1321年 技術研究
南方大陸港街コリューネ
メクリスの研究室の一角でスウォンは一つの研究を行っていた。
「えっと……フリントロック式の銃はいろんな欠点がある。まぁ構造が単純で本体の故障に関しては火薬による砲身の摩耗くらいしかないのが利点ではあるのだけれど、それ以上に欠点が多すぎるわけで」
「あの時スウォン君が提示したのは銃弾自体に火薬を詰めて、引き金を引いたときに発射されるようにするとのことでしたが」
「はい、しかしそれを行うにはフリントロックで言うところの撃鉄、その機構を応用して銃弾に詰めた火薬に着火できる仕組みが必要です。強い衝撃で弾を叩くことで実現できればいいのですが、どうしても精度の問題があって試作すらできないのが現状です」
メクリスにスウォンは現在行っている研究の進行状況を報告を行っている。
「スウォン君、やはり銃身に火薬を詰めるのが最も楽なのではないでしょうか」
「いえ、それではやはり実戦では難しいと思います。僕の提案したものであればあらかじめ準備しておければ装填も簡略化できますし、何より雨天でも使用できるようになります。僕としては撃鉄を用いれば何かしらできるんではないかとは思うのですが、この火薬を入れる筒、実包と僕は呼んでいますが、これの形状は円柱でこちら側に弾、後ろに発火装置をつけて実包を今までの銃身として使うのですよ」
そう言ってスウォンはメクリスにその全てを行った状態の試作品を見せる。
メクリスとしてもスウォンが何度かこの形にたどり着くまでに見せてもらっていたので驚きは見せはしないものの、その実スウォンの発想と手先の器用さには常に関心していた。
この時、スウォンがメクリスに見せた実包は歴史を紐解く学者が驚くようなもので、スウォンが生み出した実包の概念は既に通常のライフル弾や拳銃に装填するタイプの物以外にも散弾や狙撃銃、榴弾等の砲弾に該当するものすら設計図が完成していたとの資料まで実在するのだから、優れた識者であったメクリスがスウォン10世を第一の弟子としたのも当然であったと言える。
「……なる程、これは現在の異能力者でも想像しないところでしょうね。最も異能力者であるのならば物理的な物質を加速して飛ばすなどほぼ考えることもないのですが」
「そこで僕は優れた異能力者であるメクリス先生の意見を聞きたいのです、無能力者の発想力では発火装置の部分があまり思いつきませんので」
「私はそれこそスウォン君の発想力を超えられるものは現在のトライランドには居ないと思うのですが……あぁそうだ、火打石の原理はどうでしょう」
「火打石でしたら、既にフリントロック式で使って……いやちょっと待てよ、別にそのへんの機構は大きくなくていいんだ。となると銃本体のほうの構造を……」
メクリスの言葉に何かインスピレーションを得たのか、スウォンは突然紙を広げて銃の内部構造の設計を書き始めた。
「……メクリス先生ごめんなさい、ちょっとこれを試作してきます。実包側にあれをつけて、撃鉄を少し重い形に……」
この時スウォンが試作した銃は、構造を見たメクリスが危険だと判断し分解されたとのことだが、威力等の調整ができておらず暴発する危険性が極めて高いだけであって、現代にまで続く雷管と呼ばれる構造が産声をあげた瞬間でもあった。
そして雷管の発明により、フリントロック式とは違う形の銃の量産も始まっていくこととなり、今後リボルバー式、及びレバーアクションによるライフル銃が量産されていくようになった。
スウォンは開発者として専用の研究所の開設が南方大陸自治連合から認められ、自分自身の銃の設計を始めたのだった。
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