第16話『生意気』
調理場。厨房に連れて来られたつがるは、トムにエプロンを渡され大量の野菜が、入ったダンボール2箱をトムが持って来て、つがるの目の前にドスッと置き。
「まずわー、この野菜を全部チャチャッと洗って、チャチャッと皮向いちゃってえー」
トムの適当な感じに、つがるは言葉を失う。
ーーーこの人・・・チャラいなぁ。
つがるが、にんじんの皮を剥いていると、トムがお椀に何かを入れて持って来た。
「ねぇねぇ、チャチャッと味見しちゃって?」
そのお椀から、生臭い匂いがし鼻をつまみコレが何なのかが、わからず戸惑うつがる。
ーーーチャチャっと、味見しちゃってって・・・。
「クサッ、これ・・・なんですかぁ?」
「うっそー見てわかんないの?つがるっち本当に人間?」
ーーーいやぁ・・・人間だから、わからないんですけど・・・しかも、つがるっちって。
「どこから、どー見たって味噌汁じゃーん!」
つがるは、そう言って目が点になる。何処からどう見ても、味噌汁には見えない。
そして具に、ふさわしくない物が大量に入っていた。
しかもそれは、見ただけで不味そうだとわかる。つがるは、生唾をゴクリと飲み勇気を出し1口飲んだ。
あまりの不味さに、目が飛び出そうになり飲み込む事ができず口から味噌汁を吐く。
「・・・まっず・・・」
「やっぱ・・・まずかったぁ?」
「えへへ」っと、トムが可愛いく笑ってごまかした。
つがるは、あまりの不味さに怒る気力も出ない。
「あんた・・・わかってて飲ませたんかい・・・」
トムは、その不味い味噌汁を平気な顔をして飲む。
「ボクたち死神には、人間みたいに甘い、辛い、塩っぱいっと言った味覚ってゆーの?ないんだよねぇー」
トムは、にんじんを手に持ち。
「だいたい、死神はこーいったモノ食べないし、だから何が美味しくって、何がまずいのかなんて、わからなくってさぁー」
「何人分作るんですか?」
つがるは、トムに聞いた。
「うーんとぉ・・・チャチャッと250人ぐらい?」
ーーーさっきからチャチャっとって、意味わかんねえーし。
つがるは、ため息をつきながら冷蔵庫の中身を見て。
「トムさん、あと時間どれぐらいあります?」
「チャチャッと1時間・・・ぐらいかな?」
ーーーこの人は・・・でも、やるしかない。
つがるは、気合いをいれ冷蔵庫にあったシャケの切り身を大量に厨房台の上に置き、みんなに指示を出しそれにしたがう。
「よしっ・・・すみませんが、これ焼いてください」
「はっはい」
「あと、包丁使える人、欲しいんですが?」
「はいっ、オレ使えます」
「あ、それと・・・トムさん。俺と変わってください」
「はぁーい、りょっ」
ーーーてかぁ・・・もう、どうでもいいや。
つがるの的確な支持で、全員が忙しく働きだした。
シャケの塩焼き、ほうれん草のおひたし、お味噌汁、漬け物が、お盆に並ぶ。
それを、1時間でつがるは朝食を作りあげた。みんなは、その朝食を美味しそうに食べる人たち。
「なんだこれっ、めっちゃうめー」
「今までのが、ウソみてー」
中には、泣く人もいた。
誰もいなくなった食堂で、寝巻きにエプロンをしてつがるが食器を洗いをしていると、制服に着替えた光が声をかけた。
「つがる、早く支度しないと、学校に遅れるよ」
光に、声をかけられつがるが寝巻きのままだった事に気づく。でも後片付けが終わっていない事に困惑した。
「あっ・・・だけど、後片付けが・・・」
「あとは、ボク達でもチャチャっとやれちゃうから、つがるっちは学校にいってらぁー」
近くにいたトムが笑顔で言った。つがるは、トム以外の人たちが自分が抜ける事で、迷惑をかけ嫌な思いをしているのではと思っていた。
だが、周りを見渡しても誰も嫌な顔どこりか、逆に笑顔でつがるを見ている。
心が、なんだか暖かい気持ちになったつがる。
「ありがとうございます」
学校の通学路の歩道の両端に、紫陽花が植えられ咲きかけている。つがると光は並んで歩き疲れきった顔をしているつがる。
「なんだか、ゾッと疲れがきた・・・てゆうか、何なんだよあの人わ・・・」
「・・・トムのことか?」
「めちゃくちゃなチャラいし、チャチャっとが多いい」
申し訳なさそうな顔をする光。
「あはは・・・どこかで、覚えて来たみたいで。でも、悪いヤツじゃーないんだけど・・・」
「ばーかぁ・・・そんなのわかってるってーの」
「そっかぁ・・・」
つがるのズボンのポケットから携帯が鳴り、携帯を手に取り画面を見ると、悠真からのメール。
「アイツらから、メール・・・」
メールを、チェックしているとあの時、あの人たちが両親に送ったメールが目に入り、開いてしまった。
つがるの顔が暗くなり、それに光は気づいた。
「どうした?」
「あっいやぁ・・・」
両親に送られたメールが、2人とも既読が付いている事に気づきつがるは、強がって笑う。
「これ見て思い知った。俺って・・・つくづく両親に、愛されてなかったんだなぁって」
「あのさ・・・」
つがるが、強がって笑っている事に気づき光は、自分の事を話し出した。
「今の僕のお義父さん・・・本当のお義父さんじゃないんだ」
光の口から出て来た言葉につがるは、「えっ」と衝撃をうけた。
つがるより一本先を、歩く光の背中に目線を向けた。そして光は、立ち止まり話す。
「もう、つがるは1人じゃない。僕らがいるじゃないかぁ!いつでも頼ってくれ」
つがるは、光のその言葉が嬉しさと照れくさい気持ちになった。
「うっ・・・うん」
つがるが、教室に入ると先に登校していた蓮輝が席に座っているのが目に入り、つがるは蓮輝の席に近寄って頭をさげる。
「・・・ごめん。お前に酷い言って、本当にゴメン」
つがるが、蓮輝に頭を下げているのを見て友達が驚いている。
「つがる、どうしたんだよ急に・・・」
だが、謝られても許せない蓮輝は無視をし教室から出た。
ーーーなんで、急に謝ってきた・・・?
