第12話『エサ』

1時間前の出来事、黒山の部屋を出て相馬の後ろを不安そうな顔をして大森が、歩いているその姿を見た相馬が足を止めた。


「その顔じゃ、まだ納得できていないようだな」


「・・・すみいません。だってどんげ見てもここは・・・」


「心配?」


「えっ・・・はっはい」


相馬は、大森にきちんと話そうと心に決め重たい口を開いた。


「今、犯罪者が増えているのに刑務所がいっぱいにならずにいるのは、何故だと思う?」


その答えに、大森は答えられず困った顔をする。


「・・・」


「ここには、沢山の死神がいる。その彼らも生きていかなければならない。その為にアイツらは『エサ』として、連れて来られているんだ」


真実を知った大森は、体中に巡る血が凍りついた。


「エっ・・・エサ?」


「それを、指示しているのは浜口警視総監だ。こんな真実を入ったばっかりの大森キミに、まだ言うべきじゃないと思ったんだが・・・」


ーーー黒山さんは、あのこを守るため仕方なく、それを受け入れるしかなかった・・・。


相馬と大森を、乗せた護送車が走り出し真実を知ってしまった大森は、ショックを受け座っている。


相馬が、窓の方を見ると学校帰りの光とすれ違う。


ーーー光・・・ちゃん!


