1317年 開拓の地
南方大陸東南部、港町コリューネ。
人類発祥の地とされる三大陸に囲まれる形で存在する聖地である火山島ミラリアスから極めて遠いこの地は通年に渡り温暖な気候で内陸では農墾と畜産、海にも豊富な漁場もあり、それほど離れていない島では珍しい鉄器技術もあって異能力が阻害される南方大陸の中でも特に発展した場所である。
この南方大陸での異能力阻害については長年研究者が調査しているものの原因がわからず、しかしそのおかげで貴族にとっては防衛に向かない土地として見向きもされなかったのである。
「ここがコリューネ……」
「そうですよスウォン、あぁ空気がおいしい。マウントヒルも高地で空気は澄んでいたけれど、コリューネは優しく暖かい潮風と、内陸にある雪山から吹く風で過ごしやすそうですね」
シーリアに住み始めて、そこの暮らしになれ始める頃に再び北方貴族からの圧力があり、ウェル夫妻の提案で北方貴族が手を出しにくい南方大陸に逃れたルドベキアとスウォンが、コリューネの街を船の上から眺めて感嘆の言葉を漏らしていた。
「ほらトーマス、あなたにとっても始めてのコリューネなんだから何かないの」
「何もないよ母さん」
南方大陸にルドベキア、スウォン母子に出立するように進めたウェル一家も、道中の二人の身を守るために同行していた。
「何もないってお前なぁ、シーカーとしてはもっとこう、新天地に感慨みたいなものは……なくてもいいな!」
「もう、貴方は……まぁでもそうね」
「それにしても本当、貴方たちには申し訳なかったわ、私たちが巻き込むような形になってしまって」
まるで旅行のような雰囲気であるウェル夫妻に対し、ルドベキアが申し訳なさそうに謝罪をする。
「謝られることは何もないですよルドベキア様、私とイングリッドも本当に南方大陸にハイブースターが無いのかと確かめに近々訪れる予定でしたから、それが少々早まっただけです」
「南方大陸であてもなく探索するなら、コリューネを拠点にするのは当然ですし、むしろルドベキア様のほうがついでみたいなものですよ」
ウェル夫妻の言葉に思わずルドベキアも笑う。
その様子を見ながらも、未だどこか元気のないスウォンを見つけたトーマスはスウォンに近づき話しかける。
「どうしたスウォン」
「トム、僕のせいで西方大陸にいられなくなってごめん。ウェンディとティムにもお別れできなかったし……」
「なんでお前が謝るんだよ、悪いのは北方貴族の中にいるお前を良く思ってない連中だろ。無能力者を迫害するのが北方大陸の風土なのは有名だが、暗殺者まで送りこむなんて普通じゃなさすぎだろ」
「それが北方大陸……いや、北方貴族の常識なのさ」
「常識ならお前の父さんもか?お前とルドベキア様を逃がしてくれた人もか?」
「それは……」
そこで一度会話が止まり、うみねこの鳴き声に合わせるようにしてスウォンとトーマスの目の前にイルカが現れると、二人は驚きの表情をしてから笑い合い別の話題を始める。
「ところでなんで南回りで大陸南部同士をつないでいるんだろう、距離で言えば西か北のほうが楽だろうに」
「俺も父さんに聞いただけなんだけど、西のほうは海流が複雑な上に崖ばっかりで上陸できる地形がそもそも少ないらしい。北はなんというか三大陸でも一番聖地に近い場所があって北と西の貴族がにらみ合ってて政治的に難しいんだと」
「そうなんだ……南方大陸は異能力が阻害されるのに、貴族にはあまりうまみはないと思うけど狙っているんだね」
「土地は土地、統治の仕方次第では穀倉地帯として利用できるし、一時的な滞在場所としてなら問題無いはずだからな。まぁ生活する場合異能力に頼りきってる奴らは全員ふるい落とされるだろうけどな」
「トムでも難しい?」
「どうだろうな、俺も南方大陸は初めてだからわからん。でも父さんと母さんは普通に異能を使ってるみたいだからできなくはないんじゃないかとは思うぞ」
「そうなんだ……」
「そういう意味じゃ、この大陸なら俺もスウォンもあまり変わらないってことだな。生活様式やいろんな道具も異能力に頼らない前提のものらしいし、楽しみだなぁ」
そうして降り立った新天地は二人にとって、この時期が最も幸せだったのではないかという歴史学者もいるほど、平穏な日々が続いた。
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