第7話『くだらない』

 町外れの山の中にあるカラスの基地。高層マンションのような建物が、何頭も建っている。その中の建物の中を、リュクと光が廊下を並んで、歩きリュクはポケットに手を入れながら。


「お前、いいところ持って、行きやがってぇー」


「人聞きの悪いこと、言わないでくれる・・・」


「だって、そうだろー!遅れて来たくせに、手柄だけかっぱらって行きやがって」


「ちっ違う。あれは足立あしだが、勘違いしてぇ・・・」


 歩きながら、リュクが横目でチラっと光に目線を向け。


「うーん」


「もし僕が、そんな事をしたとしても、リュクなら許してくれるだろう?」


 光は、微笑み言った。光の笑顔を見て、リュクは光の鼻に鼻ピンをする。


——毎回の事だし。コイツになら、別にいいと思っているだけに、オレってどんなけお人好しなんだよ。


「ばーかぁ」


 痛そうな顔をして、光は鼻を抑え。


「・・・いったあー」


「ああ、マジめんどくせぇー」


 そう言って、リュクが光の前を歩く。


「何が、めんどくさいんだよ。でもって、今の痛かったぞぉ・・・」


 リュクを、光が追いかける。光の義父である黒山の部屋で、蓮輝はソファーに、向き合い「黒山 哲人くろやま てつじ(人間)」と座っていた。


 黒山は、黒々とした髪でタヌキのような体型をして、蓮輝の顔を見て聞く。


「どうだねえ。学校のほうわ?」


 蓮輝が、座っている位置から横を向くと、大きな窓があり蓮輝はその窓から空を見つめ。


「・・・くだらないですね!」


 そう言われ黒山は、目尻にシワを寄せ笑う。


「そうかぁ。うちの子は、楽しいって言ってるがね」


 黒山に、子供がいる事に蓮輝が一瞬驚き、冷ややかな目をして。


「苦労してないから、そんな事が言えるんです」


 大きな口を開けソファーの肘掛を叩き笑う。


「ははは。参ったぁ・・・鈴達くんは厳しいねぇ!」


 その後、リュクと光が廊下を歩いていると、前から黒山が蓮輝に、話し掛けながら歩いてきた。そして黒山が、ふと前を見ると光に気づき、嬉しそうな顔をして。


「光! 今帰って来たのか?」


「あっ うん・・・ お義父とうさん」


 黒山の隣に、立っている蓮輝と光が目が合いお互いの顔を、見て目を大きく開き驚く。


「あれ・・・キミは?」


「何だぁ。光は鈴達くんのこと、知っているのか?」


 光は、ものすごく気まずい気持ちになった。


——転校初日に、問題を起こしたとは・・・言えないよなぁ。


「あうっうん・・・。学校でカッコイイ男子が転校して来たって、女の子たちが騒いでたから」


「鈴達くんは女子に、モテモテなんだなぁ。いやぁー、光も白王子なんって言われて、女の子にモテて私に似たのかなぁ!!こう見えて私も、若かった頃はモテてぇ・・・」


 黒山が、自慢げに話し始める。そして光は、恥ずかしさのあまり『お義父さん』っと、大きな声を上げ困った表情をして。


「会議の時間じゃないの?」


 思い出したかのように、黒山は腕時計を見つめ。


「えっ、もうこんな時間か!」


「光、悪いが鈴達くんのこと頼む」


 黒山は、そう言って光に背を向けさっさと行ってしまった。リュクが、蓮輝に近寄りジロジロと顔を見た。


「なんだぁ。お前・・・新人かぁ?」


 蓮輝は、リュクの腹に蹴りを入れ不快な表情をして、感情をあらわにする。


「黙れっ。オレに近寄るんじゃね。生ゴミ臭くさいんだよ。死神おまえら」


 その時、偶然にも白衣を着た女性が通りかかった。その女性は、黒髪のロングで白衣のボタンが、はちきれんばかりの胸をしている光の叔母「イネス(死神)」が、もめている現場に出くわし隠れて様子を伺っていた。


 だがしかしイネスは、とってもワクワクして楽しそうな表情をしている。


——さぁ どーする光・・・。


 頭に血が、のぼりリュクが眉をあげ蓮輝を睨みつけた。


「テメェっ・・・」


 すると光が、リュクも蓮輝の中に割って入り、リュクに背を向け蓮輝の目の前に立ち微笑む。


「あまりにも、それは失礼じゃないか?しかも死神こいつには、僕がつけたリュクって名前があるんだ」


 背中を、壁に持たれて蓮輝は、バカにするように鼻で笑う。


「こんな死神ヤツに、名前なんか付けて犬でも飼ってるつもりか?」


 リュクの事を、悪く言われ許せず光は蓮輝の顔スレスレで横の壁を、穴が空くぐらいの力で殴った。


「リュクを犬扱いするなぁ」


 鬼の形相で、光は蓮輝の事を睨みつけた。


「次また、そんなこと言ったら、ただじゃぁ済まさない」


 光が、死神の事でこんなにも、ムキになって怒る姿を見て、蓮輝は衝撃を受ける。


——なんで・・・こんなヤツの事をばう。死神コイツらのせいで、オレらがこんな目にあってるってゆうのに・・・。


 そして光は拳を下ろし、その場を立ち去った。それに気づき慌てて、リュクも光を追う。


「お、おいっ、待てぇ・・・」


 光たちが、行ってから蓮輝は悔し過ぎて、言葉に出来なかった。それから少し歩くと突然、光が立ち止まり横を向くと隠れているはずのイネスがいた。光には、隠れて見ていた事がバレていた事にイネスは驚き。


