攻め落とすつもりのイシュタル国王。

その一手は吉と出るか、それとも凶と出るか。


第72話 「イシュタル国決死行」

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