第3話『私じゃない』

 ずっと、光のそばにいた若い男性は、ちょっと怖い顔をしているが刑事の『黒山 哲人くろやま てつじ』が、ホッと安堵した顔をして言った。


「気がついて・・・」


「刑事さん・・・?」


 光は、どうして黒山がいるのか不思議だった。


「ここは病院。家に行ったら光ちゃんが、玄関で倒れていて、私が見つけてここへ連れて来たんだ」


  黒山から、そう伝えられると光は、ハッとした顔をして思い出した。なぜ自分が玄関で倒れたのかを・・・。


 家の近くで光は、しんと別れ自分の家に向かった。ポロポロの二階建てアパートで、上と下あわせて4室しかない。光は、サビで今にも崩れてしまいそうな階段を上がり、手前の部屋の前で足を止め。


 光は、玄関の扉の横にある窓から、部屋の灯りが見え母親が帰って来ている事に気づく。


 今日できた友達のしんの事を、話したくって、うずうずしなから玄関の扉をあける。


「ただいまー、お母さん」


 玄関の前で靴を脱ぎながら、光は嬉しそうな声で話す。


「あのねぇ、今日っ」


 光が、ふと顔を上げると8畳程しかない部屋の玄関から部屋がハッキリと見える。

その部屋で、光の知らない男性が母に、まるでキスをしているように見え、驚きのあまり立ち尽くす。


「・・・」


 母が、グッたりとしだしみるみる内に、体がミイラのようになっていくのを見ていた光。


 死神が、母にキスをしながらアームを、吸い取っていた。


——何で、うちに死神が・・・。


 光に、気づいた死神は目線を向ける。

その死神のおぞましい真っ黒い目を見て、光は怖さで体が縮み上がりそのまま気を失った。


 その事を、思いだしベッドから起き上がって、血相を変え黒山のスーツの袖をつかみ聞いた。


「ねぇ、お母さんわ?」


 黒山の顔色が曇り、目を背ける。


「ゴメン。お母さん・・・わ」


 黒山の様子が、おかしい事に気づき光は足元の布団を、ギュッーと力一杯握りしめ母の名前を呼び、わんわん声をあげ嘆いた。


「お母・・・さん、お母さん」


 黒山が、光の泣き苦しむ姿を見て思わず光を抱きしめ胸の中で、光は泣き続け掠れた声をだす。


「お母さん・・・、私を・・・1人にしないで」


 それを聞いた黒山は、胸がギュッと締め付けられる思いで、光を強く抱きしめた。


「大丈夫。君を1人になんてしないよ。これからは・・・私が君のそばにいるから」


 母は、両親に死神と一緒になる事を、猛反対され仕方なく駆け落ち同然に家を出た。けれども光が物心つく頃に突然、父親が失踪し頼れる人もいなかった母は、女1人で光を育ててきた。


 そのためこんな事になっても、光には頼れる身寄りがない。黒山は、その事を知っていた。光を自分が、引き取り育てる事を決意する。外は、暗く病院の周りの街灯が、足元を照らしてる。


 光が、黒山に連れられ病院の外に出ると、街灯の下で心が立っていた。しんは、光の母の死を知り心配して待っていた。


 それに気づき驚いて名前を呼ぶと、心が声のする方を振り向く。


「・・・しん


「光・・・」


 光の目を、腫らしついさっきまで泣いていた顔をしている事に気づいた。そしてしんは自分の事の様に光の前で涙を流し泣く。


「オレ・・・絶対、光のこと守るから」


 光は、しんのその優しさに胸が、いっぱいになりまた、涙が流れ止まらなくなった。


——涙が枯れるほど、泣いたはずなのに・・・。どうして、涙が出てくるんだろう。


「ありがとう」


 それから光の母の葬儀式場では、黒い服をきた姿の大人達が数人いる。みんな、悲嘆にくれていた。


 その中で、黒山は光の母が眠る棺桶の前で立ち止まり、繋いだ小さな光の手をギュッと強く握り締めた。


 棺桶の中で、光はミイラの様になった母を見て、とても幸せそうに笑って眠る様に見える。泣きながら、光は声を震わせ母親の名前を呼ぶ。


「おっ母・・・さん」


 その時、光は色々な母の笑っている姿を思い出す。

優しく微笑む母。


 小さな台所に立ち、料理を作る母。


 光を抱きしめ『大好きよ。光』とゆう母。


 突然、バチーンと叩く音が響く。小さな光のほほが赤く腫れ上がっていた。一瞬、何が起きたのか光には分からず、ただほほが、ジンジンして熱く痛かった。


 光は、ほほを抑えながら驚いた顔をして、上を見上げると光の母親のお母さんが、涙を流し憎しみのこもった目で光を睨んでいる。


「この疫病神めーー・・・」


 戸惑いながらも、黒山が慌てて光の赤く腫れ上がったほほを見て心配する。


「だっ・・・大丈夫か?」


 罪のない光に、怒りをぶつけ叩いた祖母が黒山は許せず。


「あなた、なんて事をするんだぁ?」


 祖母は、軽蔑するような目で光の事を見る。


「死神の子なんって産んだせいで・・・私の娘が死んだんだ。これぐらいしたって、構うもんかあ・・・」


 祖母、泣きながらその場に崩れ落ちる。


「うっっ・・・」


 黒山は、そんな祖母の姿を見てそれ以上何も、言えなくなり情けない気持ちになった。


——この子だけが、ツライんじゃない。みんなも・・・ツライんだ。それから何日も経ち。光は、黒山と一緒に暮らす様になりその生活も、だいぶん慣れいつもの生活に、戻りつつある。だけどいじめは続いていた。


