1323年 都市建設
南方大陸東南部、港町コリューネ。
ルルライン平原での戦いの事後処理に追われ、各自治体の慌ただしさがようやく一段落し、今後のことを話し合うために再び代表たちがコリューネに集まっていた。
以前はメクリスの弟子として付き添いで参加していたスウォンだったが、今回は戦争を早期終結させた功労者として参加していた。
「えーそれでは、前年に発生した北方貴族の一人、キアブレスとの戦いにおける最終的な事後処理の話し合いを始めたいと思います」
議長役であるコリューネの代表が会議を始める言葉を発すると、戦争の犠牲者が多かった北部の各自治体の代表が叫ぶ。
「こちらは勝ったのだ、ならば北方貴族の監修に習って賠償を請求しても構わんだろう」
「そうだ、あの戦いで私の地域では多くの若者が犠牲となったのだ、連中にはそれなりに責任をとってもらわなければならんぞ」
参加者の多くがその叫びに首を縦に振り同意を示すが、最大の功労者であるスウォンとその師であるメクリスはヒートアップしている各代表に向かって冷静になるように促す。
「皆さんのお気持ち、ご意見は最もだと思います。しかし北方大陸全土が度重なる自然災害に見舞われた結果であると考えると、あまりこちらの要望通りに行くとは考えないほうがよいと思います」
「そうですね、スウォン君の言う通り彼らの手元にあるものは資金、お金だけだと私も思います。その辺を要求するのは問題はありませんが、復興のための働き手や食料を要求しても拒否されるだけでしょう」
「ではお二方はどのようにするのが一番だとお考えですか」
「そう、ですね……元々不可侵の地であったルルライン平原に最初に立ち入ったのはキアブレス伯であった事実を利用すべきではないでしょうか。南方大陸は分磁力はほかの大陸に劣るにも関わらず、北部にはまともに侵略者を迎えうてるだけのものが存在していませんので、ルルライン平原の端に今回の犠牲者を追悼するための町を建築する……というのを認めさせるのも良いかもしれませんね」
賠償請求に対し要求が加熱しないようにと言っていたメクリスが、ある意味で一番困難である提案をする。
「元々ルルラインの地は三大陸での最も聖地に近いという理由で不可侵とされているだけですし、南方大陸に初めて降り立った冒険家ルルラインの時代にはなかったものです。つまりほかの大陸への政治干渉は行わないという不文律を、北と西の貴族たちが破り勝手に決めた不可侵の地。今回の結果を鑑みればこの要求はそれほど難しいものではないと思いますよ」
この時スウォンとメクリスの中では少なくとも北方貴族連盟は首を縦に振らざるを得ないという計算が頭の中にあった。
あえて金銭的要求を少なめに行うことでよりその譲歩を引き出せるという考えではあるが、同時に南方大陸側の一部自治体にとってはたまったものではないという考えも出るとは思っているものの、長期的に見ればここで賠償金をもらう以上の利益を見せれば問題無いと考えたのである。
「そのため北方貴族連盟への賠償請求は控えめにならざるを得ないでしょうが……その代わりに現在南方大陸の防波堤として機能しているいくつかの自治体の代わりとなるような都市を建設することによって、長期的な利益を提供すると人々に説明していただきたいのです」
「あえて矢面に立つというのか、確かに長期的には利点のほうが強くなるが……遺族を納得させるには弱い気はするな、それに西方はどうするのだ」
「遺族の方々には私の私財からも補填しましょう。そして西方貴族に対しては私に秘策があります」
メクリスはスウォンの顔を見て笑うと、その秘策の説明を始めた。
「北方貴族は先ほども言った通り、こちら側が優位ですのであまり気にしないで良いでしょう。身内に対しては、難しい部分もありますが歴史的に北方貴族に勝ったという世論のほうが強いですからね、遺族に対して手厚い補償は必要ですが私の私財をいくつか吐き出せば滞りなく行えると思います。そして西方貴族に対しては、私はむしろ協力すら取り付けられる可能性があると思っていますよ」
そしてメクリスはスウォンの両肩を持つようにして、説明を続ける。
「ルドベキア様の嫡子であられるスウォン君がその都市の領主を勤めれば良いのです。ルドベキア様は元は西方の出身で、そのお人柄から民草にも大変人気がありました。正直なところ私はルドベキア様を政治利用するような形になることは遺憾ではあるのですが、南方大陸はルドベキア様も愛された土地です。そこに息子であるスウォン君が母の眠る土地を守るための都市を作り、先の戦いで戦死した方々を追悼する目的であると宣言すれば……」
矢面に立たされたスウォンはそんな話しは聞いていないと言った顔をするものの、師メクリスの言うことも理解ができるため黙ったまま頭を回転させる。
確かに自分が矢面に立つことで貴族からの追求等が抑えられるのなら、最もコストを使わない手段であるし、貴族として生を受けた自分は本来、既にそのようなことをやっていてもおかしくない歳である。
スウォンの中の理性では師の提案は確かに自然なことであると理解はするものの、感情の部分では母を政治利用するような提案に珍しく怒りを感じているのも事実である。
しかしながら怒りを感じている感情の中に、母が眠る南方大陸を自分の名と手で守ることができる内容であることにやるべきだ。という気持ちがあることも確かであったスウォンは。
「……少し、考えをまとめる時間をいただいてよろしいでしょうか」
「そうですね、これは南方大陸の今後を決めると同時に、スウォン君の人生を決めてしまう内容です。皆さんは彼に考える時間を与えることに対してどうお考えでしょうか」
メクリスの質問に会議に出席していた代表者たちは、この案しかないという声も上げつつ首を縦に振り、スウォンもその様子を見て自分の運命の一部を悟ったという。
この会議の結果は後日の大陸間交渉に置いて提案され、そのときよりスウォン10世は世界の舞台へと進出することとなったのであった。
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