第5話『大丈夫だから』

 光の胸の奥から、黒い泡がブクブクと溢れ出し、パチパチっと割れるような音がした。男性の口元が、緩み囁く。


「お前の母親は、お前の実の死神ちちおやに殺され、あいつはお前を助けたせいで、育ててくれた母親を殺しちまうし。ウサギの事だって同じ。お前が殺したのも当然。とんだ不幸を呼ぶ白カラスだな」


 その瞬間、泡がすごい速さでバチバチバチっと、大きな音をたて割れていく。


——本当この人が言ってる通りだぁ・・・。どうして私なんかが、生まれてきちゃったんだろう。私なんて、生まれてこなかったら、お母さんやしんが、不幸になる事はなかったはず。


 光のココロが、闇の泡に包まれ悲しみが、憎しみへと変わっていった。


——死神アイツらが、許せない。


 その日から、光は変わっていった。白いトレーナーに付いたフードを深く被り、返り血を浴びた顔。


 周りに、無数の死体の山。その上に立ち、光は死体に刺さった刀を、引き抜いた。光に、背を向け怯えながら大切そうに、何かを抱え込む死神の男性。


 だがしかし、光は容赦なく刀を振り上げ死神の男性の首を切り落とした。その現場を、隠れて見ていた黒山。


 自分が、知っている光ではなく、まるで別人のような姿に、ショックが隠せなかった。足がすくみその場から、動けずにいる。


——あっ足が・・・動かない・・・。


 そして雨が、1粒の雨が黒山の黒い皮の靴に落ちた。黒山が光の方に目線をやると、雨のようなモノが、光のほほを伝う事に気づいた。


——そうだ、光だって本当は、こんな事をしたいわけじゃないはず。深く傷つき過ぎただけ。


 そう思ったら、勝手に黒山の足が光の方へ歩いていた。光の腕を、掴み自分の方へ引き寄せ光を強く、強く抱きしめ黒山が心を痛める。そして黒山に、抱きしめられ光はハッと我に返った。


「お父さん・・・?」


「もういい。大丈夫だから」


 光は、血に染まった手で刀を握りしめている事に気づき、自分が大変な事をしてしまったと、悲痛の叫びをあげた。


「うわわあああ」


 光の哀しみと、同様の大雨が降ってきた。


——数年後。


 春になり暖かくなった夜。飲食店が建ち並び、人が沢山集まり全体が、お店の灯りで明るくなっていた街。


 その一軒の居酒屋から、シャツを腕まくり上げジャケットを腕にかけ、いい具合に酔っぱらったおじさんが出て来た。そのおじさんは、近道をしようと人気のない裏路地を通って、歩いていた。


 突然、謎の少年がおじさんの目の前に現れ道を塞ぐ。中学生ぐらいにしか見えなく、幼くみえる少年しか見えなくって、おじさんカツアゲだと思い動揺する。


「なっ・・・なんだぁ。金ならないぞっ」


 謎の少年は、ニヤリと薄笑いを浮かべ100キロはありそうな体を、軽々と片手でおじさんの首をつかみ持ち上げた。


「そんなもんいらないよ。腹の足しにもなりゃーしない」


 おじさんの首の肉が、少年の指に食い込む程、強く捕まれ苦しさで顔が歪み、うめき声を出す。


「う"ぅ・・・ぐっる・・・しぃ」


「もっといいモノ・・・もらうからさぁー!」


 少年は、おじさんの口から5㎝ぐらい離し口を近ずけアームを吸い取り、すると太っていたおじさんの体が、みるみるうちに萎んでいき白眼をむき出す。


 吸い終わると少年は、そのまま手を離しドサッと、地面に落とした。そして横たわったままおじさんは、ミイラの様になり死んでいた。少年は、ゲップをしながら口を袖で拭き取る。


「お前ゲロまずっ・・・ありえねぇーわあ」


 その時、ぐうぜんにも会社帰りの若い女性が、運悪く通りかかり見てしまい恐怖で体が凍りつく。


——死神・・・!!


 女性は、逃げようとするが、しかし遅すぎた。死神は、女性の気配に気づき振り返りニタっと笑う。そして死神と目が合い女性の顔が青ざめる。


 それから死神は女性を壁越しに追い詰め、ラッキーと思わんばかりに、ニヤケながら女性に壁ドンする。


「おねぇーいさん♪どっこ行くのー?」


 女性は、どう考えても逃げられないと思い、声を震わせながら助けを死神に求めた。


「・・・おっお願い・・・何でもするからぁ・・・助けてぇ」


 そんな姿を見て、死神は優越感に浸り興奮する。


「ふーん。何でもしてくれるんだぁー!!」


 体を震わせながら、女性はゆっくりとうなずき、死神は女性の顔を覗き込むように見つめる。


「オレ・・・おねぇいさんみたいな美人。タイプなんだよね」


 死神は、女性の震える真赤な唇を、親指でなぞるように触れる。


「じゃーさぁっ、キスしてくれるなら、考えてもいーよ!」


 死神は、そうゆうと女性の真っ赤な唇に、自分の唇を重ねあわせた。だか、次第にキスが激しくなっていき、女性は苦しみ始める。


「んっ・・・う"ぅぅぅ」


 女性は、苦しみながら死神のほほに、手をやりどけようとしたが、ビクともしなかった。


 真っ赤な長い爪を立て、死神のほほを引っ掻きながら壁に、背中を持たれズリズリと下がり、うなだれ座った状態でピクリと動かなくなる女性。死神は、舌なめずりをして、悪びれる様子もなく。


