1305年 スウォン10世誕生

 北方大陸中腹の平原を領地とし、北方貴族連盟の盟主ティルレイン公爵は今年の農作物の収穫量と、次年の計画について会議をしていた。

 北方大陸において最も収穫量も多く、優秀な人材も多数輩出していたティルレイン公爵領においてこの会議は、北方大陸全土に住まう全ての人が食料にありつけられるかを左右するほどの重要な会議であるのだが、この時のティルレイン公爵スウォン9世は集中できていなかった。

「ですからこの村の次回の作付は米ではなく自然薯に…………スウォン様聞いておられますか」

 他の会議出席者に声をかけられても上の空で、一同が頭を振ろうとしたとき会議室の扉が開いた。

「スウォン様、お生まれになりました!」

 侍従と思われる女性が、本来通常ならば打ち首にされてもおかしくない勢いで扉を開き、そう叫んだ。

「男か!女か!」

「立派なお世継ぎにございます!」

「そうか……でかした!皆の者申し訳ないが会議は明日に」

 スウォン9世はそう言うと会議室を飛び出して行ってしまった。

 会議室に残された諸侯は苦笑でそれを見送ると。

「まぁわかっていたことですね、お世継ぎがお生まれになるかどうかというときに会議など集中できるはずもない」

「確かに、会議を始める前からも上の空で絶対に報告はお耳に入れられていなかったろう」

「はぁタイミングが悪かったですね、私の所領では獣害被害に対してのご意見をもらいたかったのですが……」

「なんだそれは確かに重大事案ではないか。よし、ティルレイン公爵のお世継ぎがお生まれになった祝砲で私が手伝おうではないか。そこまで心配なさるなリューメイア伯、このアイアスが手伝うのだから害獣程度一蹴して見せようぞ」

「感謝しますアイアス伯。ともあれ行われるだろう祝宴に間に合うよう直ぐに動きましょう」

 そう言って2人の貴族が会議室を立ち去ったとほぼ同時、屋敷の全体に聞こえるほどの声量でそれは鳴り響いた。

「おぉ……おぉ……我が子よ!お前には祖先より受け継いしスウォンの名を授けよう!スウォン10世だ!」

 一同は再び苦笑と共に、公爵の世継ぎ誕生を喜んだという。

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