——えっ、バレてたのね・・・。


 だがイネスの顔を見て、光はホッして少し目に涙をため赤く腫れ上がった手をイネスに見せる。


「痛い・・・イネス」


 隠れていたはずなのに、イネスは光にバレてしまい戸惑いつつ桃色の唇を開く。


「なっ・・・何でわかったの?」


 光は、イネスの大きな胸をじっと見つめ。


「頭隠してむね隠さず 」


 どうやら、イネスの白衣からはちきれんばかりの胸が、邪魔をして隠れきれていなかったようだ。イネスは、気まずさを「ははは」と、笑ってごまかす。


「なにが、はははだぁ。そんなところで、隠れて見てるなんて光の叔母として、ど—かと思うぞ」


「うっさい」


 隠れて、見ていたイネスに呆れた顔をしてリュクが言った。イネスが、働いている医務室に行くと光は、椅子に座って手当を受けている。


「珍しいわねぇ。 いつも冷静なあんたが 」


「僕だって、怒るときぐらいあるさぁ。家族の事をあんなふうに言われて、黙ってはいられない」


 医務室の外では、リュクが中に入らず扉の前で光を待っていた。そして「リュクを、犬扱いするなぁ」と、光に言われた事を思い出してドキドキして顔を真っ赤になり頭を抱え困惑する。


——なんでだ・・・光は男だぞ。


 すると手当てが、済んだ光が医務室の扉から出て来ると、頭を抱え座り込むリュクと目が合う。


「あつ・・・!」


「・・・どうした?」


 リュクは、光に恥ずかしい姿を見られ動揺し。


「えっあっいやぁ・・・何でもねぇ」


「どこか、悪いのかぁ?」


「ちっ・・・ちげぇーよ・・・」


 そんな、光とリュクの姿を見てイネスがクスクスと笑いリュクを手招きし耳元で、リュクだけに聞こえる声で意味深な言葉をかけた。


「恋は性別なんて、関係ないのよ」


 顔を真っ赤にして、リュクが怒りだした。


「はぁーー?なに言ってんだぁ、ババぁーー」


 リュクに「ババア」と言われ目を吊りあげ、怒った顔をして縫い針を手に持ち豹変した。


「はぁあ 誰がババアだってぇ? その口を縫われたいわけ?」


 イネスの顔が、恐ろしくなりリュクが大人しくなった。


「いぇ・・・すみません」


 数時間経ちイネスが、廊下を歩いていると前からしかめっ面で蓮輝が歩いて来た。そして蓮輝と、すれ違がいざまにイネスが口を開き。


「あんまり、あのこに迷惑かけないでねぇ」


 その時の蓮輝は、光との事で虫の居所が悪く。


「うるせっ死神いぬがぁ」


 突然、イネスが蓮輝の胸ぐらを掴み壁に、体を押しつけ蓮輝が苦しそうな顔を見ながら。


「あまりナメんなガキっ」


「う"ぅっ。こんなことして許されるとでも、思ってるのかぁ?」


死神わたしたちにも、感情ってもんがあるの、つぎあのこを困らせる様なことしたら殺す」


 蓮輝の胸ぐらを、掴んでいた手を離しイネスは、そのまま立ち去った。そして蓮輝は、ゴホゴホとむせ行き場のない怒りが、こみ上げ壁を殴りあたる。


「・・・クソっ」


 あれから、何日も経った朝。光は、基地の廊下を1人で歩いていると、前を1人で歩いている蓮輝の背中に気づく。


 あの日以来、蓮輝は孤立してよく1人でいる姿を、よく見かけるようになった。

そして光が蓮輝に声を掛ける。


「鈴達くん」


 蓮輝は、振り返り光の顔を見るなり嫌そうな顔をした。蓮輝の露骨な嫌そうな顔に、光は戸惑う。


——そんな露骨に、嫌そうな顔しなくっても・・・。


「今日・・・僕のクラスの女子が、キミのことを金髪王子って騒いでたよ」


「そんな事をゆうために、オレを呼び止めたのか?」


 何故だか、光は蓮輝の事が放っておけなかった。


——なんで、僕はキミの事がこんなに、気になるのだろう?


「あのさぁ、そんなにイラついてて疲れない?」


「はあ?」


「憎んでも嘆いてたって、何も変えられない」


 そんな事を、光に言われなくっても分かっている。だんだんと、蓮輝は光に苛立ち怒りがこみ上げてきた。


「バカにしてるのか?そんな事ぐらい、オレだってわかってる」


「いいや、キミは何もわかってない。そんな曇った目で見てたら、わかる物もわからないだろ!」


——なんでキミを、放っておけないのか分かった気がするよ。


 そして蓮輝に、背を向け光が歩きだす。


——キミは、昔の僕によく似ているからだ・・・。


「いい所に、連れて行ってあげるっ」


 そう光に、言われ蓮輝は眉間にシワを寄せ。


「はあ?」


 それでも蓮輝は、嫌々ながらも光の後を付いて歩く。


「おいっ、どこに連れて行くきだぁ?」


「つてこればわかるっ」


 光は、チラチラと後ろを振り返りながら、蓮輝が付いて来ているかを、確認しながら歩いていた。


「何なんだよ・・・チラチラこっち見やがってぇ、逃げたりしねぇーよ」


「それなら、いいけど」


 10分ほど歩くと光が足を止め。


「・・・ここだよ!」


蓮輝は、光が見ている方を見て目を大きく開き驚く。


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