第14話『ただの生徒会』

光は、足の踏み場のないゴミの中を、何とか歩ける場所をみつけ、テーブルがある場所まで、たどり着く。


だが、テーブルの上には、火の付いた1本のロウソクとの周りに、食べた後のカップラーメンや飲みかけのペットボトルが、山ずみになっている。


ーーー電気・・・停められてるのかぁ・・・?


つがるが、そのカップラーメンとペットボトルを、手でテーブルの下にらんざつに落とし場所を空け。


「そこら辺に、勝手に座れっ」


「あっあぁ・・・」


光は、ゴミをどかし自分が座れる場所を作り座った。


1本のロウソクの火で照らされ、光がお弁当を食べている所を見て、つがるがちょっと不思議そうな顔をする。


「本当に、メシ食うんだ・・・」


そう言って、つがるは弁当を食べ出す。


ーーー今まで、僕があんなけ言ってても、信じてなかったのかぁ・・・。


光は、苦笑いしながら思った。突然、玄関からドンドンと扉を叩く音がする。


つがるが、一瞬嬉しそうな顔をして玄関の方に視線を向けた。


だがしかし、男の声だとわかると一瞬でつがるの顔が曇った。


「立川さーん」


「いるんでしょー?」


男たちは、応答がないと次第に声の音量が上がり怒鳴り声と、ドンドンと扉を叩く音がシーンと沈み返った部屋に響く。


「テメェー、居留守使ってんじゃぁねぇーぞっ」


「こっちは、いるのわかってんだよー。扉をぶち壊して部屋の中に入って行ってもいーんだぞー、コラァっ!」


玄関の外で、騒いでいた男たちが諦めて帰り際に言葉を残し帰って行った。


「金借りておいて、返さねぇー何で、とんだクズヤローだなぁ」


「どんな事してでも、金返してもらうからなぁー」


男たちが、車に乗り込み走って行く姿に、つがるがカーテンの隙間から、窓を覗き込みホッと肩を降ろした。


その時、光はテーブルの上のゴミの中に、新聞の中によく入っている広告の裏に、大人が書いたであろう字が目に入った。


だがラーメンの汁で汚れ、上の方は読めなかったが、下の方に書いてあった文章だは、しっかりと読めた。


『必ず迎えに行くから待ってて。母より』


ーーーそっかぁ・・・あの時、一瞬嬉しそうな顔をしたのは、お母さんだと思ったから・・・。


光は、胸が苦しくなる。


「あのぉ・・・生徒会長として僕が、キミに何ができる?」


つがるは、カラスである光に同情された事に腹を立てた。


「・・・っ、テメェーに、同情されるほど落ちちゃーいねー」


食べかけのお弁当を、光に投げつけた。


「出ていけぇっ、そんで二度と来るなー!」


次の日の学校。

休み時間。廊下を光と大毅が一緒に歩いている。


「でさぁっ・・・アイツ」


前から歩いて来るのは、いつもつがるとつるんでいる2人の友達。だが、そこにつがるの姿はなかった。


ーーーんっ・・・今日は休み・・・なのか?