元気そうな光を見て、相馬が微笑む。


カラスの基地の中。学校から帰ってきた光が、廊下を歩いていると島成が前から歩いてくる。


それにお互いが、気づいき光はそのまま通り過ぎようとした。しかし島成は、光に声を掛けた。


「光さん!」


そして光が、振り返ると成島が手紙を差し出す。


「はい、これ」


島成は、首を傾げ不思議そうな顔をしながら。


「なぜだかぁ、私のところにあなた宛の手紙が、紛れ込んでまして」


『黒山 光様』としか書かれていない、その手紙を受け取る光。


裏を見ても、送り主人の名前すら書かれていないなかった。


「もしかして・・・ラブレターとかぁですかぁ?」


島成は、ニヤニヤと嬉しそうな顔をする。


「ありがとう」


そう言って、手紙を手に持ち光は歩き出した。途中で、立ち止まり送り主のわからない手紙を、疑問に思いながら開封する。


その中身を見て光は驚愕した。


『白い羽』1枚だけが入っていた。その時、光は白い羽を見て無邪気な笑顔で笑う少年を思い出す。


自分の部屋に入りベッドに、横たわり手紙を胸に押し当て、光の目頭が熱くなった。


ーーー・・・しん


次の朝の学校、蓮輝のクラスが騒がしく女子たちが誰かを止める声。


「ねぇー、やめなよ!」


つがるが、蓮輝の胸ぐらを掴み女子たちを睨み付け。


「うっせぇー、お前らっカラスなんか、かばってんじゃーねぇ」


机の上に座り雅が、口元をあげ笑って言った。


「そーだぁー、そーだぁっ。痛いめにあいたくなかったら黙ってろ」


クラスの女子たちは、仕返しが怖くってそれ以上は、言い返せずみんな口を閉じる。


そこに、教師の栗田がつがると蓮輝の間に入り体を引き離す。


「はぁーーい 終わりっ!」


栗田は、何もなかったかのように授業を始めた。


「早く席につけぇ。授業を始めるぞう」


蓮輝とつがるは、止められ不機嫌そうな表情をして席についた。


その日の夕食。カラスの基地の食堂で、1人で食事を食べている蓮輝を見つけ、光は食事の載ったお盆を持ち蓮輝のテーブルに近ずき目の前に立つ。


「ここ、いいかなぁ?」


蓮輝は、光をチラッと見て食べ出し勝手に光が、自分の前の席に座るのを見て、蓮輝が口を聞いた。


「誰も・・・、座っていいなんて言ってない」


「やっと喋ったぁ!」


光は、食べながら話だす。


「またぁ、問題を起こしたみたいだねぇ」


「言っておくがアイツから先に、手を出してきたんだ。オレは悪くない」


「前に言っただろう。相手にするなって」


蓮輝の表情が、微かに曇った。


「お前、そればっかりだなっ」


「それが、人間と上手くやっていくコツだからぁ」


「フッ そんなの知った事か。オレは人間アイツらと死神イヌどもと、仲良しごっこなんてするつもりはさらさらねぇ。そしてお前の指図は聞くきもない」


そう言って、蓮輝は席から立ち上がりお盆を持って、その場から立ち去った。


光は、ため息をつき。


「まったく・・・僕が何とかしないと」


朝早くに、まだ寝ている蓮輝の部屋を誰かが、ノックする音で蓮輝が目を覚ます。


「誰だぁ・・・こんな朝早くにぃ」


蓮輝が、扉を開けると光がジャージ姿で立っていた。


「おはよう。ちょっといい? トレーニングに付き合ってくれないかぁ?」


不快な顔をして「嫌だぁ」と言って、蓮輝は扉を閉めようとすると、光は足を滑り込ませ扉を閉めさせず光はニヤリと笑う。


「そうかぁー!そうだよねぇー。僕より弱いくせに、イキってるのがわかっちゃうもんねぇー」


蓮輝は、カチンときた。


「はぁ?そこで待ってろう」


霧ががっている山道を、光と蓮輝が走っている。さらに、10キロほど走り蓮輝の体力が限界になった頃。


足を止め前かがみになり、ゼーゼーと息を切らしキツそうな表情をして、蓮輝は前に視線を向けると、平然と前を走って行く光の後ろ姿を見て。


ーーー・・・バケモンかっ、アイツ・・・。


そして走りが終わると、光は蓮輝を体育館程の広さがある部屋に連れて行った。汗をかきながら腹筋100回、腕立て100回をしだす。


「98、99、100」


それが、全部終わると光が長イスに置いてあったタオルを手に取り、蓮輝に投げそのタオルを蓮輝は黙って受け取った。


光が、汗を拭きながら口を開く。


「あのさぁ・・・。賭けをしない?」


蓮輝が、タオルで拭きながら顔をしかめ隣りにいる光の方を振り向いた。


「・・・賭け?」


「うんっ。キミにとって悪くない話だと思うけど」


「その悪くないって、ゆーのにもよる」


「まず1つめ、僕が負けたらキミの自由にしていい。僕はもう、何も言わない。そして2つめ・・・」


光は、長イスの下に隠してあった蓮輝のシックルを、手に取り立ち上がって蓮輝の顔の前に差し出す。


「これ、鎌田さんから借りてきたぁ!キミも、これを使いこなせる様に、なってた方がいいだろう!」


「もしオレが、負けたら?」


「僕から1つだけ。僕のゆう事は、これからきちんと聞いてもらう。この前のような事されても困るから」


蓮輝の口元が緩む。


「へぇーおもしれぇ・・・。その賭けに、のってやる」


「それと、ハンディーをキミにあげるよ。僕とキミの実力の差があり過ぎるからさぁー」


ーーーバカにしやがって。


光が、壁に掛けられた時計が、6時15分を針が指しているのを見て。


「うーん。そうだなぁー僕は、シックルを使わないってゆーのはどぉ?それと15分の間に、僕にかすり傷1つでも、付けられたらキミの勝ち。キミは僕を殺すつもりで来るといい」


蓮輝は、下唇を噛み悔しそうな顔をして、光が向けているシックルをギュッと握る。


「本当に、お前ってムカつくなっ、殺しても文句ゆーなよぉ!」


「ああ・・・」


蓮輝が、シックルをがむしゃらに光に向け何度も突き立てるが、光は軽快に交わされ。


「ねぇー 、ちゃんと・・・、僕の動きを見ろっ」


「クソっ、指図してんじゃねぇーー・・・」


ーーー・・・素直じゃぁーないなぁ。

光は、蓮輝のお腹に膝蹴りを入れ、ゲホゲホと苦しむ。


それからも、蓮輝が光に何度も何度も立ち向かうが、かすり傷すら付けられない。


光は、涼しげな顔をして。


「そんなんじゃぁ、僕にかすり傷すら、付けられないよっ!!」


蓮輝は、息を切らし体力の限界を超えていた。


「はぁはぁ・・・さっきからぁ・・・余裕こきやがってぇー」


最後の力を振り絞り、蓮輝はシックルを光の身体に向けて鋭いシックルの刃を大きくスイングさせ。


「さっきから、お前のそーゆう所が、いけすかねぇーんだよ」


その時、光は時計に目を向け、あと1分で15分になる事を確認し腰の当たりに、シックルが来た瞬間に高く上に飛び上がった。


蓮輝の目の前から、光が消えたと思ったら蓮輝の肩に、ドシッと急に重みを感じた。


ーーー憎しみの強さだけで、強くなったってそんな強さじゃぁ、いつかキミは死ぬ・・・。


「キミ・・・ ちょっと」


光が、膝を蓮輝の肩に載せ蓮輝の後頭部を片手で掴み、そのまま前に押し倒し顔面から床に叩き付けた。


「頭を冷やした方が、いーよだねぇ!」


蓮輝は、鼻血を出し体力の限界で動けなくなり光が、蓮輝の顔を上から覗き込み、手を差し出した。


「これで、頭が冷えただろう!」


蓮輝は、自分の弱さに恥ずかしさと悔しさで、涙が溢れ出し顔を隠しながら泣く。


ーーー悔しい・・・もっと強くなりてぇ・・・。


光は、蓮輝に強さを知らしめ、自分が上だとわからせたのだ。


その後、医務室に行き蓮輝の鼻に綿を詰め込み、イネスが手当をしてる。


「ああ、派手にやられたわねぇ。あの子、手加減ってゆーのを、知らないのかしらぁ」


手当が、終わると蓮輝は黙って医務室を出て行こうとする。イネスが腕組みをして椅子に座って言った。


「ありがとうわ?」


蓮輝は、少し間をあけ小さな声を出して答えた。


「・・・ありがとう」


ニコっとイネスが微笑む。


「どういたしましてぇ」


椅子から立ち上がり蓮輝の背中をイネスがポンと叩き。


「早くしないと、学校に遅れるわよ!」


基地の地下。そこは、薄暗く石の壁には等間隔に付けられた灯りがありいくつもの、牢屋が横に並びその部屋に、死神が収容されていた。


牢獄の中で、1人の死神が暴れ抵抗する。そして、2人の男たちがベッドの上に死神を寝かせ手足を掴み抑えつけていた。


「イッイヤだあーー」


「375番、抵抗するなぁ。しかたない、ベッドに縛り付けるぞ!」


そこに謎の液体が入ったフラスコを持ってラテが現れた。ベッドに縛り付けられた死神の口の中にチューブを入れラテが、そのチューブの中に液体を流し込むと、突然もがき暴れだす死神をよそに、容赦なく全部流し込んだ。


「ゴホゴホオェェェェェ。やっ・・・辞めてくれ」


「大人しくしろー」


その地下中に、死神の悲鳴が響きたわる。

「ギャーーー」

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