トライランド戦記
水森錬
プロローグ:1322年 ルルライン平原の戦い
「怯むな!この土地が確保できれば我が国の食糧難はかなりの改善が見込める、貴様らの家族も食べ物にありつけるようになる為に阻む者を全て蹂躙せよ!」
南方大陸の最北端に位置するルルライン平原に怒号が飛び交う。
割腹の良い馬に乗った男がそう言ったのを契機に平原のそこかしこで大気が震え、大地が割れ、草花が焼かれ始めた。
「相手は無能力者の劣等種なのだ、奴隷としても役に立たないものを捕虜にする必要はない、早く磨り潰せ!」
男がそう言うと、隣にいた細身の全身を覆うローブを身にまとった男が顔の前で強く合掌すると、対峙していた軍勢の真上に暗雲が立ち込め……いくつもの雷が人に向かって落ちていった。
「南方大陸でも最も肥沃なこの地を手に入れられれば、他の伯爵共にでかい顔をさせないですむ……いやそれどころか侯爵位も戴けるやもしれん。南部大陸の無能連中が力を付ける前に手に入れておかねばな」
「キアブレス様、今は戦場です。油断なさらぬように」
「何を言う、南部の連中が開発したという新たな武器、銃と言ったか。火薬で小さい鉄球を飛ばすだけのただの小さい砲でしかない。ならば我々にそのようなものが通用するわけなかろう」
「しかし既に新型を開発したという情報もございます。万が一御身に何かがあっては帝国にとっては大損害です」
ローブの男がそう言うと、キアブレスと呼ばれた割腹の良い男は自身の顎に手を置き思案を巡らせ。
「確かに、戦場では何が起きても不思議ではない。西方大陸には無能力者に肩入れするものもいるのだからな……
キアブレスがそう言ったと同時に南方大陸軍……敵陣とは逆の海の方角から一発の銃声が鳴り響き、キアブレスの体が落馬した。
指揮官を失ったことでキアブレス軍は全体に動揺が広がり、陣形が崩れた場所から射程の短く、異能を用いれば防ぐことが容易なフリントロック式の量産銃に蹂躙されて行った。
後にキアブレスを撃った銃もこのフリントロック式であることが判明したのだが、新型で銃身にライフリング加工がなされており、火薬の性能や銃身自体の耐久性を上げた長射程で数十メートル離れた地点から正確に狙いがつけられる物であったらしい。
らしい。というのはこの銃がこのルルライン平原の戦い以外で使われたという正式な記録が存在しない上、設計図が後の世で『この時代の技術では量産は不可能だろう』と評されて、実際に残らなかったことからその歴史家の言い分は正しいのだろうとされている。
最もこの時使用されたであろう銃も現存していない以上、完全なる証明は不可能である。
そして世界の歴史はこの戦いを境に、大きく転換していくのであった。
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