 学校の休み時間。数人の生徒が、廊下で騒いでいた。いじめていた男の子達が、階段に光を連れて行き光を、突き飛ばしす。階段の上に、光が倒れて込む。


 ニヤニヤと、不敵な笑みを浮かべながら1人の男の子が足を高くあげ、怯えた目をしている光の顔の前に上履きの裏が近づいてくる。


「・・・嫌だぁ。やめてー」


 その時、光の視界から突然、男の子の足が消え恐る恐る横を振り向くと、男の子が肩を壁にぶつけ座り込んでいた。


「いってぇ・・・なにすっんだよ・・・」


 光が、前を見るとしんの背中が目の前にあった。そして光は目を大きくして驚く。


 しんが、光の前に立ち塞がり両手を大きく広げ体を張って、男の子達を鋭い目つきで睨みつけ。


「光をいじめる奴は、オレが許さない」


 倒れた男の子が立ち上がり、しんに睨み返しチッと舌打ちをして、その場から立ち去った。光は、立ち上がり助けてくれた心に、感謝の気持ちいっぱいで微笑む。


「ありがとう。しん


 しんが、光の笑顔を見て、照れくさそうな顔をする。


「オレが、光を守るって言った・・・ろう。それより大丈夫か?」


「うん。大丈夫!」


 それからは、光がいじめられると心が、助けてくれた。しかしそれでも、いじめが無くなる事は無かった。


 給食の時間。しんと光は、クラスが違い光のクラスは、給食の時間だとゆうのに、光の席の机には何も置かれておらず。だが周りを見渡すと他の生徒達の机には、給食が配られていた。


 そう、わざと光の席には配っていなかったのだ。心のいない教室で、男の子達のいじめが始まった。


「おまえは、カラスだから給食なんて、食べなくってもいいんだろー!!」


「そーだそーだぁ」


「これは、人間の食いもんだぁ。おまえには必要ねぇーんだから」


 生徒と、同じ席に座っていた先生に、助けを求めるような顔で見るが、しかし先生は光と目も合わせないようにする。それでも目が、合えば慌てて顔を逸らし、気づいていないフリをして、隣の生徒に話し掛けた。


「今日の、給食美味しそーだなぁ・・・」


 それは、先生だけじゃない他のみんなも同じ。見て見ぬフリをしている。それでも光は、そんな事をされても我慢が出きた。


 しんがいてくれたから、たった1人の友達がいる事で勇気をもらっていた。

しかしその時の光は、まだ知らない次々と悲劇が、光に襲いかかって来る事を・・・。


 ある日の朝、光は少し早く家を出た。学校で飼っているウサギに、エサをあげるため。チラホラと学校に、登校してく生徒の姿。光の手に、家から持って来たニンジンの入った袋を、持って校舎にあるウサギ小屋に向う。


 ウサギ小屋に着くと、光は異変に気づき急いで、小屋の扉を開け中に入って行くと・・・。


 小屋が、辺り一面赤黒い血で、広がりその中でウサギが、体から血を流し死んでいた。何者かに、刃物で無残に切り付けられたキズがあった。それを見た光は、大声で悲鳴をあげる。


「きゃああーー・・・」


 すると職員室にいた教師達が、外から聞こえた悲鳴に気づくき慌てて外へ出て行く。教師達が、ウサギ小屋に行くと生徒達が、大勢集まっていた。何が、起きているのか把握が、出来ず生徒達を掻き分けながら行く。


「こらっお前たち・・・道を開けなさい」


 生徒達を、かきわけ教師が見たモノは、小屋の中で血だらけになってウサギを、抱えて泣いている光の姿だった。それに教師達は驚愕する。


 光は、周りを見渡し教師達や生徒の冷ややかな視線が突き刺さる。みんなの目が、恐ろしく思え光の体が、ブルブルと震えた。


——・・・違う。私はやってない・・・。


 ウサギを強く抱きしめ、光は疑われている事に気づき、小さくもろい光の胸がキズつけられ、引き裂かれる思いだった。


——そんな事、出来るはずがない。毎日、ウサギ小屋の掃除をして、エサを与え誰よりも私は、可愛いがっていた・・・のに・・・それなのに・・・。


 男性教師が、小屋の中に入り光のそばに行くと冷たい目で光の事を見て光の腕を、強くつかみ強引に手を引き痛がる光など、気にもとめずムリやり小屋から引きずり出そうとした。


「い・・・痛い・・・先生。私はやってない」


「ウソを、つくんじゃない。こんな事しておいて」


「・・・違う。ウソなんて・・・ついてない」


——誰も、信じてくれない。私が死神の子『カラス』だから・・・?


泣きながら、光は訴えるが男性教師は、話を聞こうとはしなかった。それどころか光を犯人扱いした。


「こんな事をして、警察のお義父さんに、申し訳ないと思わないのか?」

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