第2話『はじめての友達』


 キーンコーンカーンコーンと、小学校のチャイムがなり、教室にいる生徒達が帰り支度をし、ぞくぞくと教室から出て行く。


 女子生徒が、教壇にいる男性教師に、帰り際に挨拶する。


「先生、さよなら」


「おう、気をつけて帰れよっ!」


 その中を、白髪のボブショートの女の子光が無表情で通りすぎる。


 学校の校庭を、光が1人で歩いていると周りの生徒達が、楽しそうに友達と一緒に帰っている姿を見て、光が羨ましそうな顔をした。


 ——いいな・・・友達。


 突然、1人の男の子が、前を歩く光のランドセルを背後から蹴り飛ばし、光は思わず声をあげた。


「きゃっ」


 光は、その衝撃で前に倒れ膝と手をつき、後ろで数人の男の子達が、アハハと大笑いしている。


「きゃっだってよー。ばばあカラスがぁ」


 光は、膝を立てて見ると、擦りむき酷いケガをしていた。だが血は、垂れ流れず血が傷口をおおいスグに固まり始めた。光は、痛そうな顔をして、傷口を見ている。


「いったぁ・・・」


 男の子達は、蔑むような薄笑いを浮かべ。


「なあっ、カラス《おまえ》怪我をしても、スグに治るんだってぇ?」


「マジー」


「やっぱり、カラスって人間のアーム食ってるからか?」


 カラスは、半分人間だがアームなど食べなくとも生きていける。そして人間と違って自然治癒力が、強くケガはスグに治ってしまう。


 そんな事を、知らない人間達が勝手に思い込み、知ろうともせず決めつけているのだ。光は、今にも泣きそうな顔をして。


「アーム何って、食べてない」


 光が、そうゆうと光を蹴った男の子とは別の男の子が、光の頭をグーでゴツンと殴った。


「ウソつくんじゃねー、死神の子のくせに」


「じゃさー、どんなにケガさせてもいいって事じゃねー!!」


「そーだぁ。ウソつきカラスは、死刑」


 そう言って、男の子達が光に暴力をふるう。光は、顔をかばいながら小さな声を出し。


「ウソなんて、ついてない。辞めてぇ・・・っ」


 光が、何を言っても聞こうとせずまるで、光を人間ではないかのように、いじめ始めた。それから男の子達は、気が済むまでいじめた。


 そして土手の下には、川が流れオレンジ色の夕日色に染まり服が汚れ体は傷だらけで、暗い表情をして光が土手の上をドボドボと歩く。


 ——お母さんに、こんな姿を見せられない。きっと、心配するだろうし私がカラスだって事で、困らせてばっかりだから、絶対に隠さなきゃ。


 光は、立ち止まり土手で体操座りをして、顔を伏せ目から大粒の涙を、ポロポロと流し声を押し殺し泣く。


「・・・うっ」


 ——・・・って、わかってるけど・・・でも気づいてぇ・・・欲しい。


「ねぇ君、どうして泣いってるの?」


 頭の上から、声が聞こえ光は顔を伏せたまま、声がする方を横目で足元を見ると、男の子の靴が目に入り怖さで心臓がドキッとした。


 ——・・・いじめられる。


 しかしその男の子は、光の隣に座るだけで何もしてこなかった。男の子は、夕日でオレンジ色にそまった川を見つめ。


「オレ、ここ好きで良く来るんだ。もしかして、君もそうなの?」


 光は、顔をあげただ隣に座っている男の子を見て、何もしてこない事に呆気にとられ。


「いじめ・・・ないの?」


 男の子は、光の方を見て首を、傾げ不思議そうな顔をして聞いた。


「何で、オレが君を、いじめるの?」


「だって、私がカラスだから・・・」


「君、カラスなの?」


「・・・うん」


 男の子は、自分の顔を指差し驚いた顔をする。


「オレも同じ」


 光は、暗い顔をしてうつむき。


「でも・・・私とは同じじゃない。あなたは、こんな髪してないでしょう?」


 男の子は、光の髪を見て目を大きく開き、ホワイトタイガーを思い浮かべながら。


「それって、めっちゃカッコイイじゃーん。ホワイトタイガーみたいでぇー。しかもさぁー、白カラスなんて見たことないし」


 男の子のその言葉に、驚いて涙が止まった。光は、誰からもそんな事を言われた事がなかった。でも嬉しいけどちょっぴり、複雑な気持ち。


「うれしくないっ・・・」


「何で?」