蓮輝は、教室から出てスグに光が大毅と話しながら、教室に入って行く姿を見かけ。
「てっかさ・・・今日、隣のクラスの立川と一緒に登校してただろー、光いつから仲良くなったんだ?」
「・・・昨日から、一緒に住んでる」
「はぁ?そんな事、俺きーてねえー!?」
「今いっただろう!」
その時に、話していた会話が蓮輝に聞こえ驚く。
蓮輝は、ギリギリと歯ぎしりの音をたてながら怒っている。
「なんだよ、それ・・・」
次の日の朝。光が山の中を走っていると、後から誰かが近づいて来る足音が聞こえてきた。
ーーーあれっ、こんな時間に誰だろ?
ふと横に視線を向けると、蓮輝が隣で走っている。そして蓮輝は、そのまま光を追い抜いていった。
蓮輝の後ろ姿を見て、光は少し嬉しそうな顔をする。体育館の様なトレーニング室で、光は手にタオルを持ち汗を拭く。
そして傘立てのような所に、数本も木刀が入れられその木刀を2本手に取り、蓮輝は右手にっていた木刀を背を向けている光に投げた。
その木刀が、光の背中に当たり蓮輝は一瞬動揺する。光が、痛がりながら後ろを向く。
「あのさー・・・こんなの投げたら危ないだろうがぁ!」
蓮輝は、一瞬動揺はしたもの悪びれる様子もなく。
「俺と、賭けをしろうっ」
「はぁーー?キミには・・・ゴメンとゆう言葉を知らないのかぁ?」
「オレが負けたら、その言葉いってやるよ。でも、もしオレがあんたを倒す事ができたら、つがる《アイツ》には・・・ここから出て行ってもらう」
蓮輝は、木刀を光に見せ威嚇するような目付きで睨む。
「今回は、あんたも使っていい。しかも、本気で来いよ」
一方的に、話を進める蓮輝に光はカチンと頭にきた。
「この僕に、賭けを挑むなんって・・・生意気。二度と、そんな口が聞けないようにしてあげるよ」
顔を引き攣らせながら、光は満面の笑みで笑う。
「お仕置きしなきゃだねぇ!」
お互いに、木刀を持ち構え睨みあう。ピリピリと緊迫する空気の中、一向に動かない蓮輝を見て光は先に動いた。
「こないのなら、こっちから行くよ!本気で・・・」
蓮輝は、木刀をギュッと握り締め気持ちを引き締める。
「ああ、そーこなきゃっ意味ないからな」
光は、蓮輝の目の前まで来たと思ったら、一瞬で姿を消し蓮輝の背後に立ち、光は木刀を振り下ろした。
ーーーいつの間に・・・。
しかし、蓮輝も木刀で防御し光の木刀と、蓮輝の木刀が交差する。
ーーー前よりも、強くなってる。
「へぇー、やるねえ・・・」
光は、木刀で力いっぱい押し込むが、負けじと蓮輝も押し込む。
「次のも、交わせる?」
「ふっ」
そのまま、光は蓮輝の顔めがけ拳を振りかざす。
それも、蓮輝は顔を横に反らし、後に下がり何とか避けた。
光は、蓮輝がこの前と違う事に嬉しくなった。だがしかし、蓮輝は光の攻撃を交わせたのは、ここまで・・・。
光に、つがるは追い込まれていた。
ーーー攻撃が早い・・・、ついて行くので精一杯だ・・・。
蓮輝は、息が上がり汗をかいている。
「もう限界?」
光は、余裕そうな顔をし木刀を、床に落とし素手で蓮輝に向かって行く。
「それじゃ、これは要らないねぇ・・・」
その後は、光に蓮輝はボコボコにされ手も足も出なかった。
「これで、満足したかぁ?それにわかっただろう。僕と蓮輝の力の差」
「お前に、呼び捨てにされる覚えはない」
光は、生意気な蓮輝にイラっとくる。
ーーーここまで負けず嫌いだとは、尊敬するわ・・・。
ものすごく、蓮輝は悔しそうな顔をみせた。
ーーー何なんだぁ。オンナみてぇーな体したこんなヤツに、このオレが1度ならず2度も負けるなんて。
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