第3話 君が出会う僕

グレーのポロシャツの背中の色を変えてしまうほどの汗をかきながら君は何度かスマホの地図アプリを確認しながら進んでいく。


その間に誰かとすれ違うことはなく、ひっそりとした住宅地をただ目的地である祖母の家を目指して歩いていく。


電波の状況が悪いのか、位置情報が安定せず先ほどから現在地点がうろうろと地図の上をさまよっていた。


そのうちどうやら掠れてはいるが、かつてこの地を訪れた時の記憶と違うことに君は気が付く。郵便局を前にして君は地図を見比べながら見当違いな方向へと来てしまったことを理解したのだ。


炎天下の中項垂れ、とりあえずと木陰に逃げ込みもう一度地図を確認する。


君と僕が出会ったのはこの時だった。


「どうしたんですか」


広島の独特のイントネーションで声をかけられ君ははっとして顔を上げた。


郵便局から出てきたのは、部活のせいですでに真っ黒に日焼けをした僕だった。


「もしかして宮島に旅行?」


「あ、いや」


広島県民の気安さと都会人の見知らぬ人への警戒心はあまり相性が良くなかったようで、君は少し困ったように、あいまいに返す。僕に頼るか自力でどうにかするか悩んでいるようだった。


「ここは宮内串戸、よう旅行客の人が間違えるんですよ。ほら、宮島の宮と早とちりして。駅のほう案内します?」


僕はこの時彼が旅行客だと思っていた。この辺では見ないおしゃれな格好と髪型をしていたし、色は白く華奢な体型と合わせて、テレビで見る最近はやりのバンドのボーカルのように見えたのだ。きっと東京の人だろうと僕は勝手に決めつけていたし、案外その想像は外れてはいなかった。


「いや、違うんです」


彼は、観念したように実は、と祖母の家を探していることを打ち明けてくれた。あとから聞けば、熱中症の症状も出始めており、この機会を逃してはきっとすぐに倒れてしまうと諦めたらしかった。


「実は祖母の家を探しているんです。今日からそこでお世話になることになっていて。でもうまいことアプリが現在地を教えてくれなくて、迷っていたんです」


「そりゃあ、大変じゃあ…、ちょっと見せてもらえます?」


僕の言葉に彼はおずおずとスマホを差し出した。


「ああ、廣田神社の傍じゃけえ、すぐ着きますよ。ほら、こっち」


僕はそう言って彼の重そうなキャリーケースを持った。

ずしっと来るその重さに、彼もたいがい疲れただろうと同情する。


「あ、いや、持ちます」


「ええよええよ。顔が真っ赤じゃ。しんどそうだし、これくらい」


僕が精一杯愛想の良い笑顔でそう返せば、彼は少し戸惑ったような顔をしながらも小さな声でありがとうと答えてくれた。


「ようこそ広島へ」





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