「ああ、死んじゃったあ!残念・・・でも、しかたないよねぇー!」


 ご機嫌で、ウキウキして背を向け甲高い声で笑い帰って行く死神。


「ワァハハ・・・。ゲロまずっの、おじさんの後だったから・・・それじゃぁ、何でもおいしく感じちゃうよなぁー。恨むならそのおじさんを恨んでねぇー・・・!」


——学校の朝のホームルームの時間。


 30代前後の男性教師『栗田 くりた まもる』が、転校生を連れ2年A組の教室に入って行く。黒田が、教室に入るとチャイムが鳴ったにも、関わらず席を立ち騒いでいる生徒達を見て注意する。


「・・・席につけぇー!転校生を紹介すっからぁー」


 栗田の、隣に立ち金髪の髪をして、冷めた目をした男子『鈴達 蓮輝すずたち はずき』を見て、女子達が浮足立ち騒ぎ出す。


「きゃぁぁぁーー、イケメン♪」


「うちらのクラスにも、王子きたぁーー」


 栗田が、女子に注意すると女子に、ブーイングされる。


「はいはい。女子の嬉しい気持ちわかるが、静かにしろう!」


「先生ー、自分がイケメンじゃぁないからって、ひがまないでよねぇー!」


「先生が、イケメン教師だったら良かったのにねぇー」


「へえへえ。悪かったなぁっ・・・イケメン教師じゃなくって」


 女子の言葉を気にもとめず、栗田が軽くあしらいながら隣にいる蓮輝を見る。


「自己紹介してくれるか?」


 蓮輝は、生徒達の真正面を向き一言で、終わらせた。


「鈴達 蓮輝以上」


 生徒達と栗田は、あっけない自己紹介にポカンと驚いた顔をして蓮輝を見ている。栗田は、困った顔をしながら蓮輝に聞くが、あっさりとした答えが返ってきた。


「ホントに・・・それだけかぁ・・・?」


「はいっ」


 そして一番後ろの席に座っていた問題児の男子「立川 《たてかわ》つがる」が、手を高く上にあげる。


「はーい先生ー、転校生に質問してもいいですかぁー?」


 栗田は、言葉に出さず「どうする?」とゆうような顔をして、蓮輝に目線を向けた。すると蓮輝は、栗田の顔を見て察すた。


「どぉぞっ」


 栗田は、つがるに余計な事を言わないかハラハラしながらクギを刺す。


「だそーだぁ・・・くだらない質問はするなよっ、立川・・・」


 つがるは、栗田の忠告を無視して、あんのじょう栗田の言葉を無視した。


「カラスですかぁー?」


——言ってるそばからぁ・・・。はぁっ。


 栗田は、呆れて物も言えない。それに対して蓮輝は、つがるを上から目線で言った。


「そーだけど、それがなんだってゆーんだ?」


 その日の休みの時間、隣のクラスの教室では、男子と女子が蓮輝の話で盛り上がっている。


「金髪のカラスが、隣のクラスに転校して来たらしーぞぉ」


「しかも、ちょーイケメンだって・・・」


「えー、ホント! 後で見に行こう」


 『梅田 大毅うめだ だいき』が、席に座っていると、生徒が話しているのを聞き、ニヤニヤしながら後ろを振り返った。


白王子おまえの時代、これまでかもなぁー」


 白い髪は変わらず、昔とは姿と声や雰囲気が変わり、中性顔の男の子の姿をした光だった。光は、本を読む手を止め大毅に、ニッコリと余裕げに微笑む。


「んっ・・・あっ。いいんじゃない。僕は喜んでゆずるさぁ」


——正直・・・そんな事どうでもいい。その転校生が、問題さえ起こさなかったら。


 そして光が、笑うだけで女子達が騒ぎ始めた。


「ねぇー今、白王子笑ったぁ!」


「今日イチのスマイル」


「白王子の神スマイル!!」


 大毅は、そんな女子達を見て苦笑いする。


——コイツの時代は、まだまだ終わりそーねぇなぁ・・・何かムカつく。


 休み時間に、誰もいない昇降口につがると、友達2人が蓮輝を呼び出し壁側に、追い込みまわりを囲む。朝の態度が、気に入らなかったつがると友達。


「・ ・・お前、朝のアレは何なんだよぉ?」


「お前さぁー、生意気なんだよ。カラスのくせに・・・」


 黙り込み顔色ひとつ変えない蓮輝を見て、男子が頭にきて蓮輝の肩を力いっぱい押した。


「スカした顔しやがってー、ナメてんじゃーねぇーぞぉ」


 押された衝撃で、蓮輝が壁にドンと強く背中を打ち付けた。それに腹が立ちギロッと、鋭い目付きで睨む。


——・・・死ねえ、クズども。


 蓮輝に、睨まれ逆ギレしたつがる達は、3人係で殴り掛かる。


「ぁあ"、なにニラんでんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る