1326年 消息不明
南方大陸北部、要塞都市ルルライン
前年からいくつかの遺跡を探索していたトーマスがルルラインの街に戻ってきて最初にスウォンから聞かされた言葉はショッキングなものであった。
「いいかいトム、落ち着いて聞いてくれ。君のご両親であるウェル夫妻が以前より数年駆けて探索と調査をしていた遺跡で消息を絶った。既にルルラインから調査隊を派遣はしているけれど……」
瞬間的に呆然としてしまっていたトーマスだが。
「いやいやいや、スウォン。いくら冗談でも質が悪いぞ。あの二人がしくじるなんて……」
「トムがそう言いたくなる気持ちはとてもわかる。僕だってウェル夫妻のことは長年母様のことも支えてくれた大切な人だし、その実力だって理解している。だけどこれは本当に起きたことなんだよ」
スウォンの真剣な表情と声に、トーマスも真剣になる。
元々スウォンの性格的にこのような冗談を言う人間ではないことは熟知していたものの、自身が尊敬し、目標としている両親が消息不明になるようなミスを犯すなど想像もつかなかったからこそ冗談と考えざるを得なかった。
トーマスとスウォンは、トーマスが冷静になるまでの間お互いに黙り、次に口を開いたのはトーマスだった。
「……いつのことだ」
「僕のところに情報が来たのはトムが遺跡を探索に出かけて、予定日数の半分が経過した日だったから……先週だね。場所は……」
「そこはいい、親父達はコリューネを拠点に南西部の大砂漠を調査していたからな、調査するならまずコリューネの家を調べればいい、探索の計画のメモがあるだろうからな」
「うん、それはわかっていたからトムには悪いけど調査隊にはまずそっちを調べてもらってる。その結果大砂漠の中心部、人類が未だ到達できていなかったそこに遺跡があることを長年の調査で推測した二人は数人のパルムを雇って出立したという記録が残っていたよ」
「それ以外は?」
「メクリス先生にも確認のため行ってもらったけれど、これ以上の情報は見つからなかった。もしかしたらトムにだけはわかるように何か残しているかも知れないけれど……」
「わかった、俺も現地に行く」
「事態が事態だよ、僕としてはあまりトムを行かせたくはないと思ってる。それが無理なのは承知しているけれど……」
「シグニさんとカークスさんにも話して頼るさ。それに可能ならスウォンが派遣した調査隊とも連携するし……俺には単独であの二人がしくじった道を成功させられるなんて自信はこれっぽっちもないから安心してくれよ」
「……やっぱり行くのか。わかった、シーカーの基本的な装備は既に用意させているから兵士詰所で受け取って。足りないものがあるなら主計科に言ってくれれば路銀の提供もできるから」
「そこまで準備できてるってことは……まぁ俺たちの仲だから結構な待遇が用意されてる可能性は考えてたが……装備のほうはありがたく受け取っておくが、金のほうは別にいいさ、ルルライン発展のために集めた税金だろうからな、街のために使え」
「トム……うん、わかった。でも本当に気をつけて、現在最高のシーカーが消息不明になったってことはどれだけ警戒しても警戒しすぎってことには絶対にならない。無理だと思ったら確実に撤退できるように……」
「わかってる、俺だってこの一年シーカーとして活動していたんだ。そのへんのことは嫌というほど理解している。……まぁ息をするレベルでそれができる人間が今回消息不明になったわけだから、スウォンの言うとおりに過剰なまでに警戒するさ。じゃあ俺はウェンディたちにも今の内容を伝えて準備が整い次第コリューネに向かう」
「うん、これ以上の言葉は必要ない……けど改めてこれだけは。気をつけて」
「おう、ありがとうな」
執務室を出て行くトーマスの背中が泣いているように見えたのは、自分の気のせいだろうか。
そんなことをスウォンは思いながらも幼馴染二人の無事を祈ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます