第4話『不幸を呼ぶ白カラス』

 そんな事を言われ光は、言葉が出てこなかった。黙っている光を見て、教師達がコソコソと話だす。


「カラスって、人間と似てるだけで、やっぱり違うな!」


「ええ、そうですね。生き物の命を奪っても、何とも思わないなんて『悪魔』見たいだわ」


 教師達が言った『悪魔』とゆう言葉が、光の胸に突き刺さった。


——私は・・・悪魔・・・。


 光は、連れて行かれながら人が大勢いる中、しんの姿を見つけ不安で、いっぱいな表情でしんを見た。それに気づき心が、光の腕をつかんでいる男性教師の手を、必死に離そうとする。


「この手を離せ。光が痛がってじゃないか」


 男性教師が、心を突き飛ばし地面に倒れ込み、男性教師を睨みつけた。


「絶対に、光はやってない。だって光は・・・泣き虫で誰よりも、優しい奴がそんな事が、できるわけない」


 男性教師に、手を引っ張れながら、光はしんの名前を叫ぶ。


しんーー・・・」


 その後教室で椅子に座わらされ光を囲み、コの字に並べられた机にPTAの親御さん達と、教師達が席に着いていた。それどころか大人の心無い中傷するの言葉が、光に投げかけられる。


「いつか、こうなるんじゃないかって、思ってたんだ!」


「カラスなんて、学校に通わせるから、こうなるんです」


「今回は、ウサギだったから良かったものの、これが子供たちだったら、先生方はどうするつもりですか?」


 親から、次々と言われ続け先生達は、困り果ていた。そんな大人に、囲まれ幼い光には耐えられる状態ではない。大人が全員、魔女カラス狩りをする人間にしか思えなかった。


 光は、小さな体を震わせその恐ろしさに、たった1人で耐えながら椅子に座っている。すると突然、目が釣り上がらせ怒った顔をした保護者の男性が、机を拳で強くドーンっと叩き光の方を見て言った。