突然、光はすれ違いにつがるの友達の1人を捕まえ、壁に押し付け怖い顔をして問い詰める。


「それは、どーゆことだ?」


それを見ていた大毅が、驚きオドオドする。


「おっおい、どうしたんだよっ急に・・・」


「さっきの話、詳しく聞かせてくれる?」


光が、つがるの友達に問い詰めた。


昨日の夜。

つがるの家で、光は制服の上着のポケットから携帯を取り出す。


「僕の番号を、入れておいた」


つがるは、光がバケットから取り出した携帯を見て、自分の携帯がなくなっている事に今気づいた。


「なんで、テメェが俺の携帯を、持ってんだよ」


ぶつかった時に、つがるが走り去るさいズボンの後のポケットから、携帯を抜き取った光。


「あの時、キミが落としていったんだろう」


テーブルの上に、光が携帯を置き。


「困った事があったら、いつでも電話してきてかまわない」


そう言葉を残して、光は帰って行った。つがるは、机の上にある携帯を手に取り、携帯場面に光の番号を出し「消去」をタッチして消した。


「勝手なマネしやがってぇっ、誰が・・・かけるもんかぁ」


今朝。つがるのアパートの外で友達2人が、学校に一緒に行こうと、階段の前で待っていると、つがるが気だるそうに階段から降りてくる。


「悪ぃ・・・」


つがるは、眠そうな顔をしてその2人の友達に挟まれ歩く。


「なに、寝てねぇーの?」


「ああうん。アイツのせいで寝不足」


「・・・アイツって?」


その瞬間、1台の車がアパートのコンクリートで出来た門の前に止まり、中から怖い男の大人たちが、前の席から2人降りてきた。


2人目は、鍛えられた肉体に、拳銃で打たれた様な跡が身体にある怖い大人の山本やまもと


3人目は、若く下っ端で異性がいい怖い大人の中村なかむら


「そこの兄ちゃん!立川 貴一たてかわ きいちって、知ってるかぁ?」


その後から、後の座席から1人降りの男が降りて来た。


顔の真ん中に、刃物で切られた様な1本線の傷跡があり、サングラスを掛けているボス的な怖い大人の田辺たなべ


そんな怖い大人にそう聞かれ、友達は怯える。


「なぁー、立川って、お前のオヤジじゃぁねぇー?」


中村が、つがるの顔を覗き込む。


「テメェーが、息子かぁー ああん」


つがるは、睨みつける。


「そんなヤツ・・・、知らねぇーし、ここにはいねぇーよ!」


田辺が、いい考えが浮かびニヤつく。


「兄ちゃん。ちょっとおじさん達と、お話でもしようかぁ?」


田辺が山本に指示を出し、つがるを無理やり肩に担ぎ車に押し込む。


「そいつを、車にのせろっ」


「はいっ」


「おいっ、離せ!!」


友達2人は、あまりの怖さに言葉を失い立ち尽くしていた。


こんな事が、3時間前に起きていた。学校の廊下を、つがるの友達が並びながら。


「あれっ、ヤバい人だよなぁー?」


「大丈夫かなぁ?つがるのヤツ、連れて行かれたけど・・・死んだりなんかしねぇーよなぁ?」


そんな話をしていた所に、光が前から歩いてきて聞いてしまった。その話を、聞いた光は俯き。


「・・・うめぇ・・・ごめん。行かないと」


そう言って、光は廊下を走り出しそばにいた大毅が戸惑う。


「えっ、えぇー・・・」


光は、人混みで混雑している昼間の街を、人を避けるように走り携帯を手に取り画面を見て考え込む。


ーーーきっと、僕の番号を消してるだろうしっ、これしか・・・ないかぁ。


光は、携帯を耳に当て走りながら誰かと話しだす。


「・・・すまない。頼みがあるう」


その頃つがるは、荒れ果てた廃虚の工場の中で、手足を結束バンドで縛られ顔をボッコボッコに、殴られ意識を失いかけていた。


田辺が、そんなつがるの姿を携帯のカメラで撮りだした。


「いい顔しろよっ。はいっチーズ」


1時間前の車内。

田辺が、カバンに入れおいたつがるの携帯を、無理やり奪い取りそれにつがるが抵抗する。


「・・・返せ」


「あっ?」と、田辺のサングラスを外しつがるを顔を歪め睨みつけた。


「返してやってもいいぜっ・・・。俺らとゲームで勝ったらな!」


すると田辺が、勝ち誇ったようにニタリと笑う。つがるは、その笑いに不安を感じ田辺の顔を見る。


ーーーゲーム・・・?


「もし、このゲームで兄ちゃんが勝てば、借金チャラにしてやってもいいんだぜっ!」


田辺は、あざけ笑うかのように笑った。


「しかもお兄ちゃんが、どれだけ親に愛されているかもわかって、一石二鳥だろー!」


破棄工事で、中村がつがるの髪を掴み携帯に向かって満面の笑みでピースをする。


そして田辺が、キズだらけのつがると中村の写真をとり両親に写メを送った。


「愛情ゲームの始まりだ!」


近くにあった座れそうな物に、田辺は足を組み座る。


「さてぇ、兄ちゃんのこんな姿を見て、誰が愛情をしめして、電話をかけてくるかなぁ!」


そして時間だけが、ただただ過ぎて行き誰からも電話がかかってこない。


その事に、しびれを切らした中村が、力いっぱいつがるの腹を蹴り上げた。


「お前、誰にも愛されてねぇーんだなっ」


蹴られ苦しさで、つがるの表情が歪む。


「ぐはっ・・・う"ぅっっ」


「同情するぜっ、薄情な両親から生まれたお前に」


「体は、やめておけ。後で売りもんに、ならなくなったら困る」


つがるは、母親の手紙を思い出しショックを受け少しでも、信じていた事に情けなさで憤りを感じ歯を食いしばった。


「これじゃー兄ちゃんの負けだな・・・臓器でも売って、借金返してもらうしかないなぁ。カラスの臓器として、売れば高く売れんだろう」


「アニキー、それって商品偽装ってやつじゃないっすかぁ?」


「いいんだよ!そんなの人間アイツらには、わかんねぇーんだから」


「これで両親に、感謝され愛されるなっ。お前が死んだ後で・・・」


すると、つがるの携帯が鳴り画面を見ると、番号だけが通知され「んっ」と、画面を見て電話にでる田辺。


「もしもし」


少し田辺が、話すと携帯をつがるの耳に当てる。


「兄ちゃんと話したいってよ。妹さんが!」


「良かったなっ、ひとりでも心配してくれる人がいてぇ」


つがるは、妹と聞き「えっ」と目を開き驚く。


「もしもし、お兄ちゃん」


携帯先から聞こえてくるその声は、妹とは似ても似つかない声。ずっと妹と会っていないけどつがるが、自分の妹の声を聞き間違いするわけがない。だがその声につがるは、聞き覚えがだった。


「僕がキミに、何ができる?」


電話先の声は、光だった。そして光はつがるに聞く。


ーーーアイツ・・・!何のつもりだ・・・。


「最後に、もう一度だけきくよっ。でも、もしキミが本当にほっておいて欲しいと思うなら、僕はキミに関わるのをやめる。僕にどうして欲しい?」


光にそう言われつがるの事を、捨てた両親の顔が浮かび死にたくないと強く思った。


ーーー愛されてねえーなら、アイツらなんかのために・・・。


「・・・死に・・・たくねー」


突然、天井の窓ガラスが割れ2メートルはありそうな高さから人が降って来た。


つがるの前に、尻もちを付いて光が痛そうな顔をする。


「いった・・・たたぁっ・・・」


汚れた制服を、払いながら光は立ち上がって。


「やっぱり、あんな高いところから、カッコよくはムリだったかー・・・」


中村が、口を大きく開け笑う。


「あはは、バカじゃねぇーのコイツ」


田辺が、光が落ちて来た天井に目線を向け光に聞く。


「それで君はだれ?なんで、上から落ちてきたんだ?」


「・・・ただの生徒会長」


光は、そう答えた。


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