「だって私オンナ・・・、カッコイイって、言われても・・・」


 男の子が、『あっ!!』と顔をして慌てて言い換えた。


「じゃあ、その白い髪似合っててカワイイよ」


 光は、ウソで言ってくれている事は、わかっていた。だが今ままで、誰にもそんな事を言われた事がない。光の顔が、かぁーっと熱くなる。


 それが恥ずかしい光は、顔を逸らし何事もないフリをする。


「じゃあって・・・」


 男の子は、困った顔をして笑って誤魔化す。


「えへへへ」


 男の子が、立ち上がると光の顔の前に、手を差し伸べた。


「オレ、しん


 光は、目の前に差し伸べられた手を見て、『えっ』とした顔をして驚き。その手に光はソッと手を差し出し自分の名前を言った。


「光・・・」


 しんは、光の手を握りこぼれんばかりの笑顔で。


「これからは、光をいじめる奴から、オレが守ってあげるよ!」


「えっ・・・何でそんな事してくれるの?」


「だって、もうオレら・・・友達だろ!」


 その言葉に、光の心に風が吹き一瞬だけ時が止まったような気がし光は、はじめての友達が出来た事に、喜色を浮かべる。


 ——・・・友達。


 通学路を、光としんが並びながら歩く。光は、友達と一緒に帰る事がはじめてで、何を話していいか分からなくって困っていた。


 ——こんな時、何を話せばいいの?


 そんな光をチラッと見て、しんが口を開く。


「人間って、何でオレらがアームを食べるって、思ってるんだろーな。一緒に、給食だって食べてるのに」


 光は、浮かない面持ちでうつむき返事をした。


「あ・・・うっうん」


 話しているうちに、腹が立ってきたしんは、眉毛をひそめ怒り出した。


「だいたいさぁ、人間あいつら誤解してるよなーぁ。オレらは、あんなの食べなくっても、生きていけるっつーの。それにケガだってスグ治るのだって、自然治癒力が人間より優れてるってだけだろー。それなのにアイツら」


しんも、いじめられてるの?」


 光が聞くと、心が拳をギュッと握りしめ胸元に寄せた。


「ううん。もしそんな事してきたら逆に、オレがそいつを、いじめ返してやるう!」


 しんは、自分がカラスだとゆう事を引け目などミジンとも感じさせない強さに、光はあっとされる。それに対応して、自分はと考えると情けなく思えてきた。


「強いなぁー、しんは・・・」


「ん?」


「私は、そんなこと出来ない。もし私がやり返して、その子をケガさせちゃったらって、考えちゃう」


「本当に、光は優しいんだなっ」


 光は、顔を左右に振り哀しそうな目をしている。


「ううん。違う」


 その後光はヘラヘラと笑う。


「私がカラスって事で、お母さんに迷惑かけてるから・・・これ以上困らせたくないだけ」


 するとしんが、真剣な顔をして聞いた。


「なぁ・・・もし、死神みたいにオレらも、アームを食べられたとしたら、光はどーする?いじめた奴に、仕返しするかぁ?」


 光は、そんな事をゆうしんに顔色を変え怒った。


「そうゆう事ゆうから、誤解されるの!そもそもカラスの私たちに、そんなこと出来ないでしょ!」


 しんは、光の怒った顔を見て微笑み、からかう。


「真面目だなー、冗談だよ冗談。でも怒った顔も、可愛いねぇ」


 しんに『可愛い』と言われ真っ赤な顔になり、光のゆでダコのような真っ赤になった顔を見て、しんは笑らう。


「アハハ。光の顔がゆでダコになったぁ!アハハ」


 しんに、からかわれ光は、ほほを膨らませムッと怒る。


「もう、知らない」


 目に涙を、浮かべながら心は誤った。


「ごめん。笑うつもりはなかったんだぁ。でも真っ赤な光の顔を見たら、可愛いなって思っちゃってさぁ!」


「もういい。からかわないでぇ!」


「ごめんってばぁーー・・・」


 しんは、ちょっと変わった子だけど、光にとってはじめて出来た友達。

 何より一緒に、帰れた事が凄く嬉しかった。


 その日の夜。光が病院のベッドの上で目が覚め、ボーとしながら辺りを見渡すと、心配そうな顔をして、怖い顔をした若い男性が隣にいた。


「良かった」



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