第70話 水車誕生

 秋も深まりそろそろ冬支度を考えなければならない位朝晩は冷えるようになったある日、ギズモがマコトの元を訪ねてきた。その手にはとある建築物の設計図があった。


「カシラぁ。カシラのカネが必要な仕事持って来ました」

「今のところマナを使うような大掛かりな設備は必要ないな。っていうかそこまでカネは余ってはいないな」

「そう言うと思って、最初はマナを使わない安い設備を作ろうと思っております。ズバリ、水車という設備でして……」

「水車? 水車だと!? 作れるのか!?」

「おっと、知ってるのなら話は早いですね。なに、俺たちの魔導器具の製造知識を流用すれば出来ねえことなんてありやせん。任せといてください」


 水車は製粉や紡績ぼうせき(綿や羊毛などの繊維から糸をつむぐ事)、それに機織はたおりなどの工業の動力源として使われてきており、現在の地球においては時代遅れの遺物だがこの世界では現役の機械だ。


「これがその設計図で、これが予算案となります」

「ふむ……この予算内ならいけそうだな。早速作業にかかってくれ。カネは出す!」

「おっしゃあ任せとけ!」


 実をいうとギズモ達は許可が下りるのを待っていた。早速大工達の元を訪ねてある依頼を頼む。


「ふーむ。この通りに木材を加工してくれって事か」

「ええまぁ。報酬は払いますんで期日までに仕上げてください。なるべく早めにやってくれると助かりますがね」

「ん、わかった任せとけ。ところで何のために使うんだい?」

「それは……お楽しみって事で良いですかい? 旦那」


 何に使うかは分からないが、とりあえず言われたように加工するだけで報酬が出るのならやろう。ドワーフの棟梁とうりょうは気楽に考えて2つ返事を返した。




 数日後……ドワーフの棟梁が部下と材料を連れてギズモの元へとやってきた。


「ギズモ。例の木材、持ってきたぞ。あと人もいくらか呼んだぞ」

「よーし、材料が揃った。お前ら、行くぞ!」


 グレムリン達と手伝いに来た大工数名が組み立てを開始する。

 大工達とグレムリン達の手際が良いのか、最初はバラバラだったパーツが徐々に形になり、木材たちが小屋そして水車へと変わっていく。


 作業を始めること3日……


「どうだ?」

「もう少し下ですね。そうそうその位置! よし! 完成だ!」


 小屋と水車の設置が完了し、動き出す。


「へぇ~。川が流れてさえいれば石臼が勝手に回り続けるのか!」

「そういう事。もう人の手で回すなんて時代遅れさ。これからは水力の時代ってわけさ」

「はぁ~大したもんだ。噂にゃ聞いてたがグレムリンは器用な奴だな。こんなもの作っちまうなって」

「へへへ。まぁこういう仕事で生きてるからな。そうだ。完成記念に打ち上げやろうよ」

「ほほぉ! 分かってるじゃねえか! 今日は飲むぞ!」




 その日の夕方、酒場「母乳」にて……


「仕事の成功を祝って、乾杯!」

「「「カンパーイ!」」」


 木や陶器製のジョッキをガツンとぶつけて一気飲みする。


「ギズモ君、あなたたち豪勢に飲んでるけど何かいいことあったの?」

「俺達の仕事が終わったんで打ち上げさ。料理も酒もじゃんじゃん持ってきてくれ。大丈夫! 金ならあるぜ」

「あらそう。だったらどんどん作らないとね」


 マスター側もつけ払いにならなくて済みそうで安心したようだ。


「ところでギズモ。お前最近いいことあったか?」

「いいことねぇ……特にないけど」

「そうか。じゃあお前は?」


 ドワーフの大工は別のグレムリンに何かいいことがあったのかを尋ねる。


「そうだなぁ。そういえば最近って程じゃないけど3ヵ月前に俺の姉が結婚したんだ」

「おおそうか! じゃあそれに乾杯しよう!」


 彼がそういうのを見計らったように新しい酒が来る。彼らはそれを持ってもう一度乾杯する。


「姉さんの門出を祝って、乾杯!」

「「「カンパーイ!」」」


 再びジョッキをガツンとぶつけて一気飲みする。

 その後も彼は仲間に良いことを尋ねては乾杯を繰り返した。となると酔いはあっという間に回っていき……。


「ううう……気持ち悪ぃ……」

「うっぷ。もう飲めねえ……」


 ドワーフの棟梁を除いて全員酒にぶっ倒れてしまった。


「なんじゃお前らもうだめか? まぁいいや。ワシはもう帰るぞ。会計はこいつら持ちだ」


 そう言って彼は去っていく。

 会計はつぶれた側持ち。これもドワーフの飲み会の鉄則であった。




【次回予告】


マコトはついにイシュタル国攻めを決行する。

イシュタル国もそれに合わせて動き出す。


第71話 「イシュタル国攻略戦」

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