「お前は、命を奪って悪いとは、思ってないのか?」


 それに対して光は、怯えながら小さな声で答える。


「・・・私じゃない」


 大人達は、光の答えに反省してないと思い、余計に怒らせてしまった。


「ふざけるなーぁ。あんな残酷な事が出来るのは、お前ら死神カラスだけだろー!!」


「お前が、死ねば良かったのに」


「悪魔」


「お前が死ね」


 大人達の恐ろしさに、光は耳を塞ぎ目を強くギュッとつぶり小さな声で、何度も助けを求めた。


「・・・たすけっ・・・て・・・たすけて」


 その時、光の頭に大きくって、ゴツゴツとした優しい手の感触に気づき、そっと目を開け見上げると・・・息を切らしてしんどそうな顔をして微笑む黒山がいた。


「ハァハァ・・・ごっめんな。遅くなって・・・もう大丈夫だから」


 急いで、黒山は走って学校まで来たのだ。その黒山の姿を見て、光は自分のために息を切らして来てくれた事に、驚きを隠せない。


 ド派手で、高そうな宝石を自慢するように、身につけ保護者席に座っている中年の女性が、嘲笑うかのように黒山に言った。


「あなたも、可哀想ねぇ。本当の親でもないのに育てあげたのに、恩を仇で返す事されるなんてねぇ!」


 口角を、あげ黒山は鼻で笑う。


「いいえ。私はこの子を本当のムスメとして、愛情を持って育てています」


 その中年の女性が、顔を歪ませた。


「そっそれじゃぁ、親としてきちんと育てなさいよ!」


「えぇ。ちゃんと育てたから、こんなにいい子に育ったでしょう!」


「あっあなた・・・頭おかしんじゃないの?」


 黒山の言葉に、保護者と教師達が呆れていた。保護者に向かって、黒山が眉をひそめ睨みつける。


「それよりも、あなた方のお子さん達を、ちゃんと育てた方がいいんじゃないですか?」


「はぁ?自分の子供がした事を、棚にあげて何を言ってるんだ。あんたわ」


 腹を立ている保護者達を、校長が他人事のようになだめる。


「まぁまぁ、落ち着いてください。みなさん」


 保護者達を、落ち着かせるとため息をつき冷ややかな目で、校長が黒山に視線をおいた。


「はぁ・・・、黒山さん。失礼ですよ。みなさんは、ちゃんとお子さんを教育されています」


 冷静な態度で、黒山が口を開く。


「そうですか・・・。じゃぁ、うちの大事なムスメをいじめたり先生まで、それを知っておきながら、知らん顔をしているのはどうしてでしょうか?」


 校長が、光がやった事を棚に上げて言っていると思いア然としていた。


「黒山さん、今その事ではなく光さんが、した事を話しているのですよ」


「いいえ、違いません。だって光は、そんな事してませんし、昨日は仕事が休みで、私とずっと光といたんですから」


 保護者達が、騒ぎだした。


「じゃぁ、誰があんな事を?」


 光の事を疑い傷つけておきながら、何とも思っていない人達に腹が立ち黒山が、鬼の形相で怒鳴り声をあげた。


「謝れー・・・この子に」


 保護者と教師達が、戸惑い自分達は悪くないと、言わんばかりの言い訳をしだす。


「そっそれは、その子が疑われる事をするから・・・でしょ。それに私たちの子供がいじめてるなって、言いがかりもいいところよ!」


「そうですよ。私たち教師だって、知らん顔なんてしてませんよ。もしそんな事があれば担任が、何とかします」


「そうゆうと、思っていました」


 そう言って、黒山はボーイスレコーダーを、机の上に置いた。


「これでも、そんな事が言えますか?」


 男の子達が、いじめている声が録画されていた。それに黒山がいなかった時の話しまで、すべて録画されていた。


 実は一緒に暮らし始めて、何日か経った頃から黒山は光の様子が、おかしい事に気づき光の服に盗聴器を仕込んでいたのだ。


 それを、聞いた保護者や教師達が、愕然として黙り込みその証拠を、突き付けられ言葉が出てこない。黒山が、親として凛とした態度で言った。


「ここにくる途中まで、あなた方の話を聞いていましたが、聞いちゃぁいられませんでした。こんな小さな子に、こんな酷い事を言えるアンタらの方が、よっぽど悪魔だと思いますけどね!」


 それから保護者と、教師達はその事実を認め、光と黒山に謝罪をする。黒山は、光の頭を優しく撫でた。


「ここまで、良く泣かないで、頑張ったなぁ」


 他の人は、だれ1人信じてくれなかったのに、黒山だけは光の事を信じてくれた。

今まで、どんなに怖くっても泣くのを我慢していた光が、嬉しさで目に涙を溜める。


「うん。お父さん」


 それからは、男の子達は光をいじめる事はなくなった。


——あれから、何年も経ち。


 髪が伸び、少し大人っぽくなり光は、中学生になっていた。光は、病院に来ていた。身内のお見舞いに来た小さな子供を連れた家族だったり、患者さん達が病院の中にいる。


 花束を持って、光1人で病棟の廊下を歩いていた。光は、病院があまり好きじゃない。何故かとゆうと、半分死神のせいか死の匂いを嗅ぎ分ける事ができ、病院には死の匂いが充満しているから気分が悪くなる。


 だけど・・・しんの母親が病気で、入院していると聞いた光は、いつも心に守ってもらってばかりだから、次は自分がしんのために何かをしてあげたいと思った。


 扉が、閉まっている部屋の前で光は立ち止まり扉に手を掛けたその時、しんの母親の声が聞こえそっと、少しだけ扉を開け中を覗きこんだ。そこには、しんと母親の2人しかいなかった。


「ねぇ、私を殺してちょうだい」


 しんは、困った顔をして動揺している。


「そんなこと、オレには出来なよ。かあさん」


「耐えられないのよ。もう身体中痛くって、たまらないの。我慢の限界」


 しんは、辛そうな顔をして口をつぐむ。それでも母親は、しんの服をつかみ必死に頼み込んでいた。


「お願い・・・。私はあなたを、自分の子供のように育てきたお母さんじゃないの。だからお願いを、聞いてちょうだい」


 しんが、涙を流す姿を見た母親は、激怒してしんを突き飛ばす。


「あんたは悪魔よ!あんたなんか・・・あんたなんか育てなきゃ良かった・・・」


 母親の酷い言葉に、愕然と驚き光は耳を疑う。その場に、しんが立ち尽くしズボンを、ギュッと握りしめ体を震わせ口を開いた。


「わかったよ・・・かあさん」


 そう言って、しんは母親の口からアームを吸い取り始めた。それを目にした光は、口を抑え頭が真っ白になり驚く。


 それは、ありえない事・・・半分死神と言っても半分人間のカラスには、アームを吸い取る事ができるはずがないのに、心がしている事が信じられなかった。


 しんは、母親を殺しながらほほに、1粒の涙が流れだす。その姿を見て、光はしんの気持ちを考えると、胸の奥がギュッと締めつけられ悲痛な表情をする。


 お寺の出入り口に、『佐藤義葬儀式場』と立て札が立ち葬儀が始まり、お坊さんがお経をあげ、しんの家族が葬儀に来てくれた来客にお辞儀をしている。


 光は、制服姿で黒山に連れて来てもらい葬儀式場に来ていた。ところがしんの姿はどこにもない。


 葬儀が終わると、しんの家族が口々にしんの事を、悪く言っているのを光は耳にする。


「死神の子なんて育てるの、反対したのに」


「本当の子じゃなかったのにバカよっ」


 母親の母、涙をハンカチでふく。


「育ててくれた母親を、殺して逃げてるなんて・・・」


 母親の父は、悔しさと腹ただしさて、顔を歪ませた。


「なんてヤツだっ。恩をあだで返しやがって」


 そんな事を、聞いてしまった光は、いたたまれなくなった。


——心は、そんな子じゃない。なんにも、心のこと知らないくせに・・・。


 後で知った事だが、本当のお母さんは死神で、しんが小さい頃に亡くなり、それから父親が再婚して出来た母親だった。


 その日の夕方。心と出会った土手で、1人で光は座り涙を流し悔やむ。もっと、自分にできる事があったんじゃないか。もっと、話を聞いてあげれば良かったとか、いろいろ考えた。


 突然、周りが暗くなり謎の男が現れる。あまりの暗さで、男の姿が見えない声だけが聞こえた。


「お前は、人に守られてばかり」


「誰?」


「知ってるのか?そのためにみんなが傷いてるってこと・・・」


 自分のせいで、こうなっている事を光は知った。


——私が、みんなを傷付けて・・